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馴染みの果物屋の大将。

 「あ~大将【なかの真紅】って無い?」


 俺は顔馴染みとなっている果物屋に来ている。予想以上にフルーツの消費量が多い事と、店に元から置いてある果物の種類が少ない事。それらの事を解消する為に、手伝いのバイト2日目にして、早くも買い出しに来る必要が生じてしまっていた。


 『おっ! 吾郎ちゃん久し振り、またウチで果物を買う必要がある仕事に戻ったのか?』


 果物屋の大将が俺に気さくに声を掛けてきた。

この店は、俺がホテルのラウンジで働いていた時に、勤め先の先輩と言うか、同じホテルに入っていたフランス料理店の人に教えて貰った店だ。

そこら辺の町の果物屋って感じなのに、その手のプロがこぞって仕入れ先に選ぶ程、果物の種類を多く取り扱っており、この店に無いなら他の店にも無い。そこまで言われるような店である。


 そして、殆どの店は配達をして貰う事が多く、俺のように店舗まで来て買い物をする客は少ないようで、この店にちょくちょくと顔を出していた俺は、すっかり大将との仲も良くなり、顔と名前を覚えて貰えるぐらいにはなっていた。


 『【なかの真紅】か~今は無いな、でも【ムーンルージュ】ならあるよ』


 大将は、俺が欲しいと思っていた品種のリンゴが無かった事により、近い品種の別のリンゴの名前を挙げた。


 「【ムーンルージュ】か……まぁそれでいっか、取り合えず6個ちょうだい」


 【なかの真紅】【ムーンルージュ】と言う品種のリンゴは、普通の人が思い描くリンゴと言う物の概念を、見事に裏切ったリンゴなのだ。普通のリンゴと言えば、外側が赤く果肉は白。そう思う人が大多数だろう、しかし俺が欲しがってるリンゴは、外側は青色をしていて、果肉が赤いリンゴなのだ。意外と知られていなくて、これらを使ってフルーツの盛り合わせを作るとウケが良くなる。


 大将は俺の注文を聞いて、リンゴが並んで飾られている店の一画へと行き、注文した数だけをカゴに入れ、レジの台の上に置いた。


 他にも買う必要がある俺は、その後も店の中を回り欲しい果物を手に持った買い物カゴの中へと入れていく。

そして、まだ少し時期が早いであろう桃の売られている売り場に行き、並んでいる桃を実際に手に取り、一つ一つ俺が欲しい物に適しているかを調べていく。

そんな俺の様子を見付けた大将から、またしても声が掛かった。


 『あ~吾郎ちゃん、吾郎ちゃんが欲しがってる桃がどんな桃なのかは、分かるがまだちょっと時期が早いよ、そこに並んでるのハウス栽培物だから、固い果肉の桃は無いから』


 流石にそれなりに付き合いの長い大将なだけはある、俺が欲しいと思ってた桃がどんな桃なのか、しっかりと把握しているようだ。


 俺は、大将の言葉を聞いて、目当ての桃はまだ無い事を知り、桃は諦める事にした。果肉が柔らか過ぎる果物は、普通に食べる分には、熟していて甘味も強く美味しいのが定番なのだが【飾り切り】する事が大前提になる、カッティングフルーツの材料としては、あまり適していない。桃にもちゃんと果肉は甘くしっかりと固い桃もあるのだが、やはり初夏のこの時期にはまだ無かったようだ。


 『来月には【川中島白桃】と【黄金桃】の入荷が始まるから』


 「りょ~かい、それじゃ来月まで桃はお預けだね」


 そんなやり取りの後、俺は他の果物を見繕いカゴに入れてレジへと持っていった。


 「大将、領収書ちょうだい宛名は【EDEN】って名前でね」


 大将に領収書が欲しい事と、宛名の名前を告げると大将はレジ台に付いている引き出しの中から領収書の束を取り出し、俺が購入した物に対する領収書を書いていく。


 『何? 今度は飲み屋かなんか? 綺麗なお姉ちゃんいる?』


 大将がそう声を掛けてきた。俺は思わず声をあげて笑ってしまった。


 「綺麗なお姉ちゃんは居るけど、客としてね、今度の店は何とホストクラブなのよ」


 そう大将に残念だけど、大将は遊びに来られるような店では無い事を告げると大将も、理解したのか、俺に釣られて笑い声をあげた。

 

 お金を支払い、領収書を貰った俺は大将が詰めてくれた、果物が入ったビニールの袋を手に提げて、店を後にしようとした。


 『吾郎ちゃんまたね、吾郎ちゃんがまた買いに来るなら、吾郎ちゃん好みの物も仕入れしておくから』


 俺は大将のそんな気遣いを嬉しく思い、この店を知れた事と、大将と仲良くなれた事の幸運を素直に喜んだ。


 そして店から完全に外に出る時に、ふと何気無く店の商品棚に目を向けると、そこには手頃なサイズの【小玉スイカ】が並んでいた。

そのスイカを目にした時に、俺は少しだけまた悪戯心が芽生え、小玉スイカを2つ手に取り、引き返して大将の立つレジへと向かった。


 「大将ごめん、これ追加で」


 『あいよ、領収書はまた同じ名前でいいのかい?』


 大将は、領収書の束をまたレジ台の引き出しの中から取り出そうとしている。

これは、店に関係無く俺が個人的に、悪戯心で使用する為の物である事から、領収書は必要が無い事を告げ。

店長から預かっていた仕入れ金とは別にしてある、俺個人の財布から支払った。

昨日、フルーツの盛り合わせに感動した客が気前良く多目のチップをくれた事により、小玉スイカ2個分ぐらいは、全然懐も痛まなかった。


 「それじゃ大将、また来るね」


 最後に大将に声を掛けて、馴染みの果物屋を後にした。

↓↓↓↓こちらの作品もよろしくお願いします。

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