カレーライスとチョコレート
チョコレートの仕込みを全て終わらせた俺は、余ったチョコレート達をそれぞれ種類ごとに小さな保存容器に移して冷蔵庫の隅に置いた。この今日作ってる新しいオツマミが採用されたら、また使う事もあるだろうし、採用されなくても色々と使い道があると思ったからだ。
そして、ボウルや使った調理器具を洗った後、何時もの畳んで壁と調理台の間のすき間に突っ込んで収納している愛用のパイプ椅子を取り出し、調理台の前に置いて腰を下ろした。
後は、若手のホスト達が来たら、賄い飯のカレールーをもう一度温め、店長が来てから新しいオツマミの仕上げに取り掛かる。それまで特にやる事も無かった俺は、飲み物を飲んだりタバコを吸ったりと、まったりした時間を過ごす。
やがて若手ホスト達の出勤してくるであろう時間になった俺は、先を見越して、カレールーが入っている鍋を火に掛けて、ゆっくりとお玉で混ぜながら温め直しを始める。温め直しを始めて直ぐぐらいの時間に、店の表であるフロアに人が歩く足音や話し声が聞こえてきた。若手のホスト達が店にやって来たようだ。
俺は若手のホスト連中に挨拶をする為に、鍋の火を止めキッチンからフロアに顔を出すと。
『あっ氷室さんおはようございます』
等と俺の姿を見た若手ホスト達が先に挨拶をしてきてくれた。
「おはよう、みんな今日の賄いは、カレーライスな、ちゃんと手作りした物だから」
そう言って今日の賄いメニューを教えてやると、若手ホスト達から軽く喚声が上がる。俺はそれを聞きながら。
「お前らハンバーグと言いカレーと言い、はしゃぎ過ぎだろ子供かよ……」
そんな思いを心の中に苦笑いを浮かべ、またキッチンに戻りカレールーの温め直しを再開させた。
炊き上がったご飯を【どうせ全部ペロリと食うだろアイツ等なら】と言う考えの元、皿の半分をカレールーを入れる為に空けて山盛りに盛り付けて、冷蔵庫から取り出した溶けるチーズを少量ルーを入れる為に空けておいたところにまぶした後、アツアツのカレールーを皿に盛る。
カレーライスからは、スパイスの効いた良い匂いが立ち上ぼり、それを嗅いでるだけで食欲が湧いてくる。俺は人数分の山盛りご飯のカレーライスを盛り付けた後、両手に1皿ずつ持ち、キッチンからカウンターへ何往復かして運ぶ。
マイクを握り何時もと同じように、賄い飯が出来た事を知らせ若手ホスト達に賄い飯を食わせた。案の定ヤツ等は山盛りに盛ったご飯も残しそうに無いぐらい、忙しなくスプーンを動かしていた。
若手に賄いを食わせる。と言う俺がこの店で行うべき仕事の内、重要な2つの仕事の1つを終わらせ、この後店にやって来る店長に、出す新しいオツマミの試作品を、完成品にしようかと思っていたところ、若手のホスト達が次々にキッチンに顔を出して、賄い飯のお礼と外回りにこれから出ると言う挨拶をしてきた。俺はそれらに応えた後、一人残った店で自分のやるべき仕事に集中していく。
冷蔵庫の中から、生クリームが入っている紙パックの容器を取り出し、ボウルに移し変え上白糖を加えた後、泡立て器を手に、ひたすら泡立て器を動かし生クリームを立てていく、額に汗が浮かぶぐらいになるまで撹拌を繰り返し、生クリームが少し固まってきたところで、レモンの果汁をほんの少し加えて更に生クリームを立て生クリームを仕上げた。
次に冷蔵庫で冷やし固めておいたチョコレート達を全て取り出し、型から慎重に割れたり欠けたりしないように、1つずつ外していった。外したチョコレートで出来た、クマさんやカエルちゃん、ハートや星の周りに出来た【バリ】を爪楊枝を使い丁寧に取り、新しいオツマミのメインになる物が、ようやく完成した。
買ってきておいたクッキー生地のタルト容器を、袋から取り出して調理台の上に並べた後、固めた生クリームをスプーンで掬い取りタルト容器の中に詰めていく。時々、タルト容器が割れない事に注意して力を加減して調理台にトントンと叩いて振動を与えながら、すき間が出来ないよう、詰める。
生クリームが詰まったタルトの上に、ゆっくりと慎重にチョコレートで作ったクマさんを乗せ空いてるすき間に、ハートや星のチョコレートも飾りとして置いていった。
ミルクチョコレートとビターチョコレートで作られたクマさんが乗ったタルトを、紙ナプキンを敷いた皿の上に盛り付け、その周囲に抹茶チョコレートで作ったカエルちゃんや、余っているハートや星のチョコレートを見映え良く盛り付けて、店長から言われていた【新しいオツマミ】を完成させた。