お披露目その1
若手ホスト達が美味そうに俺の作った賄い飯を食べてくれる事に満足した俺は、キッチンに戻り使った調理器具等を洗浄したりと、片付けを終わらせた。
飲み物を入れたグラスとタバコを持ってキッチンからカウンターへと移動すると、店の掃除を既に終わらせていた若手のホスト達も休憩をしているところだった。
カウンターの上に積まれていた灰皿の一つを取り、タバコに火を点けて紫煙を大きく肺の中へと吸い込み、ゆっくりと味わうように吐き出す。
「今日もこれから、街に出て営業活動?」
俺は掃除を終わらせ、ネクタイを絞めている若手ホストの聖くん改め、ひじき君にそう声を掛けると。
『そうですよ~殆ど毎日行きますね』
そう答えてきた。俺は本当ホストって大変だよなぁ……そう思った。これが女性の例えばキャバ嬢やヘルス嬢なんかなら、客の方から勝手に店に次から次に店に来てくれるから、店の始まる前に街に出て客を探す。なんて事する必要も無いだろう。
「実際どうなの? 街に出ての営業活動って」
『まぁ……百人に声掛けて一人店に来てくれたらラッキーってぐらいかな~』
そう言ったひじき君は、俺に苦笑いを浮かべて教えてくれた。
「初回の人狙いなんでしょ? やっぱ」
俺がどんな相手をターゲットにしているのか、聞き知った程度の知識が合っているのか確認する為に聞いた質問に。
『うん、そう、氷室さん案外詳しいね、ホスト業界初めてなんだよね?』
「まぁ、夜の仕事もそれなりに長いから、多少は人に聞いたりとかもしてるから」
ホストクラブには【初回特典】と言う物が、ほぼ全ての店で設けられており、その特典をエサにして、道行く女性達に声を掛けて、店に連れ込みホストクラブがどれだけ楽しい場所なのかを教え込み、通わせようとする。時間無制限で、5,000円程度で飲み放題でホスト達が盛り上げてくれる初回特典は、本当にお徳だと思う。
まぁその特典だけで自制が効く人にとっては。と言う但し書きが付くけどな。
「風俗店巡りなんかもしてるだろ?」
俺がもう一つのホスト達がよく使う営業方法の事についての質問を投げ掛けると。
『してるけど、自腹じゃ中々行けないから、先輩に連れて行って貰える時ぐらいかな~』
「それで、営業しないで普通に楽しんじゃって帰るって?」
『氷室さんそれダメホストあるあるじゃん! 何でそんな事まで知ってるのよ』
そう言って俺のボケに対してツッコミしながら、笑ってくれた。
俺も同じように、ボケが通じた事に笑う。
そんな世間話をしていると、店長が中堅のホスト達何人かと共に店にやって来た。若手ホスト達は、店長や先輩ホスト達に向け挨拶をした後、店長に。
『『それじゃいってきます』』
そう声を掛け今日も街へと繰り出して行った。俺は店から出ていく、ひじき君の背中に。
「頑張れよ~初回荒しなんて連れて来るなよ~」
そう声を掛けて見送った。そんな俺に店長が苦笑いを浮かべ。
『氷室君、縁起悪いから……』
「店長、おはよう、ギャグだよギャグ!」
そう言って、またタバコに火を点けた。その後は中堅ホスト達とも挨拶を交わし、雑談に興じて開店時間まで過ごして行った。
開店間際の時間になり、街に繰り出していた若手ホスト達も店に戻り始めた頃に、上位の複数の担当を持つホスト達も店へとやって来たのを見計らい、俺は店長とナンバーズとも呼べる上位ホスト達に声を掛けていく。
「ちょっと見せたい物あるから、カウンターのとこで待ってて」
そう声を掛け、店長や上位ホスト達をカウンターで引き留めた後に、キッチンに戻り、冷蔵庫の中から作っておいた、バラの花が刻まれた飾り切りを施した小玉スイカを乗せたトレーを取り出して、慎重にキッチンからカウンターへと運んだ。
カウンターの上に置いたバラの花が刻まれたスイカを目にした店長や上位ホスト達は全員が揃って、見せられた物に感嘆の息を飲み込む。
「ちょっと久し振りに腕が落ちてないかの確認も含めて作ってみた、どう?」
俺が感想を求めると、全員が揃って【すごい】と言ってくれる。
『これ……氷室君、後何個あるの?』
店長からの質問の意図は、直ぐに理解した俺だが……
「店長、ごめんね試作だから一個しか無いのよね、だから早い者勝ちになっちゃう」
俺が店長に答えた内容を聞いていた上位ホスト達は、全員が【一番最初に客を呼ばないと、これを使えない】と言う事が理解したのか、慌てて携帯を取り出して営業を始めるホストも出た。
『こんなすごいのなら……5万……いや10万でもいけるよ、これ半分を氷室君の技術料として店から払うよ』
店長が嬉しい事を言ってくれた。金額の高さはどうでもいい。俺の技術に対して売値の半分も払う。そう言ってくれた事が嬉しかった。
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