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初日~その1~

 俺は今、繁華街の中を歩いている。しかも、ホストクラブと言う形態の店が比較的に多く集まっているエリアの中を。

周りを見渡せば、ビシッとオシャレなスーツを身に纏い、このエリアに入ってきた女性達を、このエリアから他のエリアへと向かい女性達を自分のお客さんとして、自分の働くホストクラブに誘おうと目論んで居るホスト達の姿が、あちらこちらに見える。


 俺はそんな場所を、目的地に向かい歩いている。

しかも、場違いこの上無い、Tシャツに膝下丈のハーフパンツ頭には、バンダナ代わりに【山本青果店】と言うロゴの印刷された、いかにも安そうなタオルを巻いて。手には、目的地である店の名前と簡単な地図が書かれた紙を持ち、反対の手には子供達に大人気の頭がパンで出来たヒーローがプリントされている紙袋をぶら下げている。


 周りのホスト達や、ホストクラブに行こうとしている女性達から、さっきからチラチラと見られているような気がしていた。

さっさと、この場違いな格好でホストクラブが乱立しているエリアの通りから消えたい。そう願って居るのだが、残念ながら俺は絶賛迷子中のようだ。


 他の業種等でこの同じ繁華街の中で働いていた経験も過去にはあるのだが、如何せんホストクラブエリアになんて用事も無かった為に、イマイチ何処に何があるのかが分からず、しかも書いて貰った地図が下手くそな地図な事もあり、全く目的地に着けそうに無かった。


 「あ~もう帰っちゃおうかな~やりたくて来た訳でも無いし……」 


 周りからジロジロ見られる事と辿り着けない事との苛立ちで、そろそろ真剣に帰りたくなってきていた。


 本気で帰ると言う選択肢を選ぼうかとしていた俺は、Uターンをするか進むか決める為に、路上で立ち止まって思案をしていた時に、声を掛けられた。


 『お兄さん、すっごい場違いな格好してるね』


 そんな事は誰かに言われるまでも無く、俺が1番自分の身でヒシヒシと感じてるわ。そう思い声がした方を向くと、イケメンなホストを連れた、めっちゃ綺麗な女性が微笑みながら立っていた。


 「あ~場違いだよな~俺もそう思う、目的地も見付からないし、もう帰っちゃおうかと思ってたんだよ」


 『何処か行きたい場所でもあるんです?』


 そうイケメンホストに聞かれた俺は、手に持っていた紙をホストに差し出して。


 「【EDEN】って店に行きたいんだけど、この地図見ても全然辿り着けないんだよね~」


 店の名前を聞いたホストは、笑いながら俺が差し出した地図を見て、道を教えてくれた。どうやら俺は2~3回は店に気付かずに、通り過ぎたりしていたようだ。


 『お兄さん【EDEN】で働く新人さん?』


 綺麗な女性がそう聞いてきた。まぁある意味で正解だったので、俺が頷くと、女性は隣に居たホストに向かい。


 『悠の後輩君だね、あっ私のヘルプに着いたらよろしくね』


 どうやら、俺に声を掛けたきたホストと女性は、俺が目的地にしている店のホストとそこに通うお客さんの2人連れだったようだ。

そして、その2人に教えてくれた礼を言ってから俺は、目的地に店にようやく辿り着く事が出来た。


 店のドアを開き店内に足を踏み入れると、何度か行った事もあるキャバクラなんかに似た内装の店の造りになっていた。

かなり、キャバクラよりも派手な感じがしてるが。


 店内を進んでいき、近くに居たホストっぽい人に声を掛けた。


 「あっすんません、店長さん居ます?」


 俺が店長の所在を訪ねると、そのホストっぽい人が店内全てに響き渡るようなデカい声を張り上げて、店長の事を呼んでくれた。

店長は、その声を聞き付けたのか、店の奥から店内にひょこっと顔を出し俺の姿を確認すると、笑みを浮かべながらコジャレたカウンター席の向こう側から近付いて来た。


 『あ~氷室くん、来てくれたんだ、遅いから来ないかと思ってたよ』


 「いやいや、そりゃ来ますよ一応は約束してたんですから」


 俺は、店長の問い掛けにそう答えた。ここに辿り着くほんの10分前には、本気で帰ろうとしていた事など、おくびにも出さずに。

店長は少し遅れた理由を聞いてきた。別に遅れた事自体を責めるつもりは無さそうな雰囲気を出している。そう察した俺は、店の名前と簡単な地図の書かれている紙を店長に差し出し。


 「この地図見て辿り着けるのは、書いたヤツだけです」


 そう言うと、心外だったのか、近くに立つホストに紙を見せて、地図の精度を聞いていた。聞かれたホストもどうやら俺と同じ意見だったようで、笑いながら店長に【この地図で辿り着くのは無理】そう言って笑っていた。

 

 その後、俺を置いてきぼりにして、ホストと2人で話を始めた店長。本気でもう帰ろうかな……


 「あの~俺もう帰っていいかな?」


 話が終わりそうに無いのと、店長から是非にと言う形でここに来ている俺は、一向に事態が進まない事に、そこそこ苛つきを覚えていた。


 『あっごめんごめん』


 店長は微塵も悪かったとは思って無さそうな態度で言葉だけで、俺に謝罪をしてきた。俺はこの時は、もう既にヤル気がマイナスにまで落ち込んでおり、本当に適当に言われた条件以外の事は、しないでおこう。そう決意した……そんな決意は直ぐに無くなってしまったのだが、この時は本気でそう思っていた。


 『それじゃ、こっち来て氷室くんの仕事場に案内するから』


 店長の後ろに従い、店の奥へと俺は歩いて行く。この店で俺は働いて行けるのか? という一抹の不安と共に。

 

↓↓↓↓こちらの作品もよろしくお願いします。

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