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誕生会の始まり

 俺と工藤の二人は、それぞれ自分が担当する物に分かれて最終確認を行っていた。


 俺は先ずは、目の前のテーブルの上に置いてあるチョコレートファウンテンの機械がちゃんとチョコレートの噴水を作り続けている事を確認した後、キッチンへと戻り調理台の隅に置いていた小降りなカゴに目を移す。


 その中には、チョコレートと相性が良いと言われるお菓子。

ウェハースにチョコレートフォンデュのド定番でもあるマシュマロ、遥か北の大地のお土産としても有名なチョコレート菓子を擬似的に作る為の波形を刻んだ塩味のポテトチップス。

3種類のお菓子がバランス良く詰まれていた。


 「菓子はOK」


 俺は確認をする時には声に出す。と言う事を習慣として昔仕事を教えて貰った諸先輩達から仕込まれている。目視だけじゃ無く声に出す事で本当に確認をした。と自分自身を納得させられる。そう教わっていた。


 菓子の確認を終わらせた俺は、調理台から冷蔵庫の前へと歩いて行き、冷蔵庫のトビラに手を掛け開いた。


 チョコレートファウンテンの具材として使用する予定の、メロンで作った可愛らしい見た目のカエルの器を最初に視線の中に入れ、カエルが乗っている皿ごとカエルの口が俺の正面に来るように動かした後、口の中に詰め込んであるチョコレートとの相性が良いとされている、少し酸味の強いフルーツ達の状態を確認した。


 フルーツ達も特に傷みが出ていたり、果汁を過度に出していたり。そんな事も無く良い状態のままカエルの口の中に収まってくれている。


 「フルーツもOK」


 全ての確認作業を終わらせた俺は、調理台の隅に何時も置いているタバコの箱からタバコを1本取り出してライターで火を点けた。

最終確認も済んで問題が無い事が判明した俺は、後は本番を待つだけだと、ようやく人心地付けた。


 タバコを口に咥わえたまま灰皿を手に持ち、調理台の隅っこに置いておいた、チョコレートファウンテンの機械に付属品として付いてきていた先が二股になっている長めの細いフォークを、客。早乙女。後は工藤も使うかな? と考え3本握りカウンターへと向かう。

 

 フロアでは工藤が自分の確認作業を既に終わらせたのか、カウンターの椅子に座っていた。俺は、カウンターの上に工藤が用意したであろうケーキ等を食べる為に使う、カトラリー類の入ったカトラリーケースの中に、キッチンから持ってきたフォーク3本を追加で工藤に見せた後に入れた。


 「工藤これがさっきのチョコレートファウンテンの時に使うフォークな、一緒に入れておくから渡すの間違えるなよ」


 『はい、分かりました氷室さん』


 そして時間は開店の30分程前になる。その頃になると外回りをしていた若手のホスト達や、中堅クラス上位クラスのホスト達もチラホラと店に出勤してきた。その中には当然のように店長も含まれいた。


 今日この店でこれから何が起きるのかは、全てのホストが周知している。普段と違う店の雰囲気に皆少し落ち着かずソワソワとしていた。そんな中、店長はカウンターの内側に立ち何時もと大して変わらない態度でタバコを吹かしている俺の姿を見付けると、近寄って来て声を掛けてきた。


 『氷室君、なんか落ち着いてるね』


 「まぁ、ホテルのラウンジに居た頃に散々パーティーとか経験したんで……」


 俺が答えると店長は、なるほどねと納得したように何度か頷いていた。


 『それで、仕掛けの方はどう?』


 その言葉に俺はニヤリと笑みを浮かべ、タバコを灰皿に押し付けモミ消した後、カウンターからフロアに出て、店長を手招きして1番テーブルまで案内した。


 「店長どう? 思ってたよりも豪華でしょ? 卓上用とは言え、オモチャの類いでは無いんだよ」


 俺はテーブルの上に置かれ、止めどなくチョコレートを噴き上げさせている、チョコレートの噴水を店長に披露した。

 

 『うお! 氷室君すごいねコレ、こんなの初めて見るよ』


 俺の想像以上に驚いた店長は、一際大きな声を出した。その大きな声に釣られたのか、店内に居る全てのホスト達も後から後から、やって来ては、目の前にあるチョコレートの噴水を見て驚きの声を上げていた。


 店長やホスト達の反応を見て、客も絶対に驚きそして、喜んでくれる事間違いなしだと俺は確信した。


 暫くの間、チョコレートの噴水を見つめ続けるホスト達を尻目に俺は店長を伴いキッチンへと移動した後、冷蔵庫の中から工藤がこの日の為に用意したバースデーケーキが入った箱を出し、次に俺が作ったチョコレートファウンテンに使うフルーツの盛り合わせが乗せられている皿を取り出す。


 「こっちは工藤の買ったケーキで、これがさっきのチョコレートの噴水を付けて食べるフルーツの盛り合わせね」


 店長にメロンで作ったカエルの器と、その器の中に詰め込まれたフルーツ類。皿の回りに配置したバラの花を型どったイチゴ。文字を彫り込んで飾り切りしたリンゴ。それらの物を見せると。


 『これまた、この前のスイカに負けず劣らずな物を作ったね……メロンのカエルか……また可愛らしい物になってる、氷室君って本当すごいね……スカウトして大正解だったよ』


 店長から誉め殺しをされてしまった俺は少しだけ照れてしまったが、俺も店長に心の中で【楽しいバイト先で良かったよ】そう言っておいた。

 

 そして、そのままケーキとフルーツと菓子の盛り合わせをカウンターに店長と二人で運びカウンターの上に置いて本番の時に速やかに客に提供出来るように準備をした。


 その後は店長やホスト達とメロンカエルについてとか、チョコレートファウンテンの食べ方等の話をしていたら、時間は開店時間を迎えた。


 店長以下全てのホスト達の準備も整った。

俺も普段ならすぐキッチンに引っ込むのだが、カウンターの内側に立ったまま、その時が来るのを待つ。


 やがて開店から5分程の時間が流れた時に、店のドアが開き、早乙女和哉にエスコートされた本日の主役が登場した……


 『『『いらっしゃいませ! お誕生日おめでとうございます!』』』 


 さぁ楽しいパーティーの始まりだ……

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