2分の1春巻き
『弁当』
(キーワード:2分の1春巻き、ショッキングピンク、「1日2つ」)
「ねぇ、春巻きを真っ二つにしちゃうの、どうにかならないかな」
「え?何、聞こえない」
料理番組を眺めていて、ふと思い出した疑問をぶつけてみる。聞き取れなかったらしい彼女は食器を洗う手をとめて、僕の方を振り返った。
「春巻きをさ」
「何?美味しくなかった?」
水の音さえ止めば、あまり広くない部屋に2人の会話は良く響く。
「違うよ。美味しかったんだけどさ」
「ならいいじゃない」
彼女は洗い物を再開すべくシンクへ向かってしまった。ショッキングピンクの無地のエプロンはいつ見てもこの部屋から浮いている。
「今日の弁当の、真っ二つにした春巻き、あれ、中身が出ちゃうじゃないか」
僕の、スタンダードなタイプの弁当箱に斜めに切って短くした春巻きが断面を上にして上手いこと収まっていた。が、持ち上げようと箸で挟めば、中身がどろりと出てきてしまう。
「んー。考えてみて。切らないままの春巻きがそのまま弁当箱の中に横たわってるの」
「うーん」
「なんか嫌でしょ」
たしかに、茶色い春巻きが黒い弁当に堂々と横たわる姿はおよそ理想の弁当というものから外れている気がする。いつもの卵焼きとウィンナー、それから彼女は1日2つ何らかのおかずを追加する。今日は春巻きとごぼうサラダ。横たわった春巻きは彼らの調和を乱すに違いない。
「だから2分の1春巻きでいいの」
そう、念を押すように言われてしまえば、僕は彼女に逆らえない。これからも2分の1に切られた春巻きは僕の弁当箱の中で崩れ続けるだろう。
自慢げにこちらを見ている彼女に、新しいエプロンを贈ろうと思った。
彼女の春巻きどろどろ事件は中身に片栗粉を混ぜると解決します!