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スペシャル賄い飯

 キッチンに置いたパイプ椅子に座り休憩を取っていた俺は、壁に掛けている時計の針を見た後に立ち上がり、パイプ椅子を畳んで隅っこに立て掛けた。


 そろそろ若手のホスト達も店にやって来る時間だと。判断した俺は、先程まで行っていた賄い飯の仕込みの続きである、調理に取り掛かる。


 先程仕込んで寝かせておいたミンチ肉を成形した物を、熱したフライパン2つにサラダ油と少量のバターを入れ、バターが溶け切ったのを見計らい、ミンチ肉の塊を4つずつフライパンに並べていった。


 火加減を調節しながら、片面に焼き色が付くまで焼いた後、フライ返しを使って、ひっくり返した後、フライパンにフタを被せて、焼き色を付ける事とミンチ肉の中まで火が通るようにと、少し蒸し焼き状態にして加熱していく。


頃合いを見て被せていたフタを取ると、良い牛肉のミンチ肉を使っているだけあって、程よく脂が溶け出して揚げ焼きに近い状態になっていた。


 フライ返しを焼いているミンチ肉の下に差し入れて少しだけ浮かせて、覗きこむように表面の焼かれ具合を確認していく。


 「うん、良い焼き色付いてるな」


 そう言って俺はまたフライ返しで全ての物をひっくり返した。


 そして火を弱火に落とした後、用意してあった皿に炊きたてのアツアツご飯を盛る。


 そんな調理をしていた頃に若手のホスト達が店にやって来たのだろう店へと続くキッチンとカウンターを繋ぐ出入り口の方から、何人かの人が話す声が聞こえてきた。


 この後、若手ホスト連中は店の開店準備の為に、店内の掃除を始める、そしてその後に賄い飯を食べて、日課の外回りへと出掛けて行くだろう。俺は、アイツ等がゆっくりと食べられる為に必要な時間を少しでも多くしてやろうと、調理の手を早めた。


 皿に盛った炊きたてご飯の上を、しゃもじを使い少しだけ平らにして、その上に物を置いた時の据わりを良くした。


 こんがりと良い焼き色が裏も表も付き、しっかりと中まで火を通した、ミンチ肉だった物、ハンバーグを俺は、1枚ずつ、皿に盛ったご飯の上に置いていく。


 「さて、ここらからは少しだけスピードアップしないとな……」


 この後も調理行程は残っているのだが、ダラダラと時間を掛ければ掛ける程に、ご飯とハンバーグの熱が冷めて行く。


 俺は、2つのハンバーグを焼いていたフライパンの中に残っている、肉汁や脂等が溶け出した汁を小さな雪平鍋の中へと移し変える。そして冷蔵庫の中から卵を1人に付き1個ずつとして、まだ表面には脂や油の膜が張られているフライパンの中に黄身が潰れないように割り入れて焼いていく。


 目玉焼きが出来るまでの時間で、先程使った玉ねぎの切り残しを、またみじん切りにして、雪平鍋の中に投入しておいた。


 程なく、白身が焼けて固まり黄身はまだまだ半熟状態に焼けた、目玉焼きをフライ返しで、先程皿に盛ったハンバーグの上に重ねて置いていく。


 全ての目玉焼きを皿に盛った俺は、フライパンを1つだけ残し、もう1つのフライパンは使用しない事から、流し台の中においておいた。洗い物は調理が終わってからするつもりだったから。


 そして、残したフライパンをまたガスコンロの火にかけて、ほんの少しだけ残しておいた、ミンチ肉と炒めた玉ねぎをフライパンの中に入れた後、木製のヘラを使い炒めながら、ハンバーグとは違いミンチ肉を解すようにしていく。


 ミンチ肉の色が変わった段階で、小麦粉を少しずつフライパンの中に入れ、炒めてルーを作る。出来上がったルーに雪平鍋に移しておいた肉汁や脂が染み出たエキスを少量ずつ入れてはよく混ぜ、混ぜてはエキスを追加してまた混ぜる。と言う行程を繰り返し、ルーを伸ばしていった。


 伸ばし終えたルーに冷蔵庫の中から買ってきておいた、紙パックの野菜ジュースの中身を少し加えて、ソースに野菜の持つ旨味とジュースに含まれる甘味を加えていった。


 今作っているソースの中には、ワインやビール、コーラ等を入れる人も居るらしいが、俺は野菜の旨味もプラス出来る為に、いつも野菜ジュースを使っていた。


 ルーが一煮立ちした後、ガスコンロの火を止めた俺は、出来上がった【グレイビーソース】をフライパンから直接、調理台の上に並べられている、ご飯とハンバーグと半熟目玉焼きが盛られた皿に、ソースを掛けていった。


 後は、冷蔵庫の中からフルーツの盛り合わせを作った時に余ってしまったパイナップルの切り身とプチトマトを彩りとして皿に盛り。


 特製【高級黒毛和牛ハンバーグのロコモコ】を完成させた。


 出来上がった、客からのチップで買ってきた高級黒毛和牛のミンチ肉を使って作った賄い飯を持ち、キッチンからカウンターへと運び、カウンターの上に並べていき、カウンターのグラス棚に付いている引き出しを開けて、カレースプーンを皿に差した後、何時ものように、マイクを使って若手ホスト達に賄い飯が出来た事を報せた。


 俺は、マイクで賄いが出来た事を告げた後、また直ぐにキッチンへと戻り冷蔵庫のトビラを開けて、小さなボウルを1つ取り出した、このボウルの中身は昨日の誕生日パーティーで出したメロンで作ったカエルちゃん。を作る上でくり抜いたメロンの果肉が入っている。それを持ってカウンターへと戻ると、若手のホスト達は既に集合しており、ガツガツとスプーンを動かして賄い飯を、かっ食らっていた。


 「余り物の処分と言う名のデザートな」


 そう言って、メロンの果肉がそこそこの量入ったボウルをカウンターの上に置いた。


 「はい、みんなちょっとだけ、スプーン動かす手を止めろ」


 俺がそう声を掛けると、全員がスプーンを止めて一斉に俺に顔を向けてきた。全員が俺の方を向いている事を視線を動かして確認した俺は。


 「今日の賄い飯は、特製のロコモコな。このロコモコに使われているハンバーグは、高級黒毛和牛のミンチ肉を使ってるから、なんと100gで500円もするんだぞ! そして、この高級肉を買う為の資金は、昨日の主役だった美幸さんから俺が貰ったチップから出してある、これは皆もパーティーを盛り上げたんだから、当然受け取る権利があると判断して、今日の賄い飯を豪華にして還元しようと思ったからだ、美幸さんに感謝して味わって食えよ」


 俺の説明に若手のホスト達は。


 『うおー! 高級黒毛和牛!』


 『なんか美味いと思った!』


 『美幸さーん! ありがとうー!』


 『氷室さん! 最高!』


 等と好き勝手な事をほざきながら、スプーンをまた動かし始めた。俺は、そんな調子の良い奴等を放置してキッチンに戻る。


 キッチンに戻った俺は、何時もにも増して、やりきった感を感じながら、流し台に向かい洗い物に取り掛かった。


 

 

本日は私用が立て込んでいる為に、お昼時の更新はありません。

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