俺の思惑は店長にはバレバレ
若手のホスト達に向けて俺なりの応援として、二日酔い等に効果のあるウコンジュースを無理やり飲ませた俺は、カウンター裏の流しで使ったシェイカーを洗った後に、グラスが置いてある棚に戻し、そのままグラスを1つ手に取った。
そこに、カルピスの原液を適量入れてカウンター裏の冷凍庫から取り出した牛乳でカルピスの原液を割った後に濃縮オレンジ果汁をほんの少しだけ垂らしてマドラーでかき混ぜる。
俺のそんな素振りをじっと観察していた、ひじき君から。
『氷室さん……カルピスを牛乳で割ると美味いんですか?』
コイツらは、飲み屋で働いてる割りには本当に色々と知らん事が多すぎるな。そんな事を思いつつ、作ったソレをひじき君の前に差し出した。ひじき君は俺からグラスを受け取ると、一口飲んだ後に。
『何これ! めっちゃ美味い! 飲むヨーグルトみたい!』
「ほら! メシ食ったら外行って客探してこい」
俺はひじき君の手からグラスを奪い取ると、そのままカウンターを後にしてキッチンの中へと戻った。
俺はキッチンの何時もの定位置である調理台の前にパイプ椅子を引っ張り出して、腰を下ろし作ったカルピス牛乳を飲みながら、タバコを吹かして開店時間が来るのを待った。
やがて、外に出ていた若手ホスト達や、中堅ホストに上位ホスト達も続々と店に顔を出していく。そしてバイト生活3日目の店の営業が始まった。
俺は、開店時間を迎えてからキッチンから愛用のペティナイフと、昼間の内に買ってきていた少し珍しい部類に入るフルーツ達を1つずつ手に持って、カウンターにやって来た。カウンター付近に居たホスト達はそんな俺の姿を見付けて【また何かあるのかな?】そう感じたのか、次第に集まってくる。
「これ、少し珍しい果物が手に入ったから試食してみてよ、今日のフルーツの盛り合わせは、この珍しいフルーツを中心に使おうと思ってるから」
そう言って俺は、ペティナイフを使いフルーツをそれぞれ皮を剥いたり切ったりしていく。
「最初はドラゴンフルーツって名前の果物ね、これはサボテンの実なんだ、少しトロっとしててキウイに似た食感、見た目が何かドラゴンの卵みたいでしょ?」
俺がドラゴンフルーツの説明をしながら全員に行き渡るように、小さくカットした物をホスト達に試食させた。
『あっ本当だ甘酸っぱくて美味しい』
『見た目ちょっと変な感じだけど味は美味しいね』
「次は、スターフルーツって名前のフルーツね、これは珍しく形が星型になってる果物」
そう言ってスターフルーツを薄くスライスしてホスト達に渡す。
ホスト達は渡されたスライスを見て。
『本当に星型だ』
『ヒトデみたい!』
そう形の感想を口々に言っていった。
「味も梨に似て美味いんだぞ食べてみ」
2つ目のフルーツも概ね好評に終わった。
次に出すフルーツは見た目のインパクトが強いから、みんな間違いなく驚くだろうな。そんな事を思いながら、ランブータンを1つカウンターの上に乗せた。
『『うわ! 何これ? ウニみたい』』
ホスト達から予想通りの感想が出てくる。俺はそんなホスト達を笑い顔で見返しながら、ランブータンの厚い皮を剥いた。
「最後はランブータンって果物、見た目キモいだろ? でも美味いんだからな、中に大きな種が入ってるから食べる時に種をかじらないようにな、もちろん客に出す時は種を取ってから出すから」
そう言って人数分のランブータンの皮を剥いて行き食べさせていく。
「甘味の強いライチって感じで一番美味いだろ?」
俺が味の感想を聞くと全員が確かにと言った顔をして、頷いた。
「今日のフルーツの盛り合わせは、これらのフルーツをメインに使う予定だから、みんなも客に向けて珍しいフルーツが食べられる事を言ってくれよな」
そう言って、カウンターの流しで自分の手とペティナイフを洗い、珍しい果物の事で話し合ってるホスト達をそのまま残しキッチンに戻った。すると、店長が直ぐに俺の後を追う形でキッチンに入ってくると、俺の顔を見てニヤニヤとしながらこう言ってきた。
『氷室君、ありがとうね、わざわざ珍しいフルーツまで用意してくれて、みんながお客さんにフルーツの盛り合わせを頼み易くしてくれたんでしょ? 氷室君に店に来てもらって本当良かったよ』
黙っておくつもりだったのに、店長には俺の意図はバレバレだったようだ。フルーツの盛り合わせ1つ頼めたら、ホスト達の売り上げが3万~5万ぐらいは上がるんだろうな。そう思い、頼み易くするために珍しいフルーツを用意したんだが、店長には目論見はモロバレだったようだ。
俺は店長に、みんなには内緒にしておいて欲しいと頼んで照れ笑いを浮かべた。




