無花果その3【参考画像あり】
「取り敢えずオーダーを全部こなしたし今のこのタイミングを逃さないようにさっさと目の前のコイツから解放されるとするか……」
俺は自分でカットして切り分けておいた無花果の実を一つ指で摘まんで目の高さまで持ち上げると、恨めしそうな視線を投げる。
「ここでフルーツの盛り合わせなんてオーダーが入って来られたら確実に俺の精神に支障来すわ」
そうと決めた俺は、頭の中で持ち込まれた無花果の実を調理する上で何個かリストアップしておいたメニューの中から、変わった物二品を提供して、この一連の無花果から解放される事にしようと思った。
「それじゃ早速……」
まな板の上に乗る1/4にカットされた無花果の実を二つ、更にペティナイフを使い1/8へとカットした後。
コンロに小さめのフライパンを乗せ火に掛けるとフライパンが熱せられたのを見計らい、極少量の油を垂らすと、その中にバターを二欠片落とす。
バターだけでも良いのだが、バターだけだとバターが焦げ付き茶色になりやすくなる。サラダ油を一緒に少量入れる事でバターの焦げ付きを抑える事が出来るからだ。
バターが溶けてバターの香りが立ち上るフライパンの中に1/8にカットした無花果の実を4つ円を描くように静かに並べた。
パチパチと無花果の水分が弾けて蒸発していく音を聞きなから、焦げ付かない事に細心の注意を払い、フォークをフライ返しの代わりに使用して、無花果の焼き色を何度も確認する。
無花果の白い部分に十分な焼き色が付くまでフライパンで焼いたら、フォークを上手く使い一つ一つひっくり返して反対側にも焼き色を付けていく。
無花果の実が焼き上がるのを待つ傍ら、白い陶器の深めの小さな小皿を用意した俺は、冷凍庫の中からバニラアイスを取り出し、大きめのスプーンを使いアイスを掬い小皿の中に盛り付けていく。
アイスクリームを盛り付け終わった頃には、無花果の実もしっかりと両面に焼き色が付き、余分な水分も飛んで丁度良い頃合いになっていた。
水分が飛び甘味が更に凝縮された無花果の実をアイスクリームを囲うように盛り付けた後、最後に彩り用のミントの葉を飾り、三品目の調理を終わらせた。
食器棚の中から鮮やかな清々しい水色の平皿を取り出し、盛り付けの済んだ小さな小皿を乗せて俺はそのままカウンターへと向かう。
カウンターに着いた俺は背後の棚の中から、小さなフォークとスプーンを二組ずつ取り出し、紙ナプキンの敷かれているカトラリーケースの中に入れ、カウンターに置いた料理の横に並べ置く。
いつものようにマイクを握り。
「店長リクエスト」
店長をカウンターへと呼び出す。
馴染みの客のテーブルに着いて接客をせずに、店内フロアを見て回っていたタイミングだったのか、店長は直ぐにカウンターへと姿を見せた。
「これ焼き無花果のアイスクリームよせ、無花果がアイスクリームで冷えきる前に、早く持っていって」
そう言って店長に皿を持っていくように伝えた後、皿を手にフロアに向かう店長の背中に俺は声を投げ掛けた。
「店長、次の料理が最後ね」
店長はこちらを振り向きはしなかったが、ちゃんと伝わったであろう事を確信して俺は、最新の無花果料理を作る為に、キッチンに戻った。
【参考画像】
無花果の生ハム巻き
無花果のソテーアイスクリームを添えて