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氷室からのエール

 試作品とは言え、ちゃんと客に出せるだけのクオリティを持つ俺が作った、チョコレート達は試食と言うだけの役目から実際に客に提供されると言う本来の役目を与えられる事となった。もちろん、ひじき君が言っていた通り、その客が店に来た場合は。と言う条件の下にではあるが。


 そしてホストクラブ【EDEN】の本日の営業が開始された。


 開店してからも、ひじき君は落ち着き無く何度も店の外に顔を出したり、カウンターの近くでソワソワしていたりと変な行動を取っていた。俺は普段ならさっさとキッチンの中に引っ込んでるのだが、本当に来るのか? と言う思いと、ひじき君の落ち着き無い行動が見ていて面白かった為、ずっとカウンターの内側に居た。


 30分ぐらい経った頃、店と外を繋ぐドアが開き客が入店してきたようだ。それを素早く感じ取ったひじき君は、少し慌てながらドアに移動して行く。


 俺が【来たのかな?】なんて思っていると、カウンターにひじき君がやって来て、店長と俺に向かい。


 『来ました』


 そう告げた。そっかちゃんと来てくれたのか、良かったなひじき君。そう思いながら、慌ただしく初回サービスで提供する事が出来る飲み物なんかの準備をするひじき君。俺はその姿を見て普段なら絶対にやらない、アイスペーレに氷を入れてやったり、カウンターの冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出してやったりと、ひじき君の準備を手伝ってやった。


 その後一時間ぐらい経過した頃に、客がトイレに行ったので、トイレから戻った時に渡すオシボリを取りに来た、ひじき君から、そろそろチョコレートのオツマミをお願いします。そう言われた俺は、ひじき君に微笑みながら頷き、オツマミを作る為にキッチンへと向かった。


 「さて……それじゃ作りますか」


 俺はエプロンの体の後ろで結んでいたヒモを一度ほどき、再度キツく絞め直して自分に気合いを入れた。


 白の皿を一枚取りだし、ピンク色の紙ナプキンをハートの形に折り皿に敷いた後、冷蔵庫の中から俺は、ビターチョコで作ったクマさんのジャンドゥーヤを2つ取り出す。その時にストロベリーチョコだけで作った、クマさんがまだ一つある事に気付いた俺は。


 「まぁ、従業員価格のサービス品みたいなもんだしな」


 そう思い、ビターチョコのクマさん2個とストロベリーのクマさんの合計3個のクマさんチョコを調理台の上に置いたまな板に乗せる。そして試作品を作る時に使った生クリームがそのまま使えるかどうかの状態を確認した後に、クッキー生地で出来たタルト容器3個に生クリームを詰めていった。


 クマさん達を乗せる器が出来たので、そこに静かにクマさん達を乗せていき、星やハートのチョコを飾りとしてクマさんの周りに過剰にならないように少しだけ乗せて、メインになる物を完成させた。


 皿に敷いた紙ナプキンの上にタルト容器をバランス考えて置いた後、カエルちゃんチョコもアクセントとして紙ナプキンの上に2個程乗せた。一応はこれで完成なのだが、俺はこの時に。


 「ひじき君の初めての客になるかもしれない客かぁ……」


 ふとそんな事を思った俺は、冷蔵庫の中からリンゴを一つ取り出して、ペティナイフでリンゴの上と下をリンゴの5分の1ほどずつ切り落とし、ペティナイフからカービングナイフに持ち変えて果肉を多目に皮に残すようにナイフを入れていき、中身をくり貫く。


 フタの付いていた方の切り落としたリンゴにカービングナイフで花びらのように見える飾り切りを施した後、くり貫いた果肉を適当なサイズに四角にカットして、リンゴの皮の器の中に詰め、皿の上に置いた後花びらを刻んだフタをリンゴに立て掛けるよう置いて、ちょっとだけサービスをした【クマさんチョコレート】を完成させた。


 完成したオツマミを持ちカウンターまで移動してきた俺に、店長が。


 『そのリンゴは?』


 そう聞いてきたので俺は店長に笑顔で。


 「ひじき君の最初の客になるかもしれないって事で俺からのサービス、リンゴ代はバイト代から引いといて」


 そう言うと、店長も笑顔を見せながら。


 『大丈夫だよ、また来てくれるかも知れないお客さんでもあるしね』


 と、リンゴの代金は必要が無いと言う事を言ってくれた。

その言葉を聞いた俺は、もう一つ考えていた事を店長に話してみた。


 「店長、これさやっぱブランデーやシャンパンに合わせるツマミなんだよね、飲み放題って確か焼酎だよね? でさ、一番安いシャンパンって従業員価格でいくらなの?」


 そう言うと店長は笑顔のままで、俺に【氷室君は本当優しいね】そう言った後に、一番安いシャンパンなら3,000円でいいよ。そう言ってくれた。


 俺はその場でズボンの後ろのポケットに入れてある財布を取り出し店長に3,000円を渡した。店長も受け取ってくれたので、心置き無くシャンパンも一緒に出せる。


 俺はカウンターの棚からシャンパンクーラーと安物のシャンパンを取り出して、氷と水を張ったシャンパンクーラーにシャンパンを突っ込み、シャンパングラスを2脚取ってからツマミが出来た時に何時もやる行程に入った。


 「東堂聖リクエスト」

 

 程なくやって来たひじき君は、クマさんチョコレートの上に飾り切りをされたリンゴが乗ってる事。シャンパンクーラーにシャンパンが1本突っ込まれている事などを、ゴチャゴチャと言っていたが。


 「いいから黙って持っていけ」


 俺がそう言うと、俺に礼と共に深く頭を下げシャンパンクーラーとチョコレートの乗った皿を持ち店内に歩いて行った。

その後ろ姿を見ながら俺は。


 「上手くやれよ……ひじき君」


 心の中で、ひじき君にエールを送った。

  

参考画像。


挿絵(By みてみん)

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