買い物終了
馴染みの果物屋を出た俺は、買った物を車の後部座席に乗せて、運転席に乗り込み次の買い物場所へと向かう。次は店が出来た時から利用していると聞いていた、業務用の食材を一般消費者向けに販売している、俗に言う【業務用スーパー】へと。
車のエンジンを掛け、お気に入りの音楽をBGMにしながら、果物屋から少し距離のある業務用スーパーまで車を走らせる。
運転中に俺は、先程思い付いたとある悪戯が成功した時の、店長やホスト達のリアクションを想像しては、顔をニヤケさせて独りクスクスと笑っていたりしていた。
やがて車は、目的の場所へと到着した。
俺は広めに設けられている駐車場の一画に自分の車を停め、助手席に置いてあった持参の買い物袋を握り、車を降りて店へと向かった。
店の入り口にて買い物カゴとカートを取り、店内へ。
野菜類から物色を始め、トマトや茄子、オクラなど季節の野菜を中心に必要な分だけカートの中へと移動させながら、店内を回っていく。
最後に冷凍食品の売り場へとやって来た俺は、そこに売られていた、牛タンのスライスを購入する事にした。これ、そのまま解凍させてフライパンで塩コショウで炒めると、良い酒のツマミになる。
その事を事前に知っていた俺は、本来店のメニューに使う食材では無いが、この美味しさを広めてやろう。そう思い購入を決めた。
「今日の賄い飯は、こいつを焼いて……牛タン丼にでもするか……」
本日の腹を空かせた若手ホスト達に食わせる為の賄い飯に、この牛タンを出して、こいつの美味さを広めてやろう。そう画策した。
その為に必要なネギを購入するために俺は、来た道を戻り店の入り口付近に設けられた青果売り場へと向かった。
目的の物を取り合えずは、一通り買えた俺は、まだまだ営業時間にはかなり早い時間ではあったが、このまま店へと向かう事にした。どうせ基本はキッチンとお客さん達からは、死角になり見えないカウンターぐらいにしか出ない俺は、Tシャツにズボンと言う出で立ちだったが、特に気にする必要も無いだろうと思った。
店長からも、別に服装は何でもいいよ。仕事しやすければ。そう言われている事出しな。
業務用スーパーから店へと向かう途中、車を走らせている道の先にドラッグストアの看板が見えて来た。俺はついでにとドラッグストアに少し寄り道する事にした。
ドラッグストアの中に居た薬剤師の人に目的の物が何処にあるのかを聞いてみると。
『ホウ酸ですか? 失礼ですが何に使用する予定で?』
まぁ薬品をそのまま買うからなのか、使用目的を聞いてきた薬剤師に俺は。
「あ~ほら、ゴキブリを殺すホウ酸ダンゴを作ろうかと」
そう答えた俺に向け、納得の笑顔を見せた薬剤師の案内の元、ホウ酸の購入も済ませた。
その後は寄り道する事も無く、店の近くにあるコインパーキングに車を停めて店へと向かった。
店の裏口に到着した俺は、店長から預かっていたカギを使い店の中へと入って行った。店の中は、飲み屋ならよくあるパターン通りに真っ暗だったので俺は裏口を入って直ぐの所にある、キッチンの照明スイッチを手探りで見付け出してキッチンに灯りを点した。
買ってきた物を調理台に一先ずは置いて、それぞれに適した場所へと収納していく。
特にフルーツには気を遣い冷蔵庫の冷風が吹き出す場所近くは避け、冷蔵庫焼けをしないように気を付けて納めた。
そして俺は、野菜室から玉ねぎを2つ程取り出し、早速ホウ酸ダンゴを作る事を始めた。こう言う店は、意外とゴキブリも多く生息している。まぁ慣れたら気になる物でも無いのだが、客は嫌がるだろう。実を言うと既に昨日の最後の片付け時点で、ヤツラの姿を何度か目撃していたのだ。
玉ねぎの皮を剥き、細かいみじん切りにしていく。途中で出る玉ねぎの汁も捨てずにボウルへと入れていった。
ヤツラは特にこの玉ねぎが大好物らしく、玉ねぎ独特の匂いを察知して、喜んで食ってくれる、食べたが最後脱水症状を起こし死んでしまう。そして、ホウ酸ダンゴを俺が愛用する理由は、毒エサを食ったゴキブリが仲間達に向け、ここには危険な物がある。と言うサインを出すからだ。このサインにより店にゴキブリが寄り付いてくる事を回避も出来る。
出来上がったホウ酸ダンゴをアルミホイルで作った皿に適量分けて盛っていきキッチンのヤツラが出てきそうな場所へと設置していった。その後余ったホウ酸ダンゴを同じように、アルミホイルで作った皿に盛りつけた物を10個ほど作った。
これは、今日の掃除の時にでも若手ホスト達に渡し、ソファー等の下に置いて貰う予定の物だ。
一仕事終わらせた俺は、カウンターの方へと向かい、グラスを一つ取り、カウンターの下に置いてある冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出し、グラスに注ぎキッチンの俺がこれから何度と無く座るであろうパイプ椅子に座り、コーラとタバコで休憩を始めた。