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店長にお披露目

 出来上がったチョコレートのオツマミを、盛り付けしたお皿ごと冷蔵庫の中にいれ、出番が来るまでそのままにしておく。

エアコンが効いてるとは言え季節は夏だ。万が一溶けて形等が崩れでもしたら全てが台無しになってしまう。


 その後、後片付けをしている最中に客と一緒に店に来る同伴出勤の予定の入っていない中堅から上位のホスト達が店へと出勤してきた。


 そして何時もであるならば、俺の方からカウンターに顔を出して挨拶をしているのだが、この日は出勤してきたホスト達の何人かが、向こうからキッチンに顔を出し俺に声を掛けてきた。


 『氷室さんおはよ~っす、今日の賄いってカレーだったんですか? フロアに少しカレーの匂い残ってましたよ』


 「おっおはようさん、本当? 消臭スプレーふっとくわ、教えてくれてありがと」

 

 そんなやり取りの後も、普段であるなら直ぐにキッチンから出ていくはずのホスト達が出ていかず残っている。

俺は、訝しんでそんなホスト達の様子を伺っていると、その中の一人が声を更に掛けてくる。


 『氷室さんカレーってまだ余ってます?』


 「うん? そこの鍋にまだ入ってるけど?」


 『俺達も食っていいですか?』


 まぁ別に店長からは【賄い飯を作って欲しい】とは言われているが、そこに若手のホストだけに。なんて条件も入ってない事から、何の気も無しに。


 「いいんじゃないか? でも皿は自分で洗えよ」


 そう言って、カレーを食べてもいいと許可を出し途端に、キッチンに来ていたホストの一人がカウンターの方に向かい。

カレーがまだある事、食べてもいい許可が出た事を伝えたのか、更に数人のホストがキッチンに押し寄せてきた。


 「どんだけカレー好きなんだよ……お前らホストって奴等は……」


 そんな独り言が自然と口に出てしまっていた。


 そんな風にカレーライスと言う賄い飯による、ちょっとした騒動の中、店長が店へと出勤してきたようで、表に殆ど人が居ない事と、何時もよりも騒がしいキッチンの音を聞き付けたのか、店長もキッチンにやって来た。


 『『あっ店長、おはようございます』』


 カレーライスをガツガツと食っていたホスト達に続いて俺も店長に挨拶をした。


 「店長おはよう、なんか賄いにカレー作ったら、コイツ等も食いたいって、別に良かったでしょ?」


 そう言うと店長は、問題無い事を俺に伝えた後、未だにカレー鍋の周囲に居るホスト達に向け。


 『後で俺も食うから残しとけよ』


 そう言った。店長までもか……と俺は少し呆れてしまう。


 俺は店長がキッチンに居ると言う事から、丁度良いと考えて入り口付近に居た店長を手招きで、俺の近くに呼び寄せた。


 「店長が言ってた、オツマミ作ってみたよ、試作品あるから」


 そう言って俺は、冷蔵庫のトビラを開け白い小さな皿に盛り付けられているクッキー生地のタルト容器に乗ったチョコレートのクマさん、周りに散りばめたカエルちゃんやハートや星が乗った皿を取り出して、店長の前に置いた後、作った物の説明を始めた。


 「えっと色々と考えたんだけど女性にウケる物、ホストクラブで良く飲まれるブランデーやシャンパンに合う物って条件で、決めたのがコレね。コレは試作品だから、甘いチョコレートと苦いチョコレートを1種類ずつ作ってあるけど、客が飲んでる物に合わせて、甘いだけ、苦いだけなんて組み合わせは出来るから」


 俺の説明を聞いていた店長は、皿の上に乗った、クマさんやカエルちゃんのチョコレートをマジマジと見つめ。


 『氷室君、また女の子のウケ良さそうなの作ったねぇ、これ作るのに手間どのぐらい掛かる? 後、原価は?』


 「ん~それなりに時間は掛かるけど作り置き出来るから、客に出すなら直ぐに出せるよ、後、このクマさんで一個150円ぐらいかな」


 『氷室君! 採用! 来週からメニューに載せるから、作り置きの方よろしくね』


 そう言ってきた。店長からの合格が貰えたクマさんやカエルちゃん達は、晴れて客である女の子達を喜ばすと言う役割を果たせる事となった。


 「あ~まぁ普通のチョコレートだけど、一応試食どうぞ」


 俺が店長に、味見をするように促すと店長は、食べるのが勿体ないね。等と言いながらクマさんのチョコレートを土台にしている生クリームが入ったタルトごと口に入れる。

味わうように食べていた店長は、口の中のチョコレートを飲み込んだ後に。


 「このクマさん? なんか普通のチョコレートって感じしなかったけど?」


 そう言ってきた、俺はその言葉を聞いて店長って意外と味の違いとか分かる人なんだな。と思い、違いを教える。


 「あ~これチョコレートはチョコレートなんだけど、チョコレートにペースト状になるまで砕いた、ヘーゼルナッツを混ぜ込んである【ジャンドゥーヤ】って名前のチョコレート菓子だから、名前も女の子が好きそうな、オシャレな名前でしょ?」


 『ジャンドゥーヤ……ジャンドゥーヤ……』


 店長は俺から教えて貰ったクマさんの形をしているチョコ菓子の名前を何度か呟き、覚えようとしているらしい。きっと客に説明する時にでも使うんだろう。そう思った俺は、店長の為にもう少し詳しい話もしてやろうと思った。


 「店長【ジャンドゥーヤ】はイタリアのお菓子作ってる会社が考えたチョコ菓子なんだよ。後、チョコに練り込まれているヘーゼルナッツは【ハシバミ】って名前の樹に実るドングリに似た実で、栄養満点で美容にも良いんだよ」


 『なるほど……氷室君悪いけど紙に書いといてよ、お客さんに説明する時に使うから』


 そんな店長の言葉に俺は頷いて答えた。

 

 

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