生誕祭
今日の営業は何故か知らないが店長から、営業開始後に来るようにときつく言われていた。
何があるのか知らないがまぁゆっくりと出勤出来るならラッキーだと思った俺は、何時もよりも遅い時間に裏口のドアのカギを開け直接キッチンに入った。
キッチンの中では、ひじき君がおり俺を待ち構えていたかのように入るなり腕を掴まれ。
「氷室さん早く早く!フロアの方に」
「おっおい何だよ?いきなり」
意外と力のあるひじき君に半ば引き摺られるようキッチンを越えてカウンターに出、さらに店のフロアへと導かれた。
店の雰囲気がいつもと違う。周りを見るまでもなく中央のフロアの四方に、シャンパングラスが高く積み上げられている。その数実に3つ。
この店のNo.1である【姫神楓】が座るボックス席の前には、三角形5段のシャンパンタワーが。
No.2の【早乙女和哉】が座るボックス席の前には、三角形10段のシャンパンタワーが。
そして……俺が担当している姫【真実】が座るボックス席の前には、四角形10段のシャンパンタワーが堂々と積み上げられていた。
フロアの真ん中に立たされた俺は、異様な雰囲気に呆然としていると、どこからともなく店長の声がマイクを通して聞こえてきた。
「当店の名物シェフであり、名物パティシエであり、名物ホストでもある【氷室吾朗】生誕祭の始まりです!!」
呆けて突っ立ってるだけの俺に、ひじき君が姫【真実】の座るボックス席へ座るよう促してきた。
促されるまま席に座ると開口一番。
「ちょこれ何?」
そう姫に聞いた。姫はサプライズが成功した事に無邪気な笑顔を浮かべ。
「店長さんやお店の全部のホスト達で考えたんだよ吾朗くんをビックリさせる為にね」
そこに店長がやって来てヘルプ席に座ると1本のシャンパンを見せてきた。
「どう?これ?氷室くんの【オリシャン】作っちゃった」
その手には確かに俺が手掛けたであろうフルーツの盛り合わせの画像を使った、オリジナルのラベルが貼られたシャンパンボトルが握られていた。
驚かされっぱなしている俺をよそ目に、マイクが姫神の横に座る姫へと渡ると。
「氷室くん初めて会った時にワガママを言ってごめんね、あのリンゴ美味しかったよ、お誕生日おめでとう」
その声を皮切りに、姫の目の前に積まれた三角形5段のタワーを築くグラスの中に、先程見せてくれた俺のオリシャンが注がれていく。
次に早乙女の横に座る姫【美幸】にマイクが渡る。
「氷室くん私の為に素敵な誕生会をプロデュースしてくれてありがとう、ささやかだけど今度は私がお返しする番だね」
そう言って三角形10段にもなるタワーにシャンパンが注がれた。
そして最後に俺の横に座る姫【真実】へと店長からマイクが渡されると。
「吾朗くんいつもありがとうお誕生日おめでとう、愛してるよこれからもよろしくね」
そう言って、四角形10段のタワーの中に俺のオリジナルシャンパンが注がれた。
横に座る姫からマイクを渡された俺に店長から一言なにか言えと言われた。
俺は立ち上がるとマイクを握る手に力を込め……
「本日は私のような者の為にこのような素敵なサプライズをありがとうございます」
「玲奈さん貴女のワガママのおかげで姫神と仲良くなる事が出来ました、ありがとうございます」
「美幸さん素敵な誕生日だったと思っていただけで、ありがとうございます」
「そして……俺の姫……素敵なサプライズをありがとう」
「【EDEN】へと遊びに来てくれる全ての姫達に……ありがとうございます!私は貴女達が来る事を心よりお待ちしております、そして……全ての姫達にこの言葉を送ります、クラブ【EDEN】にようこそ!私は姫達を歓迎いたします、Kitchenより愛を込めて!」
完
シャンパンタワーに必要なグラスの数とシャンパンの本数(およその目安)
三角形5段
グラス35個
シャンパン3本〜5本
三角形10段
グラス220個
シャンパン35本〜40本
四角形10段
グラス385個
シャンパン65本〜70本