03
おはようございます。
仕事が本日OFFなので、またひっそりと更新。
基本的に更新は早朝がメインとなると思います。
本職の仕事柄、終電以降に帰宅となることが多いので(汗)
拙い文章ですが、改めて宜しくお願い致します。
「やっば……わかんない……」
魔力石を動力源としている魔光掲示板には、各地への路線の案内表示が灯されている。学院都市線は十番ホーム。
グリムグラン・セントラル・ターミナルーー以下グリムグランと略すーーの中央改札口の前で、入学案内の封筒を片手にアズは挙動不審な行動に陥っていた。
駅まで送って貰って商人と分かれてから、かれこれ二十分。
迷路のような要塞と化している駅構内を人の流れに沿って歩き、漸く中央改札口に辿り着いた時には、既に体力と気力を殆ど奪われていた。
こんなに広く、かつ人が密集している場所は、アズにとって何もかも初めてだった。
「ぅぅぅ……また気持ちわる……」
銀縁メガネを指でずり上げる。不快感を拭おうと水筒を取ってひと口飲むが、気休めにしかならなかった。
チカチカ、と明滅する。
嫌でも色鮮やかに、混在した色合いが毒々しく、アズの視界に映り込む。今のアズの目には、ソレがただ強烈な毒でしかない。目に映したいわけでもないのに、不可抗力として勝手に視界情報として強制認識させるのだ。
目が、頭が、痛い。
今の状態を分かりやすく言うなら、眼球の奥から突き刺さるような激痛と、頭の内側からガンガンと叩かれるせいで頭痛、脳内が揺れるような錯覚に捕らわれて眩暈という三重苦に襲われていた。目に凶器と化した様々な色が絶え間なく映り込み、荷馬車で吐くだけ吐いた嘔吐感が再び催しかけていた。
気分は最悪だ。泣きたい。
「なんで……こんな時にバッテリー切れになるんだよ……くそっ」
厄日だ。そうであるに違いないと、アズは内心毒づく。
常に身に付けていたメガネが使えなくなったことが切欠。メガネにはアズの体質に合わせた、ある機能が搭載されていた。バッテリー内蔵型、繰り返し百回使えるという便利さを求めた反面、バッテリー切れすると魔力石を交換する必要がある。完全に魔力石の残量を忘れていたアズが悪い。
魔力石切れのメガネは、ただのメガネでしかない。
トイレを探すにも駅構内の案内表示に迷わされる。人が多すぎて男女のピクトグラムのマークを見つけることが出来ない。結果、中央改札口の前に着いたが、右往左往。人生初の駅の利用は、最悪な印象から始まった。
「改札の中にもトイレあるんかな……ぁ、って時間やば……ぅぇ」
トイレに行きたいが、列車だって待ってくれるわけではない。上着のポケットに入れていた懐中時計を見た瞬間焦る。
優先順位はどちらか。言わずもがな決まっている。列車に乗り遅れるのは、絶対にあり得ない。
「れ、しゃーーうわっぁ!」
どんっ!
アズの背に衝撃がかかる。気分の悪さと相俟って驚き、アズは「ちょっと!」と声を荒げた。
「ごめん! 余所見してた! 大丈夫か!?」
「……あ、うん……逆にこっちもすみま……ぅぷ」
アズは慌てて口を押さえる。
なけなしに残っていた顔の血の気も一気に引いていく。見ず知らずの人間が見ても分かるくらい、はっきりと。
「ちょ……おいっ!」
今日というこの日、アズは自分の体質を心の底から恨んだことは、きっと後にも先にもないだろう。
アズにぶつかった少年はが慌てて声をかけて来るが、自重に従って身体は前方へと傾ぎーー意識はぶつりと途切れた。
「う……っ……あ、列車!」
ふと、アズは意識が一気に覚醒する。慌てて起きて、自分がいる場所を確認する。どうやら自分は、ベンチの上で寝かされていたらしい。
「気付いたか……大丈夫? 十分くらい意識なかったぞ」
アズの傍らには、赤茶色の短髮の少年が立っていた。
「え、と……さっきの?」
「吐き気落ち着いた?」
「少しは……って、すみません! 服にかかってないですか!?」
少年の言葉に、アズは先程のことを思い出す。吐き気と眩暈で、意識を失ったことを。
まさか、見ず知らずの人に吐瀉物をかけてないだろうかーーやらかしているなら今すぐ時間を巻き戻して欲しい。そう願いながら、少年の顔と服を見る。
現実的な話、時間操作をする魔術なんてのはない。否あるが、時間操作に付随する魔術は禁忌指定を受けている。魔導師の卵であるアズ自身が、そんな大掛かりな魔術が出来るはずもない。
「大丈夫、だいじょーぶ! ちょーど持ってた袋で、運良く神がかったテクで吐きもんキャッチしかたら!」
ドヤ顔で少年は言い切った。
「袋はもうゴミ箱ん捨てて来たから気にすんな。ほら、お茶」
少年は、アズに四角い形状の水筒ーースキットルを寄越す。少年の親切心に甘えてお茶を口に含んだ後、アズは少年に水筒を返す。
「ありがとうございます。本当に助かりました。ここって、駅のどのあたりですか? 十番ホームに行きたいんですが……」
「あー……それなんだけど。お前中央魔術学院の新入生だろ? 入学案内の封筒手に持ってじゃん。封筒に入ってた入学許可証を拝借して駅員さんに見せたから大丈夫。ここ十番ホームのベンチ」
「えっ!?」
慌てすぎて周囲の状況を観察していなかった。周りをきちんと見れば、確かに駅のホームだった。
アズと同年代であろう少年や少女が、キャリーバッグを持って列車を待っている。
学院都市線は、列車が一時間に一本しか動いていない。学院到着予定の時間から逆算して、必然的に新入生は同じ便の列車に乗ろうとしているの当然のことだろう。
「こうやって見るとすげぇよな。ここにいる全員皆新入生だもんな」
保護者は改札までしか見送りが許されていない。学院都市行きとは云っても一般利用客もいるのだ。特別扱いするのはおかしい話であろう。
「……だね。って君も新入生……だよね?」
「おう! オレ、シュラク。よろしくな!」
「僕はアズ=アルテリアス。さっきは本当にご迷惑おかけしてすみませんでした」
「まーまー、こういうのもきっと何かの縁ってことだ。シュラクって呼んでくれよな」
「ふふっ! 僕のことはそのままアズって呼んで欲しいかなぁ。あっ、列車が来た!」
構内アナウンスと到着音が流れると共に、ホームに列車が入る。初めて見る列車に対して、アズは胸を踊らせる。
「列車に乗るの初めてだから、ちょー楽しみだわ!」
「僕も!」
列車のドアが開く。大勢の人々が整列して中へ歩いて行く様子は、一種の圧巻した光景だった。
アズも荷物を抱えて、シュラクと一緒に列に従って歩く。
これから始まる新生活に浮き足立っていた。見るものすべてが新鮮だった。今は夢と希望が満ち溢れていると云っても過言でない。
今し方の酷い不調は、何処に行ったのか訊きたくなるくらいのはしゃぎ方だった。
見える世界は変わらない。けれども、今まで同年代の人間と殆ど交流した経験がないアズにとって新たな出会いは、気分の悪さを忘れさせていた。
車両は、四席単位で区切られたコンパートメント席となっていた。
空席を探し、車両の一角。空いている部屋を見つけ、アズは窓側、シュラクが通路側に、二人は対角に席へと座る。足元に荷物を纏めて置く。
改めて自己紹介しようという空気になっていた時ーー。
「あのー、相席しても良いですか?」
鴇色ーー薄桃色の髪の美少女、もとい美少年が声をかけて来た。
誤字・脱字にはかなり気を付けていますが、人の目で判断しているため、漏れがあると思います。
もし私(朱紗)が見落としている箇所がございましたら、心優しい読者からの指摘お願い致します。
また、言い回しに不適切な表現がある場合も、ご指導頂けたら幸いです。
(誹謗中傷は勘弁して下さい……)