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18話『ドローンとゲーム開発とレズ』



 人工知能AIは日々発展し、僕らの生活を肩代わりしていく。

 人類抹殺プログラムとか世界崩壊AIとか、多分そんな物を開発していた前の職場(調べようとしたのだが僕の検索能力でも一切出てこなかった。怖い)での経験を活かして僕専用に作った補助AIは正確で賢い。

 そしてなんというか、真面目だ。仕事の役には充分立ってくれる。最大環境でプログラマー55人分に匹敵する能力を発揮することが可能だ。これ以上になると何やら矛盾が発生してまともに動かなくなる。

 僕のAIはさしずめ堅物メガネ委員長タイプで、仕事も沢山できるのだけれど、あまり委員長を頼りすぎて押し付けると熱を出して倒れる感じだろうか。そこでお見舞いに家へ訪ねる僕。熱を出して髪の毛を下ろしたいつもと違う雰囲気の委員長。いいシチュエーションだ。


 しかしながら『人工知能の父』という圧倒的パパ感ある称号を持つイギリスの偉大なる科学者アラン・チューリングは、


「人工知能はドジっ子が最高だ!」


 と声高に主張したことで知られている。

 予期せぬミスをし、想定の範囲外の行動を取る。一見非効率に見えるその仕組みが、あらゆる問題を解決可能になる最高AIへの道筋なのだと彼は唱えた。

 どのぐらいのドジシステムを導入すればいいか考えた彼はこう提案した。


「人工知能のパーツ内に高濃度放射性物質とか組み込めば勝手に狂い出すんじゃないかな」


 彼は狂っていた。発想が完全にマッドサイエンティストだった。色々あってチューリングは逮捕されて化学的去勢され、学会から立場を失って毒リンゴを齧って自殺した。チューリングが齧った毒リンゴは後にアップル社のロゴになったとも言われている。

 チューリングのドジマシンを例えるなら幼馴染のドジっ子少女。なにもないところで転んでは誤魔化すように笑うので、やれやれと手を差し伸べるのは僕の役目だ。

 しかしながら彼女がなにもないところで転んだり、突然物忘れをしたりするのは彼女の父親が脳手術で徐々に染み出す毒物を入れて脳組織が破壊されつつあるからだった……怖っ! チューリングパパめっちゃ怖! 完全に悪役じゃん!


 そんな妙なことを考えつつ今日も今日とてゲームのプログラミングだ。

 非常に優秀な僕とAIの完徹作業で状況はかなり進んだ。今朝一番で昨日までの進展をゲーム会社のプランナーさんへ送った。『はっや』って驚いたようなメールが帰ってきたが、今は確認中のハズだ。

 そして片手間に作り上げたもう一つのプログラム。


「レズ後輩は今日はドローンのテストをしてくれ。どこか樹木の多い公園でいいかな」

「ドローンとか動かしたこと無いですよ私」

「適当に飛ばしても大丈夫なようにしてるから」


 幸いなことに僕らの住む多摩あたりには自然の多い公園が幾つもある。畑を自動警備するドローンのテストをするには充分だ。

 後輩の営業仕事は美月さんが根津グループの別会社に連絡を取ってくれているらしい。『シノビヤ』という総合営業会社で、主に根津系列の商品をなんでも営業して回っている会社だった。意外なことに歴史が古く、最初は江戸時代に地主である根津家で作った卵とか食品などを売り歩きしていた会社で、根津グループの中でも一番の古株である。

 ともかく幾ら美月さんでも当日のすぐさま後輩をその会社にねじ込むことは不可能なので、今日も彼女は僕の手伝いだった。


「とりあえずセンサーと画像認識を入れてるから、障害物にぶつかりそうになると一定距離を保つようになってる。まず後輩が適当な範囲を畑だと過程してそこを囲むように飛ばせてみて、二回目は自動で飛ぶようにスイッチを切り替える。コントローラーで出来るからはいこれ」

「先輩!? ばか! コントローラーが鉄人28号のリモコンなんですけど!?」


 僕が取り出したのは、ドラえもんの手に似た形の電波送信アンテナが二つありボタンが三つ付いたコントローラーだった。


「まあコントローラーの形状自体は何でもいいんだけど。これの場合ボタンが三つなシンプルタイプだから押す順番とか長さとかで操作が変わって……」「シンプルすぎて操作の仕方がモールス信号みたいになってるじゃないですか! ばかですか!」

「むう……じゃあなんでも好きなコントローラーを言ってみてくれ。設定するから」


 後輩のリクエストにより、ドローンを動かすのはニンテンドー64のコントローラーに決定された。手に馴染んでいるらしい。

 ボタン数も多いしまあ設定しやすいっちゃしやすい。無線端子を組み込んで試しに室内で飛ばしてみた。


「こっちが浮上で下降。前後左右。単純操作で簡単だろ? スマホで登録すれば撮影中の映像も確認できる」

「おお……そもそもラジコンって扱ったの初めてかも」

「女子ってあんまりやらないからなあ。僕なんか大学の頃、ラジコン大会に出て準優勝だったぞ」

「大学生でラジコン大会て。先輩はガキだなあ……ちなみに優勝した人は?」

「一位は四つリモコン使って十二機の魚雷搭載型ゼロ戦を縦横無尽に飛ばしてた」

「それスネ吉兄さんじゃない!?」


 まあ僕も今なら、AI組み込んで動きを周りに同調させるようにすれば一つのリモコンで飛行機の編隊を飛ばせるだろうけど、四つを自在に操るあのパーマの男は驚異だった。

 幾らか後輩に室内で飛ばせて勘を掴ませて送り出す。昨日よりは肉体労働じゃないから大丈夫だろう。何かあれば連絡が来るし、なんなら僕はオフィスに居ながらでもドローンのAIを再調整できる。

 

「じゃ、頼んだぞ後輩」

「はあ……ラジコン遊びじゃなくて早く営業に戻りたい」

「……聞きたいんだけどなんでそんなに営業がしたいんだ?」

「それはですね、レズ営業が」

「いや、もういい」


 凄まじくどうでも良さそうだったので後輩の話を打ち切った。


「とにかく。先輩もさっさと忙しい部分を終わらせて、これまで通りそこらの会社のちょちょっとしたシステム周りの改善とかそういう雑魚仕事に戻ってくださいね。取ってくるの私なんですから」

「へいへい」

「私が取ったきた仕事を奴隷のように先輩に従事させることでそこはかとない優越感が!」

「お前そんな気分で僕に仕事持ってきてたの!?」


 まあとにかく。

 後輩を追い出して(ゲーミングパソコン用バッグはドローンも入る)僕は仕事に戻った。プランナーさんからの返事は聞いていないけど進めてしまおう。取り返しがつかないぐらいに。面白く仕上がればそれでいい。

 プログラミングの仕事をしながらもipadではドローンが録画を開始したら映像を受信できるように設定しておく。無線で映像を飛ばせるがその距離は携帯通信を利用してほぼ日本中どこにでも送れる。まあ、通信料金に注意が必要だけれど。

 真面目な委員長AIと委員会の居残り仕事をしている気分でバシッとコードを繋げまくる。バグ取り用AIに常に見晴らせて間違いを自動修正。ソシャゲだけあってやたらとキャラクターの素材は多い。これを全部使うのは大変だけれど、まあ頑張る。

 暫くしたら携帯が震えたので取る。プランナーさんからだ。


「はい」

『ちょっと瀬尾さん!? 他はともかくゲームの戦闘パートですけど、普通のRPG系だったのがなんかDOOMみたいになってるんですけど!?』

「やりました」

『なんで!?』

「そっちの方が斬新かと思って……」


 実際には、スマホの画面を使ったタッチやフリックでは動作に限界があるので、自動スクロール型FPS……ゲームセンターに置いているガンシューティングゲームみたいなものだ。画面は自動的に進んでいき、前後左右から出てくる敵をタッチフリックで仕留める。仲間やお宝は回収する。テスト部分として序章の戦闘パートを添付しておいた。

 ちゃんと素材はソシャゲのものを使っているので、美少女キャラクターがスッと現れてショットガンで撃たれて「あ゛ぁおお゛」などと悲鳴を上げて死んでいく。「シャッガァン」とか「ダイナマァイ」とか武器を持ち帰ると呼称する。そういう声優さんの音声データが入っていたのだから利用させて貰った。

 やろうと思えばタッチフリック操作でDOOMの操作を完全再現できなくもないのだけれど、死ぬほど複雑になって不評になりそうだったのでやめた。


「だって指定されてたRPGパートが凡百すぎて絶対受けなさそうでしたから……」

『脳が死んでてもプレイできるような凡百なのでいいんですよソシャゲは!』

「『みんな、無事か!? いや……再開を喜ぶ前に、まずはこのJAを倒そう!』とか『くっ……JAの奴ら町中に魔物を放ちやがった! 急いで倒すぞ!』とかどっかで見たような展開で戦闘に突入するのばっかりだったので……」

『それはシナリオの問題ですよ!』


 どうやらプランナーさんは大胆にゲームシステムを変更したことが不満のようだ。

 僕はなんとか説得する。だってDOOMの方が作っててやる気出る。

 近頃の若年層はイカとかでこういったアクションシューティングに慣れ親しんでいるので受け入れやすかろうということ。中高年層はRPGの編成を考えるのが面倒になりがちなのでタッチでパズルするゲームに近いこっちの方が馴染みやすいこと。

 そもそもゲームのメインは農業なので戦闘パートはおまけゲームに近いこと。DOOMがいかに優れたゲームであるか。

 説得をしながらも勝手にゲーム開発は手元で続けている。ゲームシステムだけではなく、ドロップアイテムの所得や確率、ステータスアップアイテムの反映方法、装備品の効果、必殺技の能力など大胆に変えるものだから殆ど一から設定した。

 僕の熱意を通じてか、プランナーさんの頭ごなしな否定は鳴りを潜め、唸り声を上げていた。


『うーん、そこまで言うならプロデューサーに話してみますけど、駄目なときは駄目ですからね!』

「いやー頑張ってプランナーさん説得してくださいよ」

『説得って言っても』


 と、その時。

 横に置いていたipadがドローンの映像を受信した。どうやら後輩が公園についてドローンの電源を入れたようだ。

 画面が映る。カメラが調節するように前後左右を見回した。

 そしてローターの風圧で舞い上がった後輩のスカートの中を撮影した。


「……しろ!」

『ええっ!? そんなに強気で説得をしろと!?』


 ぐああああ! 目がああああ! 後輩の白い布切れを見てしまったあああ!

 どうやらカメラ位置など気にせずにすぐ近くに立ってスイッチを入れたようだった。いつもはズボンなのになんで今日はスカートやねん!

 ってああ、朝に「遊びみたいな仕事をパリッとしたスーツでやってたら残念な職だと思われるので、オフの格好でやった方がマシです」とか言って私服姿だったんだった。フワッとしたスカートとか持ってたんだな。

 しかしあれだな。学生時代だとラッキースケベとでも思うのかもしれないけれど、社会人になるともう普通の生々しいスケベっていうか……見ても嬉しいというか気まずい雰囲気だ。たははーって喜ぶ気分になれず、単純に、むっと……

 はっ!? 性格最悪公共の敵なレズ後輩にスケベとか意味不明な感想を!

 多分疲れてるんだろう。一睡もしてないし。今晩は個室ビデオにでも泊まるか。


『はァい取締役の根津でェす……』

「この声は……根津Pさん!?」


 電話先の相手が変わった。根津ゲーム会社の取締役。美月さんの一つ下の弟さんだったか。オタク趣味が高じて(根津一家の男は大体オタクだけど)ゲーム会社を立ち上げたのがこの人だった。

 取締役でありながらも小規模な会社のため、ゲーム制作では社長兼プロデューサー以外にグラフィッカーも担当している。


『もしもしチャン瀬尾? まず重要(ヨージュー)なのはゲームのリリースなわけよ。このDOOM案でチョッパヤに作れるんなら全然オッケーなんだけどそこんとこどうなの』

「はあ。とりあえずゲーム部分は一章までのストーリー部分と基本繰り返しの農業部分ですんで、これで進めば明日にはテストできるかと」

本気(ジーマー)で!? 作業始めたのっていうか挨拶したの昨日だよね!? 意味不なぐらいハッヤ!? ツクール系のソフトじゃねえんだぞ!?』

「進めてもよろしゅうございますか?」

『お、おう。チャン瀬尾ガンバッテ。俺チャン応援しちゃう』


 後輩に買ってこさせた機材のおかげだな。能動的に休むことなく動く僕のAIたちがモリモリ素材を組み立てていく。

 勝算というか、許可を受けるはずだという予想はあった。なにせ外注のプログラマーに頼むぐらいで他にやれそうな人が居ない上に、ゲーム素材からするとほぼリリース分は完成しているのにプログラム上の問題で出せていないのだから焦りもある。後は僕が面白いゲームに仕上げるだけだ。

 売上が心配ならAIを使ってゲームのステマをしまくってもいい。ハッキング・サイバー攻撃、そして情報戦にも使える僕のAIならネット上に大量の情報をばらまくことも可能だった。

 まあそんなやり取りを適当にしながらipadの画面でドローン飛行中の映像を確認する。問題なく飛行しているようだが……

 アッ公園の目立たないベンチで手を握りあってる女子高生レズカップル(ギャル系の子とバレー部系の子がなんかもどかしい距離感)を発見して舐めるようにドローンで撮影してやがる!

 馬鹿! ドローンは結構音が出るんだぞ! ほらバレた! バレー部がバレーボールぶん投げてきた!(バレー部なので当然バレーボールを投げてくる。当たり前だ)

 だけどドローンの飛来物をセンサーで感知して自動的に回避するシステムでボールを避ける。これは、畑に泥棒が入ってきた際のドローン哨戒にて泥棒が石などを投げて撃墜しようとするのに対抗するために作ったシステムだ。

 レズカップル憩いの一時を邪魔したクソレズ後輩は満足げにドローンを飛び去らせていった。殆ど変態の盗撮マニアだ。 


 根津Pと他に2、3確認して電話を切った。兎にも角にもまずはβテスト版を完成させよう。とりあえずそこまで作ってからゲーム会社の方で確認やリリースに向けた調整、サーバーの管理などの手続きが必要になる。

 軽く伸びをして体をほぐす。昨日からずっとやっているので、今日一段落付いたら休むべきか。

 昼食の準備もしておかねば。AIに指示を出して作業を任せておく。腸詰め入りの焼きそばあたりでいいか。卵があったから薄焼き卵で包んでオムそばにしてもいいかもしれない。このあたり流行ってる地域と全然やらない地域で分かれるのだけれど焼きそばに卵の組み合わせはかなり合う。美月さんもカップ焼きそばに生卵入れて完全栄養食とかほざいてたので喜ぶだろう。

 子供の頃に美月さんの実家で根津パパさんが珍しくお菓子を作ってくれて、薄焼き卵でこしあんを包んだものを「はァいオムアンコー! さあリピートアフタミー、オムアンコー!!」とか言いまくって美月さんが顔真っ赤にしてたことをふと思い出した。僕がやると完全にセクハラだ。


 そんなことを考えていると、ドローンの映像で自動運転に切り替わったらしく同じルートを回っている。レズカップルはもう居なかった。

 充電ステーションに平時は待機し、畑の各所に設置したセンサーに動体反応があったら自動的にその地点まで向かい、大きな音や光を鳴らす。基本的には時間設定で夜間警備という形になるだろうか。昼間も動いていたら農作業者と泥棒の見分けが付きにくい。

 また、野生動物もいずれ音や光に慣れたり、怯まない泥棒だったりするパターンもあるので強力臭い付きの色水を噴射する機能もつける。そうすれば大抵の動物や泥棒は逃げるだろうし、猟師や警察が逃げた相手を追う場合にも便利になる。攻撃力のある催涙ガスや電撃ムチなんかもつけられるけど、ポリスにメッって怒られそうだから臭い色水ぐらいで充分だ。

 ドローンがぐるっと公園を回って後輩の位置へと戻っていく。

 するとカメラに、先程のレズカップルから襲撃を受けている後輩の姿が映された。


「おおおーい!!」


 何やってんだァー! 

 盗撮の現行犯として見つかったのか、バレー部が後輩の襟首を掴んで立たせて、ギャルがボディをメリケンサックつけた拳で殴ってる! ギャルなのでメリケンサックぐらいは持っているのだ! 後輩は今にもゲロ吐きそうなグロッキー状態! 

 僕は即座にドローンにアクセスして操作をこちらに回し、置いていかれた鉄人28号のリモコンでドローンを動かした。

 そうしながら後輩の携帯を鳴らして強制的に通話状態へとし、スピーカーフォンで叫んだ。


「後輩! 伏せろ!」


 喰らえ! 臭い水! 三人団子になっているところへ攻撃指示。ドローンの下部に増設された小型スプレー缶とノズルが作動して、三人の頭上を通過しつつ臭い液を撒き散らした!

 ちなみに臭い液は夜間などに目立つ白色をしていて、若干の粘性があり衣服や毛皮にべたりと張り付く。一瞬前に警告していた後輩は頭をかばいながらうずくまったのだが、二人の犯人……いや盗撮被害者か? は、もろに食らってしまった。


『ギャー! マジッザケンナー!』

『男根崇拝主義の白濁液がー!』

『妊娠するっつーの! 逃げろ!』


 口々にレズカップルは叫んで逃げていった。

 ……いや、違うよ?

 確かに臭くてドロッとしてる白い液体だけど、そういう撃退用色水だからね? 

 改良の余地はあるかもしれない。

 

「……おーい、後輩大丈夫か?」

『うっうっうっ……レズに絡まれているという百合漫画みたいなシチュエーションだったのに、普通に暴力に屈した挙げ句に先輩がぶっかけてくる男根崇拝的白濁液に助けられて体と精神が両方やられた気分で泣きそう……』

「人聞きが悪すぎる」

『だってちょっかい出したレズカップルが逆襲しに来たらそのままエッチなことされるかと思うじゃないですか! ガチで腹パンですよ! 怖っ!』

「なんで見知らぬ女をいきなりレズ姦淫するのが当然だと思うんだお前は……」


 これだからエロ漫画を本気にするやつは。


「とりあえずお前も午前中はもう戻っていいぞ。服に若干色水付いてるし」

『ウワー! 服とか髪の毛とかに先輩が白濁液をぶっかけてきたー! セクハラー! 妊娠するー!』

「もう二三発殴られてから助けりゃよかった……」


 とりあえずぶつくさ文句を言いつつ、後輩は公園の水道へと向かって簡易的に色水を洗おうとした。

 僕はドローンを操作してついていきつつ、周辺を警戒する。レズの襲撃がまたあるかもしれない。


『うううこのレズ営業の天才がなんでこんな目に……』

「というかなんなのレズ業界。皆攻撃的なの」

『防御に回ったマイノリティは迫害され世界の敗北者になるからじゃけえ。はあ……はあ……! 敗北者……?』

「自分で言ってて乗るなレーズ」

 

 そう言いながら水道の水にハンカチを浸して、色水の付いた服や髪の毛を拭う。


『ディオにキスされたエリナみたいにいっそ泥水で洗いたい気分……』

「止めはしないが」

『やっぱり泥はちょっと嫌だからカプチーノとかで』

「カプチーノで口をゆすぐエリナは嫌過ぎるな……」


 そう言いながら後輩は何やら服をたくし上げてうつむいて腹を見た。


『うえー……青タンできてる……DVをやられた痕みたいで……先輩にDVを』

「やってないから。その程度なら寝れば治るから」

『その程度って……』


 後輩は顔を上げる。

 やや斜め上には滞空しているドローン。そして搭載カメラ。


『ほぎゃあああ!!』

「危なっ!?」


 レズが水に濡れたハンカチを投げてきた。危ない! ドローンは水に弱い! 自動回避!

 

『ななななっなに覗いてるんですかエッチ先輩! わたっ私のポンポンを!』

「ポンポンて」

『訴訟! 性犯罪! サイバーエロリスト!』

「あーもう今更お前のお腹なんて見たところで」

『……今更? なんですかその、なんかもっと凄いところ見たんだぜみたいな言い方は……』

「……」

『……』

「おっとドローンのバッテリーが付きそうだ。通信を遮断する。お昼には帰ってこいよ」

『あっ逃げた! っていうか通信はスマホですよねこれ!』


 ドローン操作を解除して着陸させ、スマホの通話も切る。

 直近的にはパンツ。この前は入浴シーン。忘れたけど。とにかく、見てはいけないものを見たことを悟られてはならない。

 お昼に帰ってきて話題を振られないように、テレビでは有料チャンネルの百合アニメでも流しておくか。南方熊楠がレズになったやつ。




「聞いてくださいよ美月さぁぁぁぁああん!! 先輩が私を盗撮した挙げ句白くてどろどろしたのをぶっかけて来てあっ! アニメ『レズ熊楠』やってる! んほー!」

「ちょっと待て後輩!? そういう悪いところだけ報告してからテレビにかじりついて見るな!」

「せ、成次くん? ちょっとおばちゃん話があります」

「誤解です美月さん! 僕はただ……腹を殴られて泣きかけてた後輩に我慢ができなくなったもので!」

「成次くん!!」


 どうにか美月さんを説得し、彼女は哀れな後輩の腹を撫でて慰めてやっていた。

 何故か僕の腹も撫でられた。美月さんの趣味はわからないけれど、こう、腹の前に顔をやって触ってくるのは心臓に悪いので困る。


「先輩も殴られればいいのに……」


 恨みがましそうに、後輩はそんなことを言っていた。



※チューリング博士の話は本当です


今更だけどちゃんと物語は、作中時間開始から一ヶ月後ぐらいに一応のエンドを迎える予定です。地道に進んでるんやで!(まだ二週間ぐらい)

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