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桃の美味しい季節到来

 ひじき君が外回りで見付けてきた客が店に初めて遊びに来た日から、かれこれ3日ほどが経過している。


 【まだ3日】とも言えるし【もう3日】とも言えるような、次の来店があるかどうか微妙と言える日時が経過していた。

当のひじき君は、他のホスト連中には【気にしていない】と言った感じに普段と変わらず、若手ホスト達のリーダー格らしい振る舞いをしていたが俺にだけは、少しだけ愚痴を溢していた。


 俺はホストから他のホストには言えないような愚痴も言って貰えるぐらいに、この店に必要とされ始めたんだ。と言う事に嬉しさを感じると共に、こんな良い子なんだから是非ともまた店に遊びに来て欲しい。そう思っていた。


 今日も俺は、何時もと何ら変わらない一日になると思い込んで、買い出しに行く時間に自分の部屋を出て、行き付けの果物屋に車で向かった。


 夏も本格的になり、エアコンを効かせた車から外に1歩出るだけで、途端に額に汗が滲み、サラサラとしていたTシャツも体に纏わり付いてくるぐらい汗ばんでくる。俺はそんな不快な状態から早く逃げ出したくて、冷房の効いてる店内へと早足で向かう。

店内は俺が想像していた通りの涼しさをしており、体の汗も一気に引いていく。


 「こんにちは大将」


 店の奥の貯蔵庫に行くための通路の横に設置されたレジ台の中に見慣れた大将の顔を見つけた俺は挨拶を送ると。


 『こんちは氷室君、あっそうそう桃入ったよ』


 と声を掛けてきた。俺は最初に【夏も本格的になってきたから桃の時期に突入したんだな】なんて事を思っていたが、少し経って自分から大将に桃は無いかと聞いていた事を思い出した。


 俺は大将が向ける視線の先にある商品棚の上に並べられた色んな種類の桃に近付き、固い果肉と言う特徴を持つ白桃と黄桃をそれぞれ5個ずつ程と柔らかい果肉で甘味の強い桃をこちらも、5個程、買い物カゴの中に入れ購入を決める。


 夏と言えばスイカ等のフルーツを思い浮かべる人が多いと思うが、俺の中では夏のフルーツと言えば断然に桃と巨峰である。


 今日のフルーツの盛り合わせは、桃をメインにした物を作ろうと、ほのかに甘い匂いを振り撒く桃を見て心に決めた。

その後は、定番になりつつあるリンゴやメロン、マスカットに巨峰にオレンジやキウイフルーツ等のフルーツを必要な分だけ購入した後、レジに居る大将の元に向かう。会計を済ませた後、大将も慣れてきたのか俺が何か言う前から、レジ台の引き出しから領収書の束を取り出すと、ボールペンを走らせて俺がバイトしているホストクラブ宛の領収書を書き、渡してくれた。


 俺はその領収書を大将から受け取り、また来るね。と何時もと同じ挨拶を残して店から出て車に向かった。


 買ったフルーツ類を車の後部座席に置いた俺は運転席に戻り、エンジンを掛けた後に真っ先にエアコンのスイッチを冷房最大で入れた。ほんの10分か15分程離れていただけなのに、車の中はサウナのような状態になっていた。


 次に何時もオツマミの材料等を買っている業務用のスーパーに行った俺は、店のメニューに載っているオツマミを作る上で必要な物、店に置いてあるストックの中から足らなくなりそうな物だけを買い物カゴに入れ店内を巡る。一通り必要な物をカゴに入れた俺は、レジに向かった。


 買い出しを終わらせた俺はまた少ししか経っていないのにサウナの中のようになっている車内の温度にウンザリしながら、店の近くのコインパーキングへと向かった。


 車を駐車場に停め、店に到着した俺はキッチンの準備を終わらせた後、普段ならこのまま若手ホスト達に食わせる賄い飯の準備に取り掛かるのだが、今日は先に買ってきた桃を使った物の仕込みに入った。


 柔らかな果肉の桃の白桃と黄桃をまな板の上に置き、愛用のナイフ3点セットを準備した俺は、まな板の上の桃を一つ手に取り、桃の特徴でもある真ん中に【お尻の割れ目】のように出来ている割れ目の線に沿って、ペティナイフを真ん中の種にナイフの刃が当たるまで入れた後、そのまま割れ目の線に沿って、ぐるりと桃に1本の切れ目を入れた。


 次に今入れた切れ目に対して90°の角度で同じように真ん中の種に刃が沿うように桃に切れ目を入れた後、桃を両手で包み込むように持ち、果肉が握り潰されないように慎重に力を加え、桃を左右に少しずつ回すようにして、種から果肉を剥がし半分にした。


 その後は同じような要領で更に4等分にした桃を、小さめの雪平鍋の中に、皮が下になるように並べ鍋の中に調理用の安物の白ワインを適量流し込む。冷蔵庫の中から、使い止しのレモンを取り出し、薄くスライスしたレモンを皮ごと3枚程鍋の中に投入して、鍋を火に掛けた。初めは弱火でワインが煮たってきたら、少しだけだけ火を強くして中火にして桃を白ワインで煮込む。


 桃は熱を加えられて直ぐに果肉がピンクに染まり始める。俺は、果肉の色が桃の果肉全体に満遍なく染まった頃合いを見て、また火を弱火に戻し、更に煮詰めていく。


 最後に、カウンターの裏の棚からガムシロップの瓶を持ってきて、適量ガムシロップを鍋に入れ、桃の白ワイン煮に甘味を足した。


 煮込み終わったら、鍋から桃だけを取り出し、煮込まれて果肉から直ぐに綺麗に剥けるようになっている皮を剥き、剥いた桃を小さなボウルに移し変えボウルの中に煮込み汁を静かに注ぎ、冷蔵庫の中に入れ冷やしていった。


 このまま冷やし続ければ【桃のコンポート】の完成だ。


 

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