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熱い男氷室(前編)

長くなったので、前後編と分割してます。こちらは前編。

続けて後編も投稿しますので、お間違え無いように。

 キッチンからと言うか俺の単なる思い付きで試してみたかった、サービス品としてオツマミ一品の提供。


 殆ど独断で決めた事ではあるが、一応は店の責任者でもある店長にも話を通しておく必要はある。そんな当たり前の考えの元、俺はキッチンの俺の定位置にパイプ椅子を起き座ったまま、タバコを吹かしたりと時間を潰していた。


 誰か話し相手でも居れば良かったのだが、残念な事に若手ホスト達はいつもの日課でもある、街に繰り出して未だ店に遊びに来た事の無い客を探しに全員が出てしまっている。


 店内に流れるBGMの音楽の音が僅かながら聞こえてくるキッチンに一人で待機していた俺は、いつの間にやら少しウトウトとしていたようだ。どれ程の時間居眠りをしてしまっていたのか不明だが、俺はフロアの方から聞こえてくる二人の言い争う声が耳に届き意識をハッキリと覚醒させた。


 「おっとと、いつの間にか寝てたのか……」


 調理台の隅に置いていたタバコの箱とライターを鷲掴みにして自分へと引き寄せタバコを1本取り出して火を点す。紫煙を肺の中へと吸い込み、寝ていた意識を更にハッキリと覚醒させていった。


 そして俺はタバコを吸いながら、割りと大きめな声で何かを言い争っている店のフロアへとパイプ椅子から立ち上がり向かう事にした。


 キッチンからカウンターへと顔を出した俺の目には、店長とこの店のNo.1ホストの【姫神 楓】の二人の姿が入ってきた。この時俺は。


 「開店時間の前にコイツが店に居るの初めて見た」


 と言う何時も客と同伴してどんなホストよりも一番遅い時間にしか店に姿を見せないNo.1ホストが居る事への驚きであった。


 「おはようっす、どうしたんです? 二人して何か言い争ってたみたいですけど」


 俺が店長と姫神に向けて挨拶を交えながら声を掛けると、店長は挨拶を返してくれた後に俺に、騒がしくしてごめんね。と一言謝ってきてくれたが、姫神の方は何も言わずのままであった。


 俺も多分コイツには好かれて無いと言う事を自覚していたので、姫神から挨拶が無かった事に対しては、何も思うところは無かった。嫌ってる相手と殊更仲良くしてやる義理も必要も無い。そう思っていたからだ。


 『そうだよ! コイツも原因の一つだよ』


 突然、姫神は俺の事を指で差し大きな声を出す。

俺は事の経緯を全く理解して無かったので、何が何やらでキョトンとしてしまっていた。


 「えっと……俺が何かしました?」


 俺は姫神の事を無視して店長に聞くと、店長は事の経緯を俺にも説明してくれた。

店長が話してくれた説明によると、姫神が店に損失を与えた分の金額を給料から引いて相殺する事に納得がいっていないと言う理由で言い合いになっていたようだ。店に姫神が与えた損失の原因が俺にある。姫神の言い分だけ聞くとそうとしか聞こえない事に対して、俺はどういう事なのかを、更に詳しく聞いてみた。


 小玉スイカを使ったフルーツの盛り合わせを2つ限定で店に出した時に、姫神の連れてきた客がそれを欲しがり姫神が宥める事すらせずに一緒になってワガママを言った結果、店としては客の機嫌を取る為に無料でフルーツの盛り合わせを提供した。そのフルーツの盛り合わせの代金を姫神に請求する事を店長は決めたらしい。


 俺は店長と姫神の話を一通り聞いた後に。


 「うん? 誰がどっから聞いても店長の言ってる事に筋通ってるって聞こえるけど?」


 姫神に向けて俺の意見を言った。姫神は理解力に乏しいのか自分のした事が未だに解っておらず、同じように文句を言っている。

店長も既に【バカに付ける薬は無い】状態になっており、この不毛過ぎる話し合いを早く終わらせたくなっているようだ。

確かにこんなバカが納得するまで説明しろ。と俺が言われても俺も嫌になるだろう。


 俺は姫神に向けて。


 「とりあえずさ、説明してやるから、座ったら? ずっと立ってたら疲れるだろ?」


 そう言って姫神をカウンターに付属している長椅子の一つに座らせた。


 「何か飲む?」


 『お茶』


 コイツはどうやらバカな上に子供のようだと、このやり取りで感じた俺は、子供に言い聞かせるかのように、こんこんと話を聞かせてやった。


 「怒らずに話を聞いてくれよ? 先ずさ姫神は何? 俺の認識は姫神はこの店に所属してるホストだよな? それもNo.1って言う店の顔とも言うべき立場の」


 俺が静かに姫神に言って聞かせてやると、姫神も一旦は怒鳴るのを止め話を聞いてくれるようだった。そして、俺が説明した自分の立場を理解してるかは不明だが頷く。


 「それじゃ、自分が所属していてNo.1にまでならせて貰えた店が無くなると嫌だろ? 店は損を出すと経営が出来なくなって潰れたりしちゃう訳だ、分かるよな?」


 静かに頷く姫神を見て話を続ける。


 「ホストクラブに来るような客なんだから、ワガママな客はきっと沢山居ると思うんだ、それが叶えてやれるワガママなら叶えてやるのが店とその店で働く人間の義務だよな? それはホスト達だけじゃ無く俺だって含まれてる」


 「そして姫神が言ってた俺のせいだって話に限定するけど、確かに俺は2つしか無い物を店に提供した訳だ、でもそれは店として、それでいいよってちゃんと許可を貰った物なんだよ、分かるだろ? 勝手に出せる訳無いもんな?」


 俺の諭すような優しい語り口調を聞いて、自分なりにも色々と考え始めたような顔をして、話を聞いている姫神。


 この調子ならちゃんと話せば理解しそうだな。そう感じた俺は、姫神に理解出来るように、優しく話を続けていく……


 

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