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  #11 斉明

 敵を退けて直ぐに『使い「手」』を使い終わり、戻った(、 、 、 )斉明は、久篠乃とともに帰路についた。途中で久篠乃は、携帯で委員会に連絡を付けていたが、あまり良い表情はしていなかった。

 家に帰ると、もうすでにクーラーが効いていた。おそらく異変に気付いて、すぐに飛び出してきたから、切る余裕すらなかったのだろう。

「全くひどい目に遭ったわね……」

 そう愚痴りながら、久篠乃はリビングのソファに深く座り込む。

「そうですね……」

 果たしてどこから切り出すべきか悩むが、まず言っておくべきことは……。

「久篠乃さん……さっきの奴の話ですけど……」

「何?」

「ええっと……三年前の上宮の……あの事件の時に使われた解創を使ってきました……しかも一つ二つじゃありません」

 斉明の言うところの意味を察して、久篠乃の顔が強張った。

「自分が上宮の関係者だと、暗に示してる……?」

「もしくは事件の関係者か、ですかね。裁定委員会って事はないでしょうから、やっぱり上宮の人間になるでしょうけど……」

 斉明はそう言いつつも、釈然としないものがあった。今こうして感づいているのは、相手がそういう風に使ってきたから……気づかせようとしたから感づいているに過ぎないのだ。もしそれをしてこなかったら、相手の正体には皆目見当がつかなかったかもしれない。

 だが逆を言えば、これだけ気づくヒントを与えたのには、相手の思惑がある筈だ。でなければ、あの事件で使われた解創ばかり使うなんて、ふざけている。

「委員会にも、一応説明したんだけど、やっぱ間に合わなかったわ」

 委員会は斉明を監視していたはずなのに、気づけなかった……。すでに委員会による監視は止められているか、もしくは監視が緩むタイミングを、あの人物は、ずっとチャンスを待ち続けていたかのどちらかである。

「やっぱり襲撃犯ですかね?」

「私はそう思うけど、委員会は納得してないみたいよ。一応、迷惑な贈り物についても連絡したけど、委員会は話半分にしか聞いてない」

「なんですかそれ?」

 久篠乃から説明されたのは、不気味な鯉の死骸が宅配便で送りつけられたという話だった。それも細工が施されており、既に燃え尽きた後だという。

「なるほど……燃やしたのは、物的証拠を残さないためですね」

「ええ。委員会は悪戯くらいに考えてるかも知れないけど、これは明らかに、私たちを狙ってる意図を明かしつつ、委員会は頼りにならないって示してるわね」

 つまるところは挑発だ――身を守れるのは自分だけだぞ、と。明日香が襲撃された事も含めると……。

「相手は上宮に恨みを持ってる、ってことですか?」

「もしくは斉明個人にかもね……斉明、恨まれるようなことは……無いよね」

 さすがに斉明も苦笑して、肩を竦めてみせる。

「ええ。いくらなんでも殺されるほど恨まれた心当たりはありませんし……解創を使ってるってことは、やっぱり追求者関係の筈です。誰ですかね……?」

 しばらく沈黙が続いたが、やがて久篠乃は一人の個人名を挙げる。

「もしかしたら、国枝邦明かも」

「例の……」

 国枝家と上宮の間、『三家交配』により生まれた子供の名前だった。国枝については邦宗がよく来るので、斉明も覚えていた。

「ええ……気を付けないとね」

 まず情報はどこから漏れたのだろうか? 明日香の居場所をどうやって襲撃犯――国枝邦明かもしれない――は知りえたのだろうか?

「もしかしたら協力者がいたのかも……」

「邦宗さんですか?」

「たぶん違うと思うけど……警戒するに越したことはないわね。これで終わるとは思えない」

「そうですね」

 しばらくは何もしかけてこないだろう。だが、それで終わるとも思えない。上宮家殲滅事件に関わっていたことを仄めかし、三年経ってから上宮の人間を襲撃しに来た。そんな長期的な計画をする奴が、これで諦めるとは思えない。

 いつかは分からない。だが確実に来るはずだ。斉明は確信を持った――まだ知らぬ襲撃者とは、いずれ対峙することになるだろうと。

これで『使い「手」』編は終わりです。

次が最終編になります。

「解創エピソード集」は最終編が終わってから更新するつもりです。

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