イミテーションの過去
一命を取り留めたフェイルは自身の体を確認する。
「あれ?熱くない、それに痛くもない、何が起きたの?」
それに魔法少女が答える。
「あなたはあの2人が作った魔法陣で助かったの!良かったぁ生きてて」
その言葉を聞いて絶望した。
「不老不死の魔法を使われたの……?」
日々の人体実験の繰り返しで精神は摩耗し、死ぬ事で解放されると思っていた。先程2人を庇ったのも自分が死ぬ為だったのかもしれない。
「嫌だ……死にたい、もう実験は嫌だ……殺して、殺して……」
魔法少女に殺してくれと懇願する。
毎日毎日、薬品や体を弄繰り回されるのはもう嫌だ。死ねば楽になれると思ったのに死ねなくなったなんて地獄が永遠に続くと同じだ。
「落ち着いて!もうあなたを虐める2人はもう居ないの!だから死にたいとか言わないで!」
そこまで言われてフェイルはハッとする。先程2人は魔物に殺された。もう実験されなくて済むんだと。
「もう実験されないの?……痛い思いをしなくて良いの?」
「そう、あなたは自由なの!こんな所から早く出ましょう?」
魔法少女が腕を引っ張るがフェイルは進まない。
「自由……自由って何をすれば良いの?2人が居なくなったら僕はどうしたら良いの?実験は嫌だ、でも実験されないと居場所が無い……外?外の世界なんて分からない……ここから出る?僕は何処へ行けば良いの?分からない分からない分からない……」
今まで散々いい様に使われてきたフェイルは2人が居なくなった事により居場所を無くしてしまった。
フェイルが取り乱した事で魔法少女は引っ張っていた手を放し、頭を下げる。
「私のせいだ、私があの2人を見殺しにしたせいであなたをひとりぼっちにしてしまった。ごめんなさい!」
魔法少女が謝ってくる。
「僕はここから出るべきでは無い……僕はここに居なければならない……帰って、帰ってよ!」
フェイルは強い拒絶を魔法少女に示す。
「ごめんなさい……ごめんなさい!」
少女は涙を流しながら謝るがフェイルも泣きながら拒絶する。
「僕に自由があるならここに残る……だから帰ってよ!」
「わかった……あなたの言う通りにする……本当にごめんなさい」
魔法少女は2人が死ぬ間際に開けていた出口から外に出る。
一人残ったフェイルは蹲り、自分が生き残ってしまった事を後悔した。
「なんで、僕なんだ!あの2人が不老不死になりたいって言ってたじゃないか!僕が生き残っても何も出来ないのに、どうして、どうして僕なんだ……ううっ」
一人残ったフェイルは自殺しようとするが自殺を考えるだけで頭に電流が流れる様な痛みが走る。
何とかメスを掴んで手首を切ろうとしたが、頭に走る痛みでメスを落とす。その瞬間、頭に走っていた痛みがスッと消える。
「そんな……」
フェイルは確信した。自分で死ぬ事が出来なくなったと。
魔物の襲撃から何日経ったか、ずっと研究施設の中で籠っていたフェイルの元へまた、魔法少女がやって来た。
「あの、この前はごめんなさい……」
開口一番謝罪する魔法少女。
「謝りに来たなら僕を殺してくれ、自分じゃ死ねない体になった。僕はもう生きたくない」
魔物を一撃で倒した魔法少女なら僕を殺せるだろうと思ったフェイルは魔法少女に対して殺せと訴える。
「それは……出来ない、あなたに会わせたい人を連れて来たから会って欲しい」
魔法少女は誰か人を連れて来た様だが、僕はそんな人に心当たりなど無い。
「あの時、出ていく途中であなたに関する資料を見たわ」
僕の正体について彼女は知ってしまった様だ。
「僕みたいな失敗作の事なんて知ってどうするの?」
16年言われ続けた言葉、今更何も思わない。
「自分を卑下しないで!私はあなたを救いたいだけなの!」
僕を救いたいと言う魔法少女はいったいどんな人物を連れて来たのか
「救いたいなら殺してくれ」
だが、そんな人物などどうでもいい。救いがあるならそれは死だ。
「あなたが死にたがるのも分かるけど……」
「分かってたまるか!!いい様に使われて最後に殺される!それで俺の役目は終わりだったんだ!」
自分を理解したかの様に言われて感情が爆発したフェイルは先程までと口調が変わる。
「それをお前が邪魔して、2人は居なくなって……俺の居場所なんてもうこの世界には無いんだよ!」
彼女は悪くない。それは分かるが、噴き出した感情が止まらなかった。
悲しそうな顔をする少女の後ろから一人の人物が歩いてきた。
「ハッハッハ、威勢の良いガキだ!」
その人物はこの場に合わない赤いアロハシャツを着ていた。
「誰だ?」
つい、聞いてしまうのも仕方のない事だろう。
「俺か?俺は遊馬遊造。言ってしまえばお前のじいちゃんって所か」