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初日~その3~

 店長と前任者の合格が貰えるだけのフルーツの盛り合わせを作った後、山本くんは俺にやたらと恐縮しながら、この店に置いてあるメニューを一通り作ってくれて、どの皿にどのように盛り付けるのかを俺に教えてくれた。


 特別凝ったメニューが無かった事から、俺はどのメニューにどの皿を使うのか。辺りをメモに書いて、至極簡単に引き継ぎが終わった。


 『なんか……すごい人に来てもらっちゃったかも知れないね……』


 『店長、あのフルーツカッティングの写真見せて貰ったけど、俺なんかとレベル違いすぎますよ……』


 2人がやたら俺の事を誉めてくれる。まぁ俺も誉められて悪い気はしない。やりたくない。帰りたい。と言う気持ちも多少は薄れていた。これが2人の作戦なら、見事としか言いようが無い。


 その後は店長と2人っきりで、待遇面の話し合いの場を持った。

そして、店長は無理を言ってる自覚もちゃんとあるようで、普通では考えられないような高額の時給を提示してくれた。


 ツマミを作るだけで、時給3,000円。これは破格の値段だ。

仕込みの段階から店に来る予定になっているので、開店前から閉店後まで働き、1日で2万円を越える。俺はこの高額の時給に、すっかりやられてしまい。この店で働く事を楽しみにしだしてしまっていた。


 その後も細かい取り決め等を話し合い、この日はそのまま帰る事となった。明日から俺はこの店のキッチンで暫く働く事になる。


 そもそも、何故俺がこの店のキッチンで、働く事になってしまったのかと言うと、俺が昔世話になった先輩と、この店の店長が知り合いで、キッチン担当の人、山本くんの事だが。が急に辞める事になってしまったらしい。そこで代わりを探していた店長が、先輩に聞いてみたところ、フルーツの盛り合わせも簡単な調理も出来る後輩が1人居る。上手く話をして、次が見付かるまでバイトして貰ってはどうか? と言う話になり、俺の元にこの話がやって来た訳だ。

世話になった先輩が、どうしてもと頭まで下げて頼んで来た事で、俺も断れずに、次が見付かるまで。と言う条件の元に、暫くの間、ホストクラブのキッチンでバイトする事となった。


 ホストクラブでの試験と言うか引き継ぎがあった日から、明けて翌日。今日から俺はホストクラブのキッチンで働く事になる。


 まぁ別に、表に出て客の相手をする訳でも無い。

雑用をやらされる訳でも無い。本当にキッチン仕事だけしていたらいい。そう店長にも言われていた分、物凄く気楽だった。


 店長との取り決めの中の1つでもある【お酒は一切飲まない(刃物を使用する為】と言う条件を昨日の打ち合わせの時に追加で認めて貰った俺は、飲酒で捕まる事も無いと気楽に自分の車を使い、バイト先であるホストクラブ近くの駐車場に車を停めた。

1時間で500円と言う、この辺りの相場としては実に良心的な駐車場を昨日の内に見付けておいたからだ。


 そして、繁華街としての1日のピークは既に過ぎた午後10時30分、GパンにTシャツと言う今日もこのホストクラブが多くあるエリアには似つかわしく無い出で立ちで、店に向かい歩く。

深夜風俗店等が閉店してから、明け方近くまでを活動時間にしているホストクラブが多く並ぶ一帯だけに、未だ本来の活気を見せる前の街を歩いていて店へと辿り着いた。


 昨日と同じように店のドアを開けて中に入ると、既に若手のホスト連中が何人か来ており、店内の掃除等を行っていた。


 「おはよ~みんな早いね、今日からよろしくね」


 俺のそんな挨拶に、何人かは挨拶を返してくれたが、何人かは俺の事を睨み付けるかのような態度を取っていた。

まぁ、今日が初日の新人のバイトの身分なのに、早く店に来て掃除をする訳でも無い奴の事が気に入らないのだろう。

しかし、俺はホストでは無い。ただのオツマミ料理人だ。

ホストのルールに従う必要は無いし、店長からも従う必要が無いとも言われている。


 そのまま、挨拶を済ませた俺は、キッチンの中へと入り。

このバイトの為に新調したエプロンを身に着け、キッチンの掃除から始めた。

掃除と簡単な仕込みを終わらせた俺は一息付く為に、キッチンから続くドリンクや製氷器等が置いてあるカウンター裏へと顔を出した。

カウンター席には、掃除等の準備を終わらせたホスト達が何人か座って話をしている。俺はそんなホスト達に向け。


 「あっこのグラスって使っても大丈夫だった?」


 そう確認を取り、大丈夫だと言う事で製氷器の氷をグラスに入れ、カウンター裏にあるソフトドリンク等の入っている冷凍庫から、お茶を取り出しグラスに注いだ。


 『あっ今日から入る新しいキッチンの人ですよね?』


 「あっうんうんそう、店長から聞いた? よろしくね」


 そんな風にホスト達と話をしていると、俺が店に来た時に睨んでいたホストの中の1人が俺に声を掛けてきた。


 『何で新人のバイトのくせに、もっと早く来て店の掃除しないんだよ』


 そう言われてもな……お前らは店の表側を使って仕事するんだから、店の掃除するのは当たり前だが、俺はキッチンから基本出なくていいって言われてる身だしな。この辺りの事は、ハッキリと解って貰わないと今後がやりにくそうだ。そう感じた俺は、丁寧に文句を言ってきたホストを含め、この場にいる雑用をやらされる身分のホスト達に向け、俺の立場と店長と決めた条件の話を聞かせた。


 最初から好意的だった連中と睨んで来たが事情を詳しく知らなかった連中の何人かは、俺の話に納得してくれて、これからよろしく。と挨拶をしてくれた。


 ただ、俺に文句を言ってきた奴だけは、変わらずブスっとしたままだったが。

 


 

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