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シャンパンフルーツポンチ

 無事に客の元へと運ばれて行く小玉スイカに彫り込んだバラの飾り切りを見届けた俺は、キッチンに戻った後にそのまま休憩に入らず、冷蔵庫の中から数種類のフルーツを取り出して、愛用のナイフを手に取り新たな飾り切りを作って行く。


 もう一つだけ冷蔵庫の中で出番を待っている小玉スイカの飾り切りを施した、フルーツポンチの器がオーダーされるのも時間の問題だと思ったからだ。


 「さてと……何使うかねぇ……」


 冷蔵庫の前でしゃがみ込み冷蔵庫の中に入っているフルーツ類を眺めながら、出来上がりを頭の中で想像していく。

リンゴはまぁ定番故に確定として、他に2~3種類は使わなければ、逆に小玉スイカで作った器が目立たなくなりそうだな。

そう感じた俺は、派手な飾り切りで華を添える事よりも、シンプルにした方が良さそうだと感じて、パイナップルとバナナに手を伸ばした。


 まな板の上にバナナを2本乗せ、カービングナイフを使い一口大の大きさに切り口がジグザグになるように斜めにナイフを入れていく。これはキュウリ等の飾り切りでもよく使われている手法と同じなのだが、バナナでやるとまた違った趣になり見映えが良くなる。


 バナナの飾り切りを終わらせた俺は次にパイナップルの飾り切りに取り掛かった。パイナップルを付いている茎と葉ごと縦に4等分に切った後、果肉と皮の間にペティナイフを刺し入れ切り離す。

切り離した果肉に縦に2本のV字の切り込みを入れ果肉に装飾を施した後に1cm程の厚みに切る。そして切った果肉を元の皮を器に見立て戻した後に、手を使い1枚1枚を少しずつ左右にズラして完成させた。


 簡単な飾り切りなのだが、意外と見映え良く見える飾り切りを施した、バナナとパイナップルをそれぞれ皿に盛り、上から軽くラップを被せて冷蔵庫の中へと戻した。


 下準備を終わらせた俺はバナナの切り端の皮を剥いて、自分の口の中へと放り込みバナナの甘味を味わいながら終わらせた仕事で生じた少しばかりの疲労を回復させる。


 パイプ椅子に腰を下ろし調理台の隅に置いてあったタバコの箱からタバコを1本取り出してライターを使い火を点す。

少しは休ませて欲しい。そんな事を考えながらフロアから聞こえてくる楽しそうな声を聞きながら、そんな事を思いつつキッチンの定位置で時間を過ごしていた。

 

 しかしそんな優雅な時間を過ごさせてくれる訳も無く、パイプ椅子に座り30分程しか経っていないと言うのに、早くもキッチンに若手ホストがやって来る。


 『氷室さん例のスイカのオーダー入りましたよ~3番からです』


 そんなオーダーのリクエストを聞いて座っていたパイプ椅子から、よっこらしょっと立ち上がった俺は、オーダーを終わらせてテーブルへと戻ろうとしている若手ホストに声を掛けた。


 「どうせ直ぐにオーダー来ると思ってたから、もう後は皿に盛るだけにしてあるから、3分ぐらいで終わるから待ってて」


 『あっそうなんですか? それじゃカウンターの方で待ってますね、シャンパンとシャンパングラスの用意もあるんで』


 そうやり取りを終えた俺は、食器棚から新たな大きめのフルーツ皿を1枚取り出して、布巾を使い皿を一撫でした後に冷蔵庫の中から飾り切りを既に終わらせ準備していたフルーツ類を取り、皿に盛り付けた。


 その時に念のためにと、器にしたスイカの中に入れておいた、丸く切り抜いた具の具合も確認したが、問題は起きて無かった。


 「こんな感じかな?」


 出来上がったフルーツの盛り合わせの出来映えの最終確認を終わらせた俺は、皿を持ってカウンターへと向かう。カウンターでは既にシャンパンを冷やす為に氷と水が張られたシャンパンクーラーに数脚のシャンパングラスが用意させていた。


 若手ホストは、俺が持ってきたフルーツの盛り合わせを確認した後にカウンターのマイクを握り、一人では運べない量の物を持って貰う為のヘルプを呼んだ。


 『カウンターリクエスト』


 ヘルプに着いてる若手ホストに向け、席を離れても問題が無いホストはカウンターに来るように。と言う符丁を含む言葉が店内に響く。程なくして二人の若手ホストがカウンターへとやって来た。


 フルーツの盛り合わせを乗せた皿。シャンパンクーラーとシャンパングラス。そしてこの店で一番の高値を付けているシャンパン。とそれぞれが持って行く物を決め、オーダーが入ったテーブルへと運んでいく。俺はそれをカウンターの内側から確認した後、やりきった感に包まれながらキッチンの中に戻った。


 パイプ椅子に座り、今度こそは少しは休めるだろうと思い、タバコに火を点けて紫煙と共にタバコの香りを楽しんでいると、表のフロアの方から大勢のホスト達による【シャンパンコール】の賑やかな掛け声と合いの手が聞こえてくる。


 俺はその声を聞きながら、客にウケると良いがなと思うと同時に楽しそうだな。と顔を綻ばせた。


 その後は忙しくなる事も無く、普通のオツマミのオーダーを2~3作るだけで、特に何も無く時間は過ぎて行った。


 この店のNo.1であるホストの【姫神 楓】が同伴で客と一緒に遅れて店に来るまでは……

↓↓↓↓こちらの作品もよろしくお願いします。

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