キッチンからのサービス品
「今日は何して驚かせてやろうかなぁ……毎日フルーツってのもなぁ……」
俺は今、何時もの果物屋で不足している分のフルーツを購入した後に業務用のスーパーへと来ている。実際はフルーツ系以外のオツマミ等の食材は毎日買う必要は無いのだが、ホストクラブの厨房でのバイトを始めてからずっと欠かさずにやっている、サプライズになるような物が無いか物色しに来ていた。
「ホストクラブだと見た目もかなり大事な要素になるし、意外と難しいよな……」
俺が過去に働いていたホテルのラウンジ等と比べた時に、ホストクラブと言う店はオシャレさ。と言う物も考える必要があると言う事を新たに学んだ。ホストクラブじゃ無いのなら気にせずに出せるオツマミは沢山あるのだが、見た目と言う観点からだと、どれもがイマイチな感じがしていた。かと言って、ありきたりな物じゃサプライズにもならない。そこら辺のバランスが中々に難しく感じていた。
サプライズ止めたら良いだけの事なんだが、思ってたよりも酒やオツマミ等に詳しくは無いホスト達の驚く顔を見るのが、もはや楽しみの1つとなってしまっていた。
そんな事を考えながら店内を回っていると気が付けば、お菓子類等を売っている売り場に来ていた。ふと何の気も無しにある棚に並んでいた物が目に留まった俺は、これ使ったら面白いかも。と、昔1度作った事のあるオツマミを頭に思い描いた。
そして、俺の目に留まった【ミックスナッツ】の袋を3~4袋ほどカゴに入れ、目的の物を探し始めた。
暫く店内をあちらコチラと探し歩いた俺は、ようやく目的の物が売られている場所に辿り着き【ドライフルーツ】を数種類カゴへと入れた。
「おっあった、あったコレコレ」
ドライフルーツの次に俺は、一口サイズに個々に包装されているプロセスチーズを手に取ると、目的の物が全て揃ったのでレジへと向かう。
会計が終わった後に、何時ものように店員さんに領収書を貰おうと思ったが、このぐらいは俺が自腹で購入して客にサービスとして出してもいいな、普段からチップなんかも貰ってる事だし。
そう考え、領収書を貰わずに店の財布では無く自分の財布からお金を出して支払いを済ませた。
買い物を終わらせ、1度自分の部屋に戻り開店前の時間に合わせて、店へと向かった。
何時もと同じように若手ホスト達と挨拶を交わした後、キッチンの開店作業を行い、何時もと同じように腹を空かせた若手ホスト達に賄いを作ってやる。
若手ホスト達が食べる賄い飯をカウンターの上まで運び終わった後、そのままキッチンに戻らずに。
「このカクテルグラス借りるぞ~」
カウンターの後ろにあるグラス棚の中から、ちょうど良い深さのカクテルグラスを5個持ってキッチンに戻って行った。
俺は店に来る前に業務用のスーパーで個人的に購入した、ドライフルーツ。ミックスナッツ。一口サイズのチーズの袋を全て開け。
大きめのボウルの中にドライフルーツとミックスナッツを放り込み、上から同じサイズのボウルを反対向きにフタをするように被せた後、重ねた部分がズレて中身が飛び出ないよう注意しながらボウルを持ち上げ、軽く上下に振りドライフルーツとミックスナッツを混ぜ合わせた。
混ぜ合わせた物をカクテルグラスの半分ほどまで入れた後に上から2つ3つの一口サイズのチーズを乗せる。
次に俺は、キッチンの棚に置いてある赤い紙ナプキンを5枚取り出して、紙ナプキンを使って折り紙をしていく。
「えっと……確か……」
最初に正方形の紙ナプキンに十字の折り目を付けたあと、半分に折る。半分に折り長方形になった紙ナプキンを最初に付けた真ん中の折り目に合わせて、上に折った。下側が三角になった紙ナプキンを裏返して端の方を少し折り、ハートの形に仕上げていく。
出来上がったハート型に折られた紙ナプキンの出来上がりを見て。
上手く出来たなと納得した俺は残りの紙ナプキン全てをハート型に折っていった。
ハートの紙ナプキンよりも少し大きな皿の上に紙ナプキンを敷いて、折り返した場所が戻って来ない為の重し代わりに、ドライフルーツとミックスナッツを混ぜた物を入れたカクテルグラスを置いた。そしてグラスの近くに、元からキッチンに常備されているクラッカーを4枚ほど重ねるようにして配置を考えて置いた。
調理をしていた台から俺は1歩後ろに下がり、出来映えの確認をして大丈夫だと判断を下し、同じ物を後4個作っていく。
出来上がった5個のオツマミを次々にキッチンからカウンターに運んだ俺は、未だに賄い飯を食べている若手のホスト達に向け声を掛ける。
「ちょっといいか? 今日はキッチンからのサービスって事で、客にコレを最初に出して欲しいんだ、これは俺が個人的に買った材料で作ってあるから、無料サービスってちゃんと伝えてくれよな、後、下に敷いてる紙ナプキンは出来たら使い回したいからな~」
そう声を掛けると、若手ホスト達から了承の返事が返ってきた。
後は、店長に話を通しておくだけだが、まぁ個人的に買った物だし、日頃からの感謝の印にキッチンからサービスだと言えば、OKは出るだろう。