ウコンとオムライス
仕方なしで引き受けたホストクラブでのバイトも、もう3日目に突入。そして今日はきっと忙しくなるであろう週末の土曜日。
俺は、何時も果物を仕入れる果物屋に行き普段よりも多目に果物を仕入れていく。
「おっ大将、ドラゴンフルーツ入ってるじゃん」
店先に俺の大好物のフルーツが置いてあるのを見付けて大将に声を掛けた。
『氷室君また買いに来だしたから、仕入れてみた』
大将はそう嬉しい事を言ってくれる。そこまで言われたら買わないなんて選択肢は生まれる訳が無い。俺は、並んでいるドラゴンフルーツの中から、果肉が白い物と赤い物の2種類を数個ずつ買い物カゴの中へと移動させた。
その後も俺は、店の中を周り気に入った果物をカゴの中へと移動させていく。そして、どうせ俺と言う存在が居たからこそ食べられた。そう思って貰えるようにと、普段キャバクラやホストクラブなんかで出されるフルーツの盛り合わせに使われる定番フルーツと共に、意外と知られていないフルーツも出して、客に味わって貰うのも面白いかも知れないな。そう思い始めた。
「おっスターフルーツ見っけ……」
またしても少し珍しいフルーツを見付けた俺は、スターフルーツをカゴの中に。コイツはフルーツの盛り合わせを作る時に、手抜きが出来るフルーツの王様だ。なんせスライスするだけで勝手に切った断面が星型になってくれるんだから。
定番フルーツと見付けた珍しいフルーツを入れたカゴを持ち大将の居るレジにて会計を済ませる。その時に大将が俺に言ってきた。
『あっそうそう氷室君さ【ランブータン】って知ってる?』
大将の言った言葉に俺は非常に驚きながら、大将に詰め寄るぐらいのイキオイで答える。
「え? 何? 大将、ランブータンあるの? ちょうだい! ちょうだい!」
『あ~やっぱ知ってるのか~知らない果物だって言わせたかったのに』
大将は俺が知らないフルーツを見せて俺を驚かそうとしていたようだが、生憎と知ってるフルーツだったので、明らかに落ち込んだ顔をしながら、店の奥からランブータンを持ってきた。
俺は多分ホストクラブに通う客達が食べた事が無いであろうフルーツを3種類も見付けられた事に喜びながら、同時にまた【食べられなかった客】を出さない為にも、少し量を多目に購入した。
その後は、その他のオツマミの材料と必要な食材を業務用スーパーで買い揃えた。買い物を全て終わらせた俺は、車を走らせて一度店に行き、買ってきた物を冷蔵庫と冷凍庫に入れ、炊飯器にご飯を仕掛けてから、直ぐに店から出て夜の出勤時間まで自分の部屋で過ごす事にした。
そのまま店に居ても別に問題は無いのだが、如何せんヒマである。
店長なんかは、カラオケ歌ってていいよ。なんて事を言ってくれたが、流石に数時間以上も一人でカラオケは空しすぎる。
自分の部屋へと戻る道すがら何時も通る道を走っていると、白いビニールの買い物袋を提げた人の姿を何人も見掛けた。
「あっ今日は3の付く日か」
理由を思い出した俺は、少し寄り道をして3が付く日に立つ【市】を開く近所のパチンコ屋の駐車場を目指した。
既に市が立ってから時間が経過し過ぎていた事から、野菜類等は殆どが売れてしまっていたが、俺は野菜類を買いに来た訳では無い。
「確か前に来た時にあったんだよなぁ……」
何軒かの市の店舗を周りながら目的の物を探していると、数軒目にして、ようやく目的の物を見付ける事が出来た。
俺は目的の物である【ウコンの粉末】を3袋ばかり購入した。
「あいつら喜んでくれるかな?」
俺は一緒にラーメンを啜り特に仲が良くなった若手ホスト達の事を思い浮かべて、一人ニヤけていた。
部屋に戻り、出勤までの時間をゆったりと過ごした後、何時ものホストクラブで働くのに、その服装はどうなの? と言われるようなラフな格好に着替えて、店へと向かった。
店に到着した俺は裏口からキッチンに直接入ると、少し時間が遅かった事もあり、既に若手ホスト達は店に居て開店前の掃除や準備を始めていた。
「おはよ~少し遅かったか? 今から賄い作るからな~今日は何人だ?」
そう声を掛けながら、フロアの方に行くと若手ホスト達も挨拶を返してくれる。そして今日は8人分の賄い飯が必要な事を教えてくれた。
俺はそれを聞いてキッチンに戻り、消毒等をしていた物を一度洗浄した後で、キッチンの壁に掛けてあるエプロンを着け、腹を減らした若手ホスト達の為の賄い飯の製作に取り掛かった。
「う~ん……卵を処理したいな……チャーハンかオムライスってとこか」
冷凍庫に入っているハムとピーマンと玉ねぎと卵を取り出して、先ずは卵以外の物を全てみじん切りにしていく。
そしてボウルの中に卵を10個程割り入れ、しっかりと撹拌して混ぜておく。出来上がりを盛る皿を人数分用意して、その皿に昼に仕掛けておいたご飯をよそった。
ガスコンロの上にフライパンを2つ乗せ、熱したフライパンに片方にはサラダ油と一緒にバターを1欠片。もう片方にはサラダ油を極々少量。具材とご飯をバターを入れた方のフライパンに投入して、強火で一気に炒めていく。塩とコショウで味を付けたらケチャップを少量フライパンに入れて、フライパンを振りながら絡ませていった。ケチャップライスが出来た次は、もう片方のフライパンに卵を適量流し入れ、半熟に固まってきた所にケチャップライスを、玉子が割れないように静かに入れて、フライパンを振りながら柄の部分をトントンと叩いて、玉子でケチャップライスを包んでいく。
ラグビーボールの形に整えたら、片手に皿を持ち、フライパンをひっくり返すようにして皿に玉子に包まれたケチャップライスを盛り付けた。
そして、次から次に同じ行程を繰り返し、8人分のオムライスを作った俺は、片手に1皿持ち反対の手にケチャップを持ってカウンターへと向かう。
「メシ~」
そうマイクを使って若手ホスト達を呼びつけると、待ってましたとばかりに腹を空かせた若手ホスト達が次から次にカウンターへと集まってくる。俺はその中の数人に声を掛け、オムライスをキッチンから持ってくるのを手伝わせた。
『『今日はオムライスか~』』
『氷室さん来てくれて本当嬉しいよな~前までは、簡単なパスタとかばっかだったもんな』
美味そうにガツガツとオムライスを食べてくれる若手ホスト達を尻目に俺は、市場で仕入れて来た黄色の粉末を取り出して、カウンターの棚に置かれているシェイカーを掴み、ちょっとした作業を行う。
シェイカーの中にウコンの粉末を小さじ1杯ほど入れ、ミネラルウォーターを注ぎ、飲みやすくするためにガムシロップを少量入れてから、氷を詰めてシェイカーを振る。
シャカシャカとシェイカーを振った時に出る音を聞き付けた若手ホスト達は、俺の姿をじっと見てくる。
『氷室さんシェイカーも振れるんですね』
「違う! こっちが本職なの! 俺は料理も出来るバーテンなの!」
そう訂正を言った後に、グラスにシェイカーを振って作った物を注ぐ。
見た目黄色の変な色した飲み物を、俺は若手ホストに向けて。
「飲め」
そう伝えた。若手ホスト達は全員が、中々手を伸ばさない。
『なんすか? この変な黄色いの、罰ゲームか何かですか?』
「そんな訳あるか! これはウコンの粉末溶かした飲み物だよ、ウコンはアルコールの分解助けたり、二日酔いとかに効くんだよ、お前ら毎日たくさん酒飲むだろ? 騙されたと思って飲んどけ」
俺の話を聞いて、疑いつつも全員がウコン飲料を飲んでくれた。
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