夏に食べたい賄い飯
若手のホスト達と一緒に店まで歩いた俺は、何時もなら裏に回り裏口のドアのカギを開けてキッチンに直接入るのだが、今日は表のカギを預かっている若手ホストのリーダー格の【ひじき君】が一緒に居ることから、俺もみんなと同じように表の入り口から店に入った。その後は若手ホスト達とは別れ、キッチンへと向かいキッチンの照明を付けた後に、手に提げていたビニールの袋の中に入れていた【イカそうめん】を冷蔵庫の中にしまっておいた。
キッチンの開店時に行うべき準備に取り掛かり、手早く要領よく準備の全てを終わらせた俺は、若手ホスト達がきっと楽しみにしているだろう賄いを作り始めた。
最初に調理器具等をしまっている棚から雪平鍋と大鍋を1つずつ取り出して、それぞれに水を適量注ぎ火にかける。
先に水が沸騰してお湯になった雪平鍋の中に【醤油】と【みりん】と【顆粒の出汁の素】を適量加え、火を中火に落としてから一煮立ちさせて火を止めた。この時にわざと通常よりも味付けを濃いめにしておいた俺は、雪平鍋の柄を持ってキッチンからカウンターへと移動する。移動したカウンター裏に置いてある製氷機を開けてから雪平鍋の中に氷を大量に入れていく。
こうする事で、熱かったつゆが一気に冷える。冷蔵庫で冷やしてる時間が無い事から、溶ける氷の分も計算に入れて味付けを濃くしておいたのだ。
雪平鍋で作った手作りの【めんつゆ】の中に氷を入れて、キッチンに戻って来る頃には、火にかけていた大鍋も沸騰し始めて鍋の中に泡が踊り始めていた。俺はそこに近所のスーパーで買ってきていた、乾燥マロニーを投入した後、換気扇ダクトに貼り付けてあったキッチンタイマーを5分に合わせ、スイッチを入れた。
俺は、マロニーが煮えるまでの時間を使い買ってきていた【オクラ】と【ネギ】をみじん切りにして【長芋】は短冊切りを施しておく。野菜の下拵えが済んだ頃、ガスコンロの上の換気扇ダクトに貼り付けてあるキッチンタイマーが、アラーム音を響かせて俺に、茹で上がった事を知らしてきた。
大きめのザルを取り、流し台に置いたザル目掛けて大鍋の中で茹でていたマロニーをザルに移していく。そしてそのまま空になった大鍋の中にザルを入れて、蛇口から勢い良く水を出して、流水でマロニーを〆、あら熱も取っていった。
カレー皿を若手ホスト達の数と同じだけ調理台の上に並べ、よく水気を切ったマロニーを手掴みで、なるべく均等になるように盛り付ける。その後、野菜達を見た目よく盛り付けた。
その後俺は買ってきた【納豆】のパックを開けて、パックの中に入ったままの納豆を菜箸を使いよく混ぜて粘り気を出した後に1パックで2皿分として納豆も盛り付ける。冷蔵庫の中から【イカそうめん】と人数分の【卵】取り出し、イカそうめんを盛り付けた後、皿の中心にくるように卵の黄身だけを割れないように、そっと置いた。
後は、めんつゆをかけたら完成である。
出来上がった賄い飯が盛られている皿を両手に一つずつ持ち、何往復かした後に全ての皿をカウンターまで運んだ。
「賄い出来たぞ~」
俺がマイクを通して出した合図を、待ってましたとばかりに聞き付けた若手ホスト達は、カウンターへと群がり始め、それぞれが賄い飯が盛られた皿を手に取ったのを見計らい俺は声を掛けた。
「よく混ぜてから食えよ」
そんな言葉に返事をした若手ホスト達は、割り箸を使ってよく混ぜた後に、俺の作った特製賄い飯をガツガツと、がっつき始めた。
「しかし……よく食うな……コイツら……」
俺は若手ホスト達の食いっぷりに感心をしながら、グラスにドリンクを入れて、後片付けが待っているキッチンへと戻って行った。
キッチンの後片付けも終わり、パイプ椅子に座りタバコを吹かしていた時に、ひじき君がキッチンに顔を出す。手には既にカウンターに付いている流し台で綺麗に洗われた後の皿が重ねた物を持っていて、調理台の上に皿を置いた後。
『氷室さん、ご馳走さまでした今日の賄いも最高でした、それじゃ外回りに行ってきます』
と声を掛けた後、キッチンから出ていった。その後も、フロアの方から他の若手ホスト達の。
『ご馳走さまでした』や『いってきます』
等の声がキッチンまで聞こえてきた後、店の中には一時の静寂が訪れた……