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悪戯

 「まったくもってやれやれだぜ……」


 俺は難癖を付けて来たこの店のNo.1とか言うホストをキッチンから追い出した後、謝り続ける店長に気にしないように。後、店長に謝って貰うのは俺も心苦しい。と伝えておいた。


 店のフロアから聞こえる楽しそうな騒ぎはあるものの、静けさをやっと取り戻したキッチンと言う名の今は俺の城で、俺は思案を始めた。代わりになる物を用意してやる! とタンカを切ったまではいいが、実際に何を作ろうかと考える。


 冷蔵庫を開けて中身を見ながらアレコレと出来上がりを想像して少しばかり悩んだ後に俺は、半分に切り分けたパイナップルと馴染みの果物屋で購入しておいた、果肉が赤いと言う少し変わったリンゴを2つ。巨峰にマスカット、そして最後にイチゴを取り出した。


 その後に俺はフルーツのカービングに取り掛からずに、ズボンのポケットから携帯を取り出して、少し調べ物をした。

目的に最適と言える物を運良く見つけた俺は、悪戯を仕掛ける悪ガキのような笑顔を浮かべて携帯をズボンのポケットに直した。


 果肉が赤いリンゴを1つ手に取りカッティングナイフの先端を使い、リンゴの表面にうっすらと彫り込む文字の下書きの線を入れていく。

下書きが終わるとカッティングナイフを使い文字を実際に彫り込んでいった。文字自体はほぼ英字なので特に苦労も無く彫り込みを終わらせた俺は、カッティングナイフからカービングナイフに持ち直し、文字を彫り込んだリンゴの周囲に飾りを入れていく。

蔦がリンゴの表面を縦横無尽に這うような感じの模様を入れる。


 45分ほどの時間を掛けてリンゴの表面に文字と模様を入れ終えた俺は、次に実際に食べれる分のリンゴの飾り切りに取り掛かった。リンゴを縦に4等分に切り、芯の部分をよくあるV字では無く真っ直ぐ切り落とした後、皮の部分にV字型にカービングナイフを使い切り込みを入れていく。厚さを3㎜程度にしたV字スライスのリンゴを指で少しずつズラして見た目を華やかに見せる細工を施した。


 次に半分に切ったパイナップルの果肉と皮の間にカービングナイフを刺し入れ、皮と果肉を上手く切り離した俺は、果肉部分を特に飾り切りもせずに食べやすいサイズへと切っていく。


 切り終えたパイナップルの果肉と巨峰とマスカットを、パイナップルの皮の器の中に色彩を考慮しながら散りばめて、入れていく。


 そして最後の仕上げとして、イチゴにカービングナイフで切り込みを入れ、指で少しずつ果肉を開き果肉と果肉の間に空間を作る。

一番外側に5ヶ所の切り込みを入れた後は、残った果肉に一番外側の花びらと花びらの間にまた、切り込みを入れ花びらを作る。

その花びらを作る作業を繰り返して出来上がったイチゴで出来たバラの花を、パイナップルの器に入れたパイナップルと巨峰とマスカットの上に、バランス良く4つ程乗せて、アクセントにした。


 こうして出来たそれぞれを、皿に盛り付けてフルーツの盛り合わせを完成させた。


 フルーツの盛り合わせを持ったまま、カウンターへと向かい、何時もと同じようにマイクを手に取り、オーダーが出来た事を報せる。


 「店長リクエスト」


 俺の呼び出しに応じてやって来た店長に、作ったフルーツの盛り合わせを託し、姫神 楓の元に届けて貰った。

お詫びでしかも無料で、これだけの物をわざわざ作ってやったんだから、ゴチャゴチャ言ってくる事も無いだろう。そう思い俺はまたカウンターからキッチンの中へと帰ろうとしていた時だ。


 丁度、担当をしていた客の見送りを終わらせ、少し休憩の為にカウンターに居た、この店のNo.2でもある【早乙女 和哉】が俺に声を掛けてきた。


 『氷室さん、お疲れ様なんか大変だったみたいだね、後ごめんね、俺の客が例のスイカ頼んじゃったから……』


 俺はその言葉を聞いて、嬉しかったがちゃんと言う事は言っておこうと。


 「うん? あぁ気にしなくていいよ、早い者勝ちにしたのは俺なんだから、同伴なんかして知らなかったアイツに運が無かっただけの事だよ」


 その後も少しだけ二人で話をした後に、早乙女 和哉が突然笑い出して俺に顔を近付けて、小さな声で囁いた。


 『氷室さん勿論、あのリンゴに彫った言葉の意味って解っててだよね?』


 俺は、むしろコイツがあれを読めた事の方に驚いた。

俺は悪戯でリンゴの表面にこう文字を彫り込んでいた……


 【EL EGOÍSMO LLEVA A HUMILLACIÓN】


 俺は早乙女がしたように、早乙女の耳元に顔を寄せてから。


 「読めるの? 意味も?」


 そう言うと、早乙女は更に笑いながら頷いていた。


 そんなやり取りを二人でしていた時に、若手ホストのリーダー格でもある【ひじき君】がやって来て俺に質問をしてきた。


 『あっ氷室さん丁度良かったカウンターに居てくれて、今さっきのフルーツ盛り出したお客さんと、姫神さんから、リンゴに書かれた文字の意味を聞いて来いって言われて』


 俺は、ひじき君に教えてあげた。


 「あぁ~あれか、あれはスペイン語で【今宵は君だけの為に】って意味だよ」


 そう言うと、その場で何度か【今宵は君だけの為に】と繰り返した後、覚えたのかひじき君は、テーブルへと戻って行った。

俺と早乙女は、そんなひじき君の後ろ姿を一緒になって見送った後に、顔を見合わせて二人で笑った。


 【EL EGOÍSMO LLEVA A HUMILLACIÓN】


 本当の意味は……


 【ワガママな態度は恥辱をもたらす】

↓↓↓↓こちらの作品もよろしくお願いします。

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