#10 邦明
とりあえず、あの解創を試すことはできた……今はこれで十分だろう。邦明はまずまず、実験の結果に満足していた。
三年前の上宮家殲滅事件――その時に見た裁定委員会十六課課長、鶴野温実の解創――『我が名をそのままに』。
一部始終を目撃していた邦明は、あの解創を自分なりに作れないか考えた。祖父にあたる卓造が『我が名をそのままに』の使用を妨害できた以上、あれと似たようなものを自分が作り、使える可能性は高い。
邦明はあの日観察して、『我が命をそのままに』は、不定形の流体による切断、射出、爆発といった変幻自在さを『従わせる』という願いで叶えるものだと判断した。
その後の鶴野温実を調べることで、それが彼女の精神的な一面を象徴する、いわば『彼女専用の道具』である点から、邦明もその発想を真似つつ、かつ自分に当てはめて、そして『我が命をそのままに』並の汎用性を備えた道具を作成する事に努めた。
結果として完成したのは、流体ではなく人型の『我が復讐の権化』だった。
邦明の成す追求――復讐の追求は、自分から奪ったものから奪い返し、そして自分の糧とする――ということに終始する。
それを具現化したのが、この解創だった……つまり他人の解創を奪い使う解創。三年前の上宮や、その時の裁定委員会から奪い取った解創を備え、状況に応じて解創を奪い、かつストックした解創を使用する。
この道具のカギとなるのは、邦明ではなく『我が復讐の権化』という解創の道具が、ほかの解創を使用するという点だ。卓造の血を引く者が得意とする複雑な解創……捻くれた願いの成立は、邦明にも引き継がれていた。
『我が復讐の権化』の道具の正体――それが、別の解創を使用しているのだ。
――問題としては……。
上宮斉明に対して有効な手が見つからなかったことである。
『探り手』は、『使い「手」』や『使い「手」作り』に比べると、手を加える優先順位が低く、他二つの課題の方が多いだろうから、『探り手』の課題修正は後回しになるだろうと踏んでいたが……まさか、携帯性をすでに解決しているとは思っていなかった。
だが問題ばかりではない。上宮斉明の『探り手』の活躍を『我が復讐の権化』はしかと見届けた。
ここから邦明は、さらに追求する。ある意味今回の戦闘は、上宮斉明が誰にも見せたくなかったはずの道具を、参考資本のように眺められたも同義だ。
稀代の作り手である上宮斉明の製作物――これから邦明は『探り手』を元に新しく道具を作るだろう。
――そして……。
邦明はポケットから銀色の物体を取り出す。いざという時は、この切り札もある。とはいえ、策は数々講じておくに越したことはない。
しばらく時間を置きつつ準備を進めよう。予定は順調だとばかりに、邦明は、ほくそ笑んだ。




