熱いバカ姫神(後編)
こちらは後編になります。お間違え無いように。
「あの時、姫神の連れてきた客は2つしか無い物を欲しがったよな?」
事の経緯を分かりやすく姫神に語って聞かせてやってる俺は、姫神の表情の変化を見ながら、話を続けていく。コイツはきっと難しい言い方や言い回しをしても理解はしないだろうと感じた俺は、一番記憶に新しいであろう事が、丁度姫神が怒っていた理由でもある事から、その事に限定して話をする事にした。
「店としては困っちゃった訳だ、だって最初から2つしか無い、それじゃ新しく作れば解決だな? あの時も姫神は俺に言ったもんな【新しく作れよ】って、覚えてるか?」
そう言うと姫神はあの時の自分の行動や言動を思い出すかのように顔を上に少し向けた後に頷いた。
「新しく作れるなら作ってると思わないか? 誰だって面倒くさい客のワガママなんか聞いてられないだろ? だけど材料を新しく買うにも店は開いてない時間だった訳だ」
「それじゃ、この場合はどうしたら一番早く客の機嫌を直す事が出来ると姫神は思う?」
俺からの質問を考え始め、暫くしてから姫神の口から出た答えは……
『俺が客の機嫌を宥める?』
どこか自信は無さげだが、正解を言った事に素直に俺は驚いてしまった。コイツちゃんと正解が分かってるじゃないかと……
「そうだな、姫神の事を目当てに店に来てる客なら、姫神が宥めたら、他のどんな方法よりも効果的だろうな、あの時は姫神も何故か宥めずに一緒になって怒ってたがな」
俺がそう言うと、確かに自分も一緒に怒ってた。それが何故なんだろう? と言う表情を浮かべていた。
「あの時は同じ物を提供出来ない【お詫び】として店が損をするのを覚悟で、代わりのフルーツの盛り合わせを客に提供しただろ? で、客はそれだけで機嫌がコロっと良くなったか? 違うだろ? その後、俺は見てないが姫神が何か言ったから機嫌が直ったんじゃないか?」
『あの時は、もう無いんだから仕方ないだろ、代わりにコレをサービスして貰ったから機嫌直せよって言った』
「それ、無料のサービスしたフルーツの盛り合わせが無いとダメだったって思うか? 無くても姫神がそう言えば機嫌は直ったんじゃないか?」
「姫神は、この店に所属してるホストとして、店に余分な損失を出さなくても客の機嫌を直せるだけの男なのに、店に損失を出す方法を取った訳だ、それ店としては期待外れって思っちゃうだろ? 姫神と言う店の顔であるNo.1がそんなのかよ? って」
俺の言う話しが理解し始めたのか、黙って頷いてくれる姫神。
「いいのか? そんな風に思われてて、お前はこの店で一番のホストなんだろ? それは店の売り上げにも一番貢献出来る男だけが貰える勲章なんだぞ? それを貰ってる男が店に損失与えたたら、勲章が恥ずかしく無いようにちゃんと責任も取るのが、カッコいい男ってやつだろ?」
もう途中から俺も自分が何を言ってるのか分からなくなって来ていたが、ノリとイキオイで押し切ってやろうと、変なテンションになって、熱く姫神に語り出していた。
そしてその後も10分ほど姫神と話したら、姫神は突然座っていた椅子から立ち上がると、店長に体を向けて、頭を深く下げ大きな声で。
『店長、すみませんでした俺はカッコ悪い事をしてました! どうか給料から罰金を引いて下さい!』
そう言った後に今度は俺の方を向いて。
『氷室さん! 俺……俺……もっとカッコいいみんなが憧れるNo.1のホストになります! 叱ってくれてありがとうございます、俺……頭良くないから、また何かやったら怒って下さい!』
そう言ってきた。俺は姫神の謝罪を聞きながら心の中で……
【うん、何かよく分からんがバカで助かったわ……自分でも何言ってるか途中から分からんかったが丸く収まって良かった】
そう思っていた……
そして、俺と店長と熱く燃えるバカ1匹と言う微妙な空気をさっさと変えるべく俺は、カウンターの上に置いていた物を二人の前に差し出した。
「これ、俺が自腹で購入した物で作った簡単なオツマミなんだけど、今日店に来てくれた客に【日頃の感謝を込めて】って事で提供したいんだけど、いいかな? 店長」
そう聞くと店長もこの空気に耐えられ無かったのか、特に考える事無く流されるかのように了承をしてきた。
そして、俺の適当な話に感化されまくってしまったバカは……
『氷室さん! カッコいいです! 俺も客を沢山呼んでこのオツマミを沢山食って貰います』
そう熱く燃えていた……
この店楽しすぎるだろ……紹介された時は嫌で仕方なかったが、今はこの店でバイト出来て本当に良かった。そう思っていた……
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