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初日~その4~

 若手のホスト達との仲も、まぁ一部を除きある程度の構築出来たと思った俺は、営業時間前にやるべき仕事に早速取り掛かる事にした。


 「さてと……そろそろ営業前の賄い飯を作るけど、食べる人は何人居るかな?」 


 これは店長との事前に話し合った時に決まった事だった。

若手のホスト連中は、兎に角貧乏である。そこで営業前の食事を若手ホスト達に提供してやって欲しい。そう店長から頼まれていた。

俺の賄い飯と言う言葉を聞いた若手ホスト達は、全員が手を挙げて食べると言う選択肢を選んだ。


 「ひい、ふう、みい……全部で7人ね、りょ~かい、ちょっと待っててな」


 そう言い残し、グラスに入れたお茶を一気に飲み干して俺はキッチンの中へと戻って行った。


 「さてと……何を作るかね~今日も暑いしトマトとナスの冷製パスタでいいか~簡単だし」


 ささっと賄い飯を作り上げ、ホスト達に食わせた。味の感想は概ね好評だったみたいで、先ずは何より。


 その後は世間話なんかをして過ごしていた。そして、店が開店する1時間ぐらい前になると、若手ホスト達はこぞって店から外に出ていく。街に繰り出して、仕事終わりのキャバ嬢や風俗嬢達に声を掛けお店に遊びに来てもらう為の営業活動に行くらしい。


 俺は誰も居なくなってしまった店の中、キッチンにパイプ椅子を置いて、タバコ吸ったりと時間を潰していた。


 暫く待ったりと休憩していると、店に店長がやって来た。

店長と挨拶を交わした後、店長は俺に店のキッチンから外に出られる裏口のドアのカギを渡してきた。


 『氷室くんに一応、裏口のカギを渡しておくね』


 俺は店長から受け取ったカギを自分が普段からベルトループにフックでぶら下げているカギ束のキーホルダーに追加しておいた。


 その後は店長と2人で、買い出しをどうするかと言う話し合いをして過ごした。食材の買い出しは、少し離れた場所にある【業務用のスーパー】で行う事。スーパーでは手に入らないフルーツ類等は、俺が昔から知っていて、融通と多少の値引きが出来る果物屋から購入する事が決まった。

店長は財布を取り出して、俺に取り合えずの仕入れのお金と言う事で5万円を渡してきた。


 「全部に領収書貰ってきますね、お金は預かります」


 当たり前の事だが、ちゃんと店長にお金を責任持って預かる旨を伝えておいた。


 若手ホスト達に賄い飯を食わせてやった事。後は、どんなオツマミが出やすいか。等諸々の話をしていたら。お店の営業時間の30分程前には、外に出ていた若手のホスト達も店に戻ってきた。

それに、お客さんを持っている雑用等を免除されている中堅から上位のホスト達も店に集まってきた。


 店長が俺の事をみんなに紹介すると言ったので、俺はキッチンから店のフロアへと出て簡単な自己紹介をした。


 『氷室くんは、ヒルテンホテルのラウンジで働いてたんだそうだよ、後フルーツの盛り合わせ、めっちゃ綺麗ですごいの作れるから、みんなもお客さんに話して頼むようにね』


 店長が俺の仕事を増やそうとしてる……出来たら面倒くさい事はしたくないのに……


 やがて開店時間を迎えたホストクラブはフロアの照明を落とし店も客を迎える準備を終わらせた。俺は開店に合わせてキッチンの中へと引っ込んで行った。裏方であるが故に、服装もカジュアルな私服しか着てない俺は、極力フロアから見える場所には出ない方がいいだろう。

  

 キッチンに置いた椅子に座り仕事が来るのを待っている俺の耳に、何人かの客を迎えるホスト達の挨拶が聞こえてくる。

意外と客が来る店なんだな。もっと上位ホストの客頼りの店かと思っていたが。


 そんなような事を考えていた時に、1人の若手ホストがキッチンに顔を出して俺に声を掛けた。


 『氷室さん、オイルサーディンとカマンベールチーズお願いします、テーブル番号は3番です』


 俺は、そのオーダーを手元に置いていたメモ用紙に素早く書き付けた後、早速オーダーに取りかかった。


 先ずは料理の基本から……石鹸を泡立て手を洗った後に、オーダーに使う食材の準備から始めた。


 ここで、俺は少しだけ引き継ぎした時の出来上がりから、少しだけアレンジした物を出してみたらどうなるのか? と言うイタズラ心が湧いてきていた。


 先ずはカマンベールチーズの盛り合わせから始めるか……

市販の6ピースに切れているカマンベールチーズを2枚の皿に3つずつに分けて盛り付ける。片方に薄くスライスした玉ねぎを合わせ、オリーブオイルを回し掛けた。

もう片方の皿に盛ったカマンベールチーズには定番のハチミツを掛ける。本来はハチミツを掛けただけの物を提供していたが、遊び心でカマンベールチーズのマリネ風の物も出してみよう。そう思った。


 次にオイルサーディンの缶のフタを開け中にスライスした玉ねぎをイワシが見えなくなるのうに敷き、少量の醤油を垂らし缶ごとガスコンロの上に置きオイルが煮立つぐらいまで過熱する。

その間に、皿の真ん中に塩を大量に盛り付ける。

温めたオイルサーディンの缶をその塩の上に置いた後、塩にアルコール度数70%のウォッカを少量染み込ませた。


 俺は出来上がったオーダーを持ちキッチンからカウンターへと移動する。カウンターには事前に教えられた通り、マイクが置いてある。そのマイクを握った俺は、マイクを口に近付け。


 「3番リクエスト」


 そう告げた。マイクは店内のスピーカーに繋がっていて、俺の声が店内に響いた。

俺の声を聞き付けた、3番テーブルに座っているヘルプ役として着いている若手のホストがカウンターまでやって来る。俺は出来上がったツマミと、フォークを何本か入れたカトラリーケースを一緒にホストに渡した後、そのまま席に戻ろうとするホストを呼び止め。


 「これ、こっちは今まで通りのハチミツが掛かってる、でこっちはスライスした玉ねぎとオリーブオイルを掛けてマリネ風にしてあるから。後、オイルサーディンだけど、この土台にしてる塩にウォッカ掛かってるから、お客さんの前に出した後でライター使って塩に火点けて」


 『了解です』


 そう言ってホストは俺がこの店で初めて作ったツマミを2品持ってテーブルへと戻って行った。


 さて、お客さんウケはどうだろうか……俺は無断で仕込んだ遊び心が受け入れられるかを楽しみにキッチンへとまた戻って行った。


 

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