誕生会
すみません。めっちゃ早乙女と工藤を間違える。と言うミスをしでかしておりました。ご指摘を受け修正いたしました。
ホストクラブ【EDEN】今日この日この時に集まった全てのホスト達そして裏方として店を支える店長と臨時のバイトである俺。
全員から祝福を受けながら、店の中を担当ホストである店のNo.2早乙女和哉にエスコートされながら、主役の女性が進む。
彼女はここまで盛大に祝って貰える事など想像してなかったのだろう大きな驚きと、ほんの少しの戸惑いを顔に浮かべ、それでも周りに笑顔を振り撒きながら歩いて行く。
予め用意されていた1番テーブルに座った彼女は、きっと今頃テーブルに置かれているチョコレートの噴水を見て、驚いていた。彼女の姿は俺が立っている場所からは全く見えないが、声だけは俺が立つこの場所まで届いた。
『な……何このチョコレート……工藤くんコレ何?』
『美幸さん、内緒に決まってるでしょ?』
彼女が店に遊びに来た時には、必ずヘルプに着くと言う工藤龍と美幸と言う名前で呼ばれる主役の女性とのやり取りが聞こえてきた。
そして少し経った後、工藤が席を離れてカウンターまで戻ってくると、カウンターの上に置かれている自身が購入したバースデーケーキに手を掛けた。その時店長から予想外な言葉が俺に向けられ発せられた。
『氷室君、このメロンで出来たカエルのフルーツの盛り合わせを、お客さんの元に運んでよ』
俺は始め店長が何を言ってるのか理解が出来なかったが、理解が及ぶと慌てて店長に答えた。
「え? 嫌ですよ、店長が持っていく予定だったでしょうが」
俺の拒否する言葉を聞いた店長は、笑顔を浮かべたまま、更にこう言ってきた。
『俺は、早乙女からのプレゼントでもあるシャンパンを運ばなきゃいけないし、それにこんな素敵な可愛らしい物をプレゼントしたのが誰なのか、店としても紹介はしないとね』
店長の言葉を横で聞いていた工藤も、俺に。
『氷室さん俺からもお願いします、これ美幸さんに氷室さんが届けてあげてくださいよ』
二人の男から詰め寄られた俺は、二人の熱意に負け……
「運ぶだけだからな」
そう言って、カウンターの内側からフロアの方への移った。
俺はこの時、特に緊張等はしていなかったが、今日は何時もと比べて比較的に普通の格好。デニムのGパンと黒のTシャツと言う出で立ちだった事に安堵した。流石にバースデーパーティーの場に、フルーツの盛り合わせを運ぶだけだとは言え、ハーフパンツやサンダル履きが相応しくない事ぐらいは理解している。
そしてカウンター席に集まっていた他のホスト達の中から、ひじき君が進み出て、カラオケ用のマイクを1本握り、俺達より先に1番テーブルへと向かった。ケーキとフルーツの盛り合わせを届ける時に早乙女がカラオケで、バースデーソングを歌う事になっており、それに合わせてケーキとフルーツの盛り合わせを届ける。
やがて、店内にバラード調のゆったりとした静なイントロが流れ始めると同時に、1番テーブル付近の照明が何時もよりも少しだけ落とされた。そして早乙女によるラブソングの歌声が聞こえ始める。
店内に響き渡る早乙女の歌声を聞きながら、タイミングを測るかのように出番を待つ三人。やがて……カラオケは曲も終わり再び店内に静寂が訪れた……そしてその静寂を破るかのように、1番テーブルに座っている今日の主役が鳴らす拍手の音が聞こえてきた。
その拍手の音を合図に店内に居る全てのホスト達も、盛大な拍手を鳴らした。
俺と店長と工藤はその拍手の嵐の中、三人で顔を見合わせた後。シャンパン(店長)・ケーキ(工藤)・フルーツ(俺)と言う順番で縦に並び、それぞれの物を手に持ち1番テーブルに座り、ラブソングを歌った早乙女に惜しみ無い拍手をしているであろう、今日の主役の元へと向かった。
先ず始めに店長がテーブルへと辿り着く。店長はシャンパンを冷やしているシャンパンクーラーをテーブルの上へと静かに置いた後。
『こちらは、早乙女和哉からのプレゼントのシャンパンで御座います』
そう言った後に、シャンパンクーラーに入っているシャンパンのボトルを抜いて、主役の彼女にシャンパンのエチケットが良く見えるように掲げた。
『うそ! ドンペリゴールドじゃん! ありがとう~和哉』
そう言ってプレゼントを贈ってくれた担当のホストに笑顔を向けてお礼を言っていた。彼女の喜びと興奮が冷めやらぬ内に、店長と立ち位置を入れ替えた工藤が、テーブルの上に静かにそっとケーキを置いた。
『美幸さん、誕生日おめでとうございます、何時もヘルプに呼んでくれてありがとうございます、これほんの気持ちです』
工藤からの言葉を受けて彼女も、まさかヘルプにしか着けないような若手のホストからプレゼントが貰えるとは夢にも思ってなかったらしく、非常に喜んでいた。
『ありがとう、工藤君、これからもよろしくね』
そんな彼女のお礼を受けた工藤は、そのままテーブルのヘルプ席に腰を下ろした。そして……俺の番が回ってきた。
俺は、チョコレートの噴水を今も噴き出し続けている、チョコレートファウンテンの機械の前に、彼女にカエルの口が、そしてリンゴに彫り込んだ祝いの文字が見えるように調節しながら置いた後。
「今月の始めから【EDEN】で総料理長を勤めさせて戴いております【氷室】といいます、こちらはお店に勤める全てのスタッフからお客様へのバースデープレゼントです、どうぞ見て楽しみ食べて楽しんで貰えたら幸いです」
そう言った後にテーブルから1歩後ろに下がり頭を静かに下げた。
彼女は、メロンを使って作られた可愛らしい容姿をしているカエルをマジマジと見つめ。
『ケロちゃんだ! 可愛い!』
そう言った後に次にリンゴに目を留めて。
『スゴい! 花の飾りと何か書いてある、ねぇ氷室さん? これ何て書いてあるの?』
そう訪ねられた俺はリンゴに彫り込んだ言葉の意味を彼女に伝えた。【This is your day】今日は貴女が主役。と言う意味を。
ひとしきりフルーツの盛り合わせに感動していた彼女が、不意に顔を上げて俺の顔を見つめてきた。
『これ、全部氷室さんが作ったの?』
そう聞かれた俺は、黙って頷いた。
『そっか~この前頼んだスイカのヤツも氷室さんが作ったんだね』
彼女が言っているのは、いつだったか俺が試しに作ってみた、小玉スイカの事だろう。
『こんな素敵なフルーツの盛り合わせを私の為に作ってくれて、本当にありがとう』
そう言ってくれた。その言葉に頭を下げて返礼した俺は、チョコレートファウンテンの食べ方等の説明は、工藤に任せてきびすを返し、1番テーブルから離れて行った。
そして、カウンターの内側を通り、何時もの俺が過ごすべき場所のキッチンに戻った俺は……
「何が、総料理長だよ! 場の雰囲気に流されて恥ずかしい事言っちまったわ!」
そう独り恥ずかしさに耐えながら、苦笑いを浮かべた……