誕生会の為の仕込み。その1
何時ものコインパーキングに車を停め、果物が入っている大型のクーラーボックスを肩に担ぎ、左の手には購入してきた菓子が入ったビニール袋、右手にはメインになる為に必要な器具。大量の荷物を持って、暑い日差しの中を店まで歩いた。
「あぢぃ~」
店に到着した俺は直ぐ様、キッチンの照明を点けるのと同時にエアコンのスイッチも入れる。そして、直ぐに作業に取り掛からず先ずは休憩とばかりにタバコの箱へと手を伸ばした。
タバコを1本吸い終わる頃にはキッチンの中の室温も幾分か下がり涼しく感じてきた俺は、買ってきた果物をクーラーボックスの中から冷蔵庫の中へと移し変えた。
「さてと……一番面倒な事からやりますか」
気合いを入れエプロンを首から掛けて腰の後ろで結ぶ。
冷蔵庫の中から、果肉がオレンジ色をしている少し大きめのメロンを取り出し、まな板の上へと乗せた後にペティナイフを使い、メロンの下側を少し斜めに切り落としてメロンの据わりを良くする。
丁度ヘタのある部分が少し下側に来るように調節した後。
まな板の上に置かれたメロンの表面を指でなぞりながら。ナイフを入れる位置を慎重に出来上がりのバランスも考えて決めていく。
ナイフを入れる位置を目測で決めた俺は、ヘタの部分が無くなるように、斜めV字に深さはメロンの真ん中ぐらいの深さにカットした。カットしたメロンの皮と果肉を切り離して、果肉は小さめのボウルの中に種を取って放り込んだ。今回はメロンの果肉自体は使わないので、この果肉はまた今日の賄い飯の時にでも若手ホスト達に処理してもらう予定だ。
パックマンのような形になったメロンの口の部分からスプーンを使い、種を取り出し捨てた後に、同じようにスプーンで果肉を皮を傷付けないように慎重にくりぬいて取り出していく。
全ての果肉をくりぬき終わった後は果肉を入れたボウルを賄いの時に出すまで冷蔵庫で冷やしておく為に冷蔵庫の中に戻した。
口に当たる部分を作る為にカットした皮にカービングナイフを使い、細かいパーツを切り出していく。先ずは足に当たるパーツの切り出しから行い次に目玉に当たる部分のパーツを切り出し終えた俺は、9割方終わらせた事により、少しだけ休憩を取る事にした。
神経を張りつめての作業で、疲労を感じていた為に。
「疲れた体には糖分とニコチンだな……」
俺は冷蔵庫を開けて入れたばかりのメロン果肉を摘まみ口の中に放り込む。メロンの甘味を舌で味わった後、タバコに火を点けてキッチンの壁に掛けられている時計を見た。時間は十分に足りそうだ。そう判断した俺は、ゆっくりとタバコの煙を楽しんだ。
タバコを立て続けに2本吸った俺は、タバコを吸った事により指先に付いたタバコのニオイを消すために手に石鹸を付けてよく洗った後、作業の続きを始めた。
冷蔵庫の中から、ブルーベリーを2粒と、白いカマボコを取りだすと薄く2切れを切り出して、残りを冷蔵庫の中に戻す。
爪楊枝にブルーベリー、カマボコ、目玉になるパーツの順に刺していき、本体にバランス良く爪楊枝を刺してパックマンに目玉を作る。
食器棚の中から鮮やかな青色の大きめな平皿を1枚取り出して、目玉が付いたパックマンと切り出しておいた足を乗せていき、メロンで出来た【カエル】の器を完成させた。
出来上がったカエルの器を皿を回しながら出来映えの確認をする、大丈夫! 変なところは無い。納得のいける物が出来た事に俺は心の中で小さくガッツポーズを取った。後は客がカエルを可愛いと思ってくれる事を祈るばかりだ。
次に俺は冷蔵庫の中から、今日大将の店で買ってきたフルーツ類と元から冷蔵庫に入っていたイチゴとリンゴとブルーベリーを取り出して、まな板近くの調理台に並べていく。
今日買ってきたフルーツ類の皮を剥いていき、果肉を丸くくり貫いたり、クッキー型を使い星型やハート型に切り抜いていった。
切り抜いたフルーツは順に交互になるよう順番にカエルの口の中に口から溢れ出しそうになる程詰めた。
そしてイチゴにカービングナイフで切れ目を入れていってバラの花を作ると、メロンで出来たカエルの周囲に並べていった。
最後にリンゴの表面半分を使いカービングナイフで、花びら模様の飾り切りを入れていった。
そして、カービングナイフからカッティングナイフへと持ち変えた俺は、何も模様の付いていない側のリンゴの表面に、誕生日を迎える客へのメッセージを彫り込んでいった。
【This is your day】
今日は貴女が主役。と言う意味を持つ言葉を。
全てのフルーツでの細工と仕込みを終わらせた俺は、大皿に乗せたままでカエルの器とカエルの口に詰めたカラフルなフルーツ達、皿の周囲に配置されたイチゴのバラ。をそのまま冷蔵庫の中へと入れ冷やしておく。