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01

初めまして。

穂積朱紗(ほづみつかさ)と申します。

ジャンルはBLですが、ほぼ全くのNL物に近い作品です。

また、語彙力が足りないので不快感を与えるかもしれません。

予めご了承下さい。




 苦しくて、哀しくて、憎みたいのに、それでも愛おしい。

 ぐるぐるに渦巻いたこの感情をひと言で表現するのなら、何と言えば良いのだろうか。


 傷付き疲れたは、静かに眠りを求めていた。

 泣き叫びたかった。けれども、哀しみという感情より先行して、心が壊れかけていた。

 疲れた。

 そのひと言に尽きる。


 だからーー今は眠ろう。長い時を経れば、言い表せない綯い交ぜの気持ちもーーきっと消化出来る。




   ◆ ◆ ◆




 ガタゴトと、揺れる。

 見渡す限り濃緑色の山々。果てまで続く、碌に整備されていない凸凹している細い道。更に追い打ちとばかりに、石や小枝等が道に落ちているせいで、車輪がそれらを踏んで酷い揺れが荷馬車を襲うのだった。

 そんな悪路を走る荷馬車の荷台の上に、男ーーアズはいた。

 飼料袋に凭れながら、荷台の際に寄って地面へ覗き込むようにして顔を向けている。

 快晴の空は薄青で綺麗だが、アズの顔色も蒼い。

「う、ぇぇ……」

 吐いていた。人が乗るために設計されていない荷馬車の荷台に乗っているーー否乗らせて貰っているーーお蔭で、乗り物酔いに見舞われていた。快適な乗り心地と真逆なのは、想像に難くないだろう。

「……っみ、ず」

 頼りない手つきで背嚢(バックパック)のサイドポケットに手を伸ばし、竹筒の水筒を取って蓋を取る。

 ぐいっとひと口飲んだところで、深呼吸をした。残暑の熱気で火照った身体と、吐き続けて胃酸で痛んだ喉を、冷たい水が喉を潤す。今のアズにとっては、命の水に等しかった。

「兄ちゃん大丈夫かー?」

「すみません……気分最悪です……ぅう」

 吐けるだけ吐いた胃の中は、既に空っぽだ。しかし、押さえようのない迫り上がって来る胃酸を堪えきれず、また地面に吐き捨てる。

 どうにかして、この不快感を少しでも軽減出来る方法はないか、アズは思索に耽った。

「あっ!」

 何か閃いたのだろう。背嚢を引き寄せて、荷物の中から上製本(ハードカバー)位の大きさの木箱を取り出す。予め設定していた、ダイヤル錠の数字を組み合わせて開錠した。

 木箱の中は、中央のしきりを境にして色々な形状の乾し草や木の実等が、別々にして入っていた。それぞれ透明な小袋に入れて小分けされている状態から、この木箱の持ち主の性格が几帳面であることが窺い知ること出来る。

「えっと、酔いにはミントが効くはず……吐き気に効くし。口当たり良くなるから、レモンも入れてっと」

 太腿の間に挟んで蓋を開けたままにしていた水筒に、ミントの葉とレモンを突っ込む。水筒の封をして、上下に振った。

 小高い丘を越えて、緩やかな下り坂が続く道をゆっくりと荷馬車は走る。

「おっ、街が見えて来たな! 兄ちゃんあと一時間位で着くぞ!」

「ほんとだ!」

 遥か先、下り坂の終着場。街を囲う外側の城壁が、アズの視界に入る。

 地獄だった悪路から解放され、街が近い影響なのか整備された街道と呼ぶべき土の道に一変する。荷馬車の揺れも穏やかになり、乗り物酔いも多少は落ち着いたのだろう。心の余裕が生まれ、楽しそうに荷台から景色を眺めた。

「そろそろ良いかなぁ」

 水筒の蓋を再び取る。アズ自作のミント水をちびちびと飲む。

「本当なら生のミントとレモンが良いけどーードライハーブだし、味も香りもこれで十分だよね」

 ミントの冷涼感とレモンの酸味が、口一杯に広がる。乗り物酔いで疲弊したアズの身体には、ただの水を飲むよりも、ミント水の爽やかな味を求めていたようだ。




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