スペシャル賄い飯の仕込み
早乙女和哉の客である女性の誕生日パーティーは、大盛況の内に終わった。
何を思ったのか知らないがライバルと呼べる立場のはずのNo.1である【姫神 楓】までもが、お祝いムードを出しており、自腹で安物ではあるがシャンパンを複数本頼み、早乙女の客へのプレゼントとして【シャンパンタワー】を行った。
店内に鳴り響くマイクを握り音頭を取る若手ホストのシャンパンコールを俺はキッチンの何時ものパイプ椅子に座り漏れ聞こえる声に耳を傾け、楽しそうなパーティーになって良かった。そう感じながら過ごしていた。
その後も他の客をも巻き込む形で、その日の営業は大いに盛り上がり、パーティーと言う雰囲気に飲まれた他の客の財布のヒモも緩んだのか、客を呼べたホスト達全員が普段より売り上げを伸ばす事が出来たと言う事を、俺は閉店後に店長から教えて貰った。
そして大盛況のバースデーパーティーは、主役の女性の担当をしているホスト【早乙女和哉】が歌う【ラストソング】と共に幕を降ろした。
キッチンの後片付け等の雑務を終わらせた俺が店を後にしようとしていた時に、店長に呼び止められた。
『氷室君、今日は素敵な贈り物をありがとう、これ技術料と美幸ちゃんから預かってた氷室君へのお礼のチップね』
そう言って俺に白い封筒を渡してきた店長に。
「プレゼントと言う贈り物にお金は必要ありませんよ」
そう言って技術料等と言う物を固辞した。しかし店長は、美幸と言う名前の女性から預かったチップだけでも受け取れと、何度も言って来るので突き返す方が、失礼だと感じた俺は、チップだけを有り難く受け取った。
そして明けて翌日。
俺は何時もの如く、夕方前に部屋を出て大将が営む果物屋と業務用のスーパーを回り必要な物の買い出しを済ませ、買った物を店まで運び、冷蔵庫の中に入れた後そのまま店を出た。
そのまま、部屋へと戻らずに俺は少し離れた場所にある地元では超有名なステーキハウスが経営している精肉店へと向かった。
この店は自身が経営しているステーキハウスでも使用している、上質な肉の切り落としやミンチ肉等を、普通に買うよりも比較的安く提供している店だ。
俺は精肉店の前の駐車場に車を停めて、店の中に入って行った。
店の中は入って直ぐの正面にガラス張りの巨大な冷蔵ケースが置かれていて、その中に色んな種類の肉や、少し変わった種類の肉等が並べられていた。
俺は、ケースの向こう側に立っている店員さんに声を掛けた。
「すみません、この黒毛和牛のミンチを2250g、国産豚肉のミンチを950g下さい」
『はいは~い、少しお待ち下さいね~』
主婦の方だろうか? 陽気な声で俺の注文に応えてくれた。
肉を計り売り出来る秤の上に置いていき俺の注文通りの量を、牛肉と豚肉のミンチそれぞれ分けて包んでからビニール袋に入れて渡してくれた。
『えっと、牛挽き肉がグラム500円だから、11,250円……豚挽き肉がグラム150円で1,425円……合計で12,675円だから……12,600でいいよ』
そう言ってオマケをしてくれた。俺は店員さんにお礼を言ってから個人の財布を取り出してお金を払った。
買い物も終わったので、再び車に乗り込み店へと向かう。
「流石に国産の黒毛和牛のミンチ肉だけあって高いな……まぁでも昨日の誕生日パーティーで貰ったチップがあって助かったか……」
そう独り言を溢していた。
今日俺が作ろうとしている賄い飯は、全部自分の財布からの持ち出しで作る。これは、誕生日パーティーの為の仕込みの時に、若手のホスト達に賄い飯を食わせてやれなかった事と俺だけが貰ったチップを賄い飯と言う物に形を変えて、若手のホスト達にも分けてやろう。そう思ったからだ。
店に到着した俺は、何時もの様にキッチンが使えるように前準備を終わらせてから、早速賄い飯の仕込みに取り掛かる。
先ずはキッチンに置いてある1番大きなボウルに買ってきた牛ミンチ肉と豚ミンチ肉を入れて軽く混ぜ合わせる。
次に冷蔵庫の中から、玉ねぎを取り出しみじん切りにしていった。
流れる涙に負けじとみじん切りにした玉ねぎを、熱して油を敷いたフライパンに投入して、フライパンを振りながら、玉ねぎが透明になるまで炒めた。
炒めた玉ねぎを挽き肉を入れたボウルの中に入れ、次いでパン粉と牛乳を加えて、手で具材がしっかりと混ざり、粘り気が出るまで、こねていく。
そうして出来たタネを適量手に取り中の空気を抜くようにしながら形を整えて、トレーの上に並べていった。
これで取り合えず今出来る仕込みは終わった俺は、カウンターに行き、愛飲しているカルピス牛乳をグラスに作り、キッチンの調理台の前に置いたパイプ椅子に座り、タバコを吹かしながら、賄い飯を実際に作り始める時間まで、休憩を始めた。
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