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生ハムと合わせるのなら?

挿絵(By みてみん)

 「うん? そう言えば1番テーブルだったよな……」


 何時もなら作ったオーダーを若手ホストに託した後はさっさとキッチンの中へと引っ込んでいた俺は、未だにカウンターの内側に居て、店内から聞こえてくる様々な声を耳に集める為に目を閉じ集中していた。


 『きゃ~何これ、気持ち悪い~』


 微かにそんな声を俺の耳は感知した。どうやら、頼んだ客は俺の目論見通りに、ランブータンの見た目のインパクトに驚いているようだ。


 『見た目こんなのだけどめっちゃ美味しいんだって、食べてみてよ』


 『何これ、めっちゃ美味しいじゃん』


 そんな担当ホストと客とのやり取りの言葉を聞いた俺は、自己満足の笑みを浮かべて、今度こそカウンターからキッチンへと戻って行った。


 それから程なくして、俺が1番テーブルに出したフルーツの盛り合わせが他のテーブルに座る客の目にも止まるか、担当ホスト達が勧めたのか、立て続けにオーダーが入ってきた。俺は、ホスト達の売り上げ貢献と言う真の目的が達成されつつある事を、冷蔵庫の中から次々に減っていくフルーツの残り数を数えながら、ニヤニヤと顔が緩んでいた。


 そして、作りまくった挙げ句にキッチンに置いてある大型の冷蔵庫の中から、メロンカゴのフルーツの盛り合わせを作るに足る、フルーツが姿を消した。俺は最後のフルーツの盛り合わせをキッチンからカウンターに運び、オーダーが通ったテーブルをマイクでリクエストを掛けて、運んで貰った後に続けて。


 「店長リクエスト」


 店長をカウンターに呼び出した。


 カウンターにやって来た店長に向かい。


 「店長、メロンカゴは終わり」


 そう言いながら店長に見えるように手を顔の高さまで上げて、店長に向けて×印を作った。


 「後はメロン無しの普通のフルーツの盛り合わせしか出来ないからね」


 店長にこれ以上のオーダーを取るな。と言う事を伝えた。

店長は予想通りにまだまだ客に遠慮をしている中堅のホスト達や、若手のホスト達は【珍しいフルーツ】と言う商品価値と言う物を上手く利用して、普段は頼ませにくいフルーツの盛り合わせを頼ませる事が出来たのか、非常に満足気な顔をして、俺に頷いた。


 キッチンに戻った俺は、何時ものパイプ椅子に座り仕事がやって来るまで休憩に入る。ドリンクを飲みつつタバコを吹かし、暫し何も考えずに、ぼーっとして過ごしていた俺の元に、一人の若手ホストがオーダーを通しに来た。


 『氷室さん、2番に生ハムメロンお願いします』


 俺はそのオーダーを聞いて、非常に困った顔を瞬時に顔に浮かべながらオーダーを持ってきたホストを問い詰めた。


 「おい、店長からメロンが無くなったからって連絡回って来てないのか?」


 俺がそう聞くと、自分が持ってきたオーダーが何かを理解した若手ホストが困惑の顔を浮かべた。


 『姫神さんのテーブルなんですよ、何とかなりませんか?』


 またあのワガママなNo.1様のテーブルかよ……俺は若手ホストの言葉に、アイツはとことん俺を呪うな。等と少し不吉な事を思いながらも、どうした物かと思案を始めた。


 「とりあえず店長にリクエスト掛けてキッチンに呼んでくれ」


 俺は若手のホストにそう頼んだ後、冷蔵庫のトビラを開いて、中から生ハムを取り出した。

ハッキリと言えば代案はあった。ただ、メロンと生ハムと言う組み合わせを客が純粋に楽しみたい場合は通用しない案なだけに、勝手にそれを選択する事は、憚られ店長に確認を取る事にしたのだ。


 呼び出しを受けた店長がキッチンへとやって来た。俺は店長に向けて。


 「店長~またアイツですけど? あれ何? 俺に嫌がらせでもしてるんですか?」


 経緯を若手のホストから聞いていた店長は、俺に向けて謝りながら。


 『いや……そんな事は無いと思うんだけど、アイツ実はあんまり頭の方は良くなくて……きっとメロンが無いと言う事と生ハムメロンが作れない事が頭の中で、結び付いて無いんだと思う……』


 これだから顔の良さだけで売れたホストは……等と心の中で悪態を付いてみた物の状況は何一つとして変わってはいない。


 「代案はあるんですが、客は生ハムとメロンじゃ無きゃ駄目だとか言い出しますかね? また無料で提供します?」


 俺が店長に、代案がある事を告げると店長は、こだわりがあって頼んだ物では絶対に無いから、変わった生ハムの食べ方って事で押し通そう。そう言ってきた。俺は店長からの指示に従ったと言う免罪符を店長から貰って、考えていた代わりになる物を作り始めた。


 冷蔵庫の中から、キウイフルーツと俺が個人的に買っておいた閉店後に食べようと思っていた、俺の大好きなイチジクを取り出す。


 「ちっ……俺のお楽しみのイチジクちゃんを……」


 キウイフルーツとイチジクをまな板の上に乗せた俺は、ペティナイフを使い縦に4等分していく。そしてペティナイフからカービングナイフに持ち変え、キウイフルーツとイチジクの薄い皮と果肉の間にカービングナイフを入れて、皮を剥いていった。


 小皿にフルーツを盛り付けた後に、フルーツの上に生ハムを乗せ、更に小皿の隅に生ハムを使ってバラの花に見立てた物を作り飾った。最後に、フルーツの上に乗せられた生ハムにブラックペッパーを少量だけまぶして、生ハムメロン改め【生ハムフルーツ】を完成させた。


 個人的に生ハムと合わせる果物はメロンよりもキウイやイチジクの方が俺は美味しいと思う。値段もメロンに比べたら手頃な値段で手に入るしな。


 カウンターに完成したオツマミを持っていき、カトラリーケースの中に小降りなフォークを3本ほど入れた物を一緒に用意した俺は、店長を呼んだ。


 「店長リクエスト」


 やって来た店長に向け、メロンの代わりにキウイフルーツとイチジクを使った事、個人的にはコチラの方が美味しいと思う事等を伝えた後に、俺は生ハムメロンの代わりの物を店長に託した。

若手ホストに持っていかせるよりも、店長に頼んだ方があのバカホストもケチを言いにくいだろう。そう考えて……

 

 

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