スタミナ賄い飯の買い物
姫神と店長と俺と言う開店前の三者面談をしたあの日から、既に3日程の日にちが経過している。
あれからは姫神との関係も良好で、挨拶は勿論の事開店前や閉店後に時間があれば普通に話をするまでになっていた。
変に気に入られ過ぎて、付きまとわれたりしないか? と言う懸念を持っていたのだが、そこは相手もNo.1ホストなだけあり、俺に付きまとう程にヒマでは無いようだ。
今日俺は近所のスーパーへと来ている。店長と話し合いをして俺はある要求を通した。その要求とは【業務用スーパー以外でも買い物をしても構わない】と言う物だ。
店のメニューに元々から載っているオツマミ類を作るだけなら確かに、今まで通り業務用スーパーで食材を買うだけで事は足りている。しかし、俺が店のキッチンに入るようになってからは、俺の悪戯心や遊び心なんかのせいで、メニューに載せていない物を提供したりしていた。
それは、店にとってもプラス方向に働いていて、今までとは違ったオツマミがある。と言う事で客に新しいオツマミ類をホスト達が勧め易くなっている事だ。
ホストクラブで提供されるオツマミが、居酒屋なんかの値段な訳が無い、ちょっとした物でも5,000円とか1万円とかになる。フルーツの盛り合わせなんかは数万円なのだ。
これはそのまま、頼ませたホストの売り上げに加算される事もあって、ホスト達からも【どんどん変わった物を作って欲しい】そう言われていた。
その為には、同じ業務用スーパーだけでは、買える食材にも限りがある為に店長に相談して、どこでも好きな店で食材を確保しても構わない。と言うお墨付きを貰った。
この日も何かヒラメキが起きないかな? と言う期待を持ちつつ、近所のスーパーに来ていたのだが残念ながら、客にサプライズとして出せるオツマミは閃かなかった。代わりに、梅雨も過ぎて本格的に夏が始まろうとしている季節に合わせて、スタミナたっぷりの賄い飯を一つ思い付いた為に、急遽そちらの為の買い物へと切り替えた。
野菜売り場へと来た道を戻り、本日作ろうとしている賄い飯のメイン具材になる【オクラ】と【ネギ】と【長芋】を購入する為に引いていたカートの中に食べる若手ホスト達の人数を考慮して突っ込むと次に俺は豆腐等が売られている加工食品売り場を目指す。
「大体が特売品対象に成り易いから安く売ってるはずだがな……」
そう口に出しながら目的の物の中で一番お得な物を探していると、直ぐに見付ける事が出来た【4P入り¥98】とPOPが貼られている【納豆】を、一人に対してパック半分使うとして……と頭の中で必要個数の計算をしてから、カートに入れる。
「次は……魚だな……」
鮮魚売り場に到着した俺は、冷蔵機能が備わったショーケースの中にところ狭しと並べられている、色んな魚の刺し身を見渡した後。2種類の刺し身を手に取りどちらにするか悩みだした。
「定番っぽいマグロにするか……イカそうめんの方が似合いそうだし……」
2分ほど悩んだ後に俺は【イカそうめん】の入ったパックを3つ程カートの中に入れた。そして最後に必要になる食材が売られている売り場に向かう。向かう最中に特売品の通路に詰まれていた【めんつゆ】を2本程、通る際に手に取ってカートに入れる。
その後【乾燥マロニー】を人数分カートに入れ、レジへと向かった。全ての食材を購入した俺は、レジで貰ったレシートを手にサービスカウンターへと向かい、レシートを店員さんに渡して領収書を受け取った。
夜、陽が昇っていた時間に購入して自分の部屋の冷蔵庫に入れておいた食材を袋に詰め直した物を、片手にぶら下げて繁華街の中を店に向かい歩いていると。声を掛けられた。
『氷室さん、おはようございます、今から出勤ですか?』
その声に反応した俺は後ろを振り返ると、寮から店へとやって来た若手ホスト達の集団が立っていた。
「おっおはよう、奇遇だな」
俺は足を一時止め、若手ホスト達と合流した後に一緒に店まで向かう事にした。
「今日は最近暑くなってきたから、スタミナが付く賄いにするからな」
俺のその言葉を聞いた若手ホスト達が、声を上げて喜んだ。
中には、今日の賄いが何かと聞いてくるホストや、スタミナが付く物と聞いて【ガッツリ肉かな?】等と勝手に賄い飯のメニューを決めつけたりしているホスト達がいた。
「出来てからのお楽しみってやつだな」
俺はそんな賄い飯一つで、大袈裟な程に喜ぶ若手のホスト達に向け告げた後【教えて下さいよ~】等と言う若手ホスト達と一緒に店へと続く道を歩いていた。




