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無花果との激闘を終え……【参考画像あり】

 最後だと店長に宣言をした無花果を使った料理。

さっさと終らせる為に、タバコとカルピス牛乳の為に俺はキッチンに戻り直ぐに調理へと取り掛かる。


 小さなボウルを用意して、その中に冷蔵庫の中から取り出した生クリームを入れる。

調理器具が置いてある場所から電動の泡立て器を引っ張り出した俺は、生クリームを撹拌していく。


 緩めに角の立つぐらいまで撹拌した生クリームに牛乳で溶いた白味噌を加えて、軽く混ぜ合わせておく。


 ガラスの小皿の中にカットした無花果の実を二切れいれると、その無花果の上に生クリームと白味噌を混ぜ合わせて作ったソースを掛ける。


 フルーツに味噌と聞くと倦厭されがちだと思うが、これがまた味噌の塩加減と無花果の持つ甘味が口の中で渾然一体となり、何とも言えないクセになる味わいへと生まれ変わる。


 面倒な調理をするだけの気力が尽きかけていた俺は、最後の料理としては、無花果をそのまま出して終わり。とする予定だったのだが、その選択では何か負けた気分になる。等と自分の中で勝手な思いが湧き上がり、最後まで今までに中々味わった事の無い無花果を食べさせる。と言う考えをいつの間にか持っていた俺は、最後の料理にも一手間加えてみた。


 無花果の白味噌合えを入れたガラスの器を持って、カウンターに行き、店長を呼び出す。

 

 カウンターへとやって来た店長は、料理を見た後に俺に質問を投げ掛けた。


 『この上に乗ってるの何?』


 「生クリームと白味噌を合えたソース」


 俺は店長にそのまま普通に答えた。


 『味噌なんだ! へ~変わってるね、まっ氷室くんの作った物が不味い訳ないと思うから出してくるよ』


 そう言って銀のトレーに料理とその料理に使う為のカトラリーを乗せ、店長はカウンターから離れて行こうとする。


 『これで最後だよね? お疲れ様、本当に助かったよ』


 その店長からの労いの言葉を聞いた俺は、達成感を全身で感じて体中に漲らせていた気力が一気に抜けていくような感覚を覚えた。


 その場で座り込みそうになる体をカウンターに着いていた両手で支え。


 「まだまだ営業中だろ!」


 そう言って気合いを入れ直す。しかし、少しぐらいは休んでもいいかなと思い、ソフトドリンクの入った冷蔵庫の中から、牛乳とカルピスの原液を取り出し、グラス棚から取ったタンブラーに氷を入れて大好きなカルピス牛乳を作った俺は、キッチンの中に戻る。


 キッチンの調理台の上や流しの中には、洗い物をする物、片付けをする物が置いてあったが休憩が先だと、俺はパイプ椅子を取り出すと今日初めて、いつも座っている椅子へと腰を下ろした。


 調理台の隅からタバコと灰皿を引き寄せて、タバコに火を点け大きく煙を吸い込み吐き出した後に、タンブラーに口を付けカルピス牛乳を一口飲み干す。


 疲れが口の中で広がる甘味と共に落ちて行くのを感じた。


 ふと、調理台の上に視線を投げると使い切らずに残っていた無花果の実が見える。


 指で無花果の実を摘まみ口の中に放り込むと、爽やかで尚且つ濃厚な無花果独特の甘味が広がる。


 「やっぱ美味いよな無花果って……」


 そう言った後に目を閉じ、残ったタバコを楽しんでいった。

 

 その後もそれなりに忙しく、普通のオツマミやデザート類、フルーツの盛り合わせ等を作るはなから提供して行き、月末の週末と言う初めて体験するホストクラブの忙しさを乗り切った俺は、

ラストオーダーが終わった後に、少し疲れた体を引き摺りながらキッチンの後片付けを始めた。


 いつもよりも、多少の時間が掛かった片付けも終わり、その後は翌日の営業の為の簡単な仕込み等をしたり、食器棚の整理をしたりして店が閉店する時間まで過ごしていった。


 閉店後、若手ホスト達による店の後片付けをしているフロアへと移動した俺は、そんな若手ホスト達の姿を所在なさげに見つめていると。この店のNo.1ホストである【姫神】から声を掛けられた。


 『あっ! 氷室さんお疲れ様です』


 俺も姫神に「お疲れ様」と返事を返すと続けて姫神から。


 『今日の持ち込みしたフルーツの料理どれも最高でした! いやぁ~さすが氷室さんですよね』


 そう言われた。言われた言葉を頭の中で咀嚼した俺は。


 「あの無花果を持ち込んだのお前の担当する客か! この野郎~お前の客のせいで普段の三倍は疲れさせて貰えたぜ!」


 そう言って、カウンターに置いてあった使用済みのオシボリを姫神の顔目掛けて投げ付けてやった。


 その後は二人とも子供のようにじゃれ合いを始める。周りのホスト達や店長は、そんな俺達の姿を見て笑っていた。


 しばらくふざけ合いをしていると、姫神が。


 『そうそう! 忘れてた! これ氷室さんにって客から預かってたんだった』


 そう言って高級ブランドの高そうな財布の中から、姫神は数枚の一万円札を取り出して俺に渡してきた。


 『美味しい無花果を食べさせてくれたお礼です。今までにこんな料理は食べた事ありません。ありがとう……だったかな? そう伝えて欲しいって言われてチップも預かってたんだった』


 俺は姫神が差し出すチップを受け取り姫神に。


 「そのお客さんまた店に来るんだろ? その時に俺がお礼言ってたって伝えといてくれよ」


 そう言付けを頼んだ。


 チップなんてくれなくてもいい。お客さんからただ一言

『美味しかった』そう言われるだけで、全ての労力が報われる。

また次はもっと美味しい物を食べさせてみたくなる。


 つくづく俺は、料理を作る事が好きなんだと実感した。







【参考画像】

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 無花果は料理にも色々使えるから悩むわな。
[良い点]  チップなんてくれなくてもいい。お客さんからただ一言 『美味しかった』そう言われるだけで、全ての労力が報われる。 また次はもっと美味しい物を食べさせてみたくなる。  つくづく俺は、料理を…
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