剣と魔法の世界なの?
いきなりの頭の中を刺す様な痛みに襲われ、片膝をついて両手の親指でこめかみを強く押さえつつ悶絶する。
しかし一瞬で痛みは消え去り、代わりに言い争う声と動物の様な咆哮、硬いモノで叩き合う様な音がする。
周囲を見れば、薄暗い森の中だ。
「ジェイルがやられたッ!ダンカンッ、前に入って押し上げてッ!」
「イガルグガルアァーーッッ!!」
目の前では、ファンタジー系のゲームや小説に出てくる様な姿をした6人の男女が、2体のみすぼらし腰布以外は全裸だろうな、人の倍ほどありそうなボディビルダーみたいな巨人達と闘っている。
ジェイルらしき、バイキングみたいな鎧を着た赤毛の男は、先ほどボディビルダーAに、右肩を力任せに引き抜いたであろう木の根の部分でぶん殴られ、コマの様に回りながら吹っ飛んでいった。
代わりに前へと、金属製のハンマーを持って出てきたのがダンカンだろう。
しかし、ダンカンの錆色の鎧もベコベコだ。
もう片方のボディビルダーBには、槍を持った軽装の女と剣と丸い盾を持った【ザ⋅戦士】な男とが入れ替わり立ち替わりに、ボディビルダーBにちょこまかと翻弄させながら、少しずつ削る様にダメージを与えている。
ふた手を相手取るボディビルダーBは、焦れて苛つき動きが散雑になり、持った丸太棍棒も大振りなって当たらない。
「ネル、あとどれくらい?」
先ほどから、指示を出していた弓矢をつがえた女が、隣の小柄なポンチョを纏った少女に問いかける。
弓矢女に、ネルと呼ばれた右手に指揮棒を持った少女は、目を閉じたままブツブツとか細く呻きながら。左手を弓矢女に向け、指を1本横に指した後すぐに4本上へたてる。
「ダンカンッ!こう少しもたせてッ!」
そう言うと弓矢女は素早く弦を爪弾き、つがえた矢をダンカンと打ち合っている方のボディビルダーAに放った。
左手に残った弓を自身の背後に放り、腰から短めの剣を抜き放ちながら、槍女と戦士達の方へ、全力で駆け抜けていく。
放たれた矢はダンカンの左脇を抜け、ボディビルダーAの右脇腹にツスッと突き刺さる。
「ガッ」
「どぉぉりゃぁッ!」
相手の痛みで出来た隙衝いて、ダンカンがハンマーを両手に力一杯込め、顎に叩き込む。
「パラライズソーンッ!!」
先はど目を瞑り呻いていたネルが、幼さの残る声で叫ぶ。
「「……アガアゥアッッ!?……ガガァッ!!」」
どうしたことか?ボディビルダー達が、光る茨のようなモノで拘束されていて、身動きがとれなくなっているようだ。
「ロイッ!ゾーラッ!仕止めるよッ!」
剣に持ち代えた弓矢女が、ボディビルダーBの両目を一閃すると、ロイとゾーラと呼ばれた男女が、逸機に攻勢かけてボディビルダーBをメッタ差しにしていく。
さらに弓矢女も加わり、身動きの取れないボディビルダーBに、抗う事など出来ず。しばらくして、ボディビルダーBは、自身の血の海に倒れ動かなくなる。
その間ボディビルダーAも、ダンカンのハンマー一方的に殴られまくって、すでに抵抗すらない。更に四人に増えた相手に、呆気なく倒された。
俺は、いきなりのこんな状況を見せられて、呆然と突っ立っていたが。
ふと、ポンチョ少女と目が合う。
ポンチョ少女は、驚愕した表情で。
「うそ……。もう1匹いるの。」
「「「「えッ!」」」」
「ガッ!」
「リズッ!奥に、オーガがもう1匹いるッ!!」
五人の視線が、俺に突き刺さる。
オーガって?
俺の事か?
俺って、殺されるの?
あたふたとしている俺へ、肩で息をしながらも囲うように、ジリジリと近付いて来る。
「ゴグガッ!ゴグガーッ!!(降参ッ!降さ~ん)」と。
俺は、両手を上に挙げ、無抵抗を示した。