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  #11 斉明

 斉明が話があると言うと、久篠乃は時間を取ってくれた。仕事などで忙しいだろうにそうしてくれたのは、こちらの言いたいことの重要性を分かってくれたからだろう。察しの良い後見人に斉明は感謝した。

 場所はリビングではなく、久しぶりに仕事場を選んだ。椅子に座って向かい合い、斉明は切り出した。

「仕事の話ですけど……自分なりに、色々考えました」

「どんな事?」

「作る為には、使う事を知る必要があるということです」

 まず端的に言ってから、詳しい説明を捕捉する。

「前の剪定バサミの時もそうでしたけど……僕は、道具を作った経験は多くありますが、使った経験が、ほとんどありません。だから使う人の事の立場になって考えるという事が、どうしてもできません」

 久篠乃の様子を窺うが、こちらの言いたいことは伝わっているようなので、先を続ける。

「だから、まず使えるようにならないといけないと思います。いろんな道具を実際に使って、使う側の立場に立って考えられないと……」

「つまり、使えるようになるまでは、私の手伝いはできないって事?」

「…………そうです」

 言いにくかったが、斉明は肯定した。ここで話を曖昧にしても意味は無い。久篠乃の為にも、そして何より自分のためにも、ここはハッキリいうべきだ。自分が考えた結論に、間違いはないという自信はあった。

 そして斉明の潔い言い分に気乗りしたように、久篠乃もハッキリと応じた。

「分かったわ。じゃあ、そっちを優先しましょう」

「良いんですか?」

 我ながら悠長な発言に、久篠乃が素直に首を縦に振るのは意外だった。

「斉明が、ずっと悩んで至った結論なんでしょ? なら私は、その考えを尊重するわ」

 ずっと悩んでた――それはずっと見てくれたからこそ出た単語だ。自己中心的で独りよがりな自分のことを、久篠乃はずっと見て、考えてくれていた……不覚にも、じーんと鼻に来る。丹田に力を入れて、涙腺が緩むのをどうにか堪える。

「それに、こうして話を切り出してきたんだし、何か考えがあるんでしょ?」

 共感していながらも、けれど失われない計算高い思考――久篠乃の態度に、斉明は苦々しく微笑んだ。

「…………流石ですね」

「それで? どうやってやろうと思ってるの?」

 一度深呼吸してから、斉明は切り出した。

「使う才能を、作ろう(、 、 、 )と思うんです」

「作る……?」

 妙な言い分だと思ったのだろう。我ながら、無茶苦茶な事を言っている自覚はあったが、斉明は先を続けた。

「まず自分に、使う才能が無いことについてなんですけど……何かしら、普通の人に比べて、欠けている物があるんだと思いますから、そこを補うものを作ることが、使うための道具になるかと……」

 そこまでで一度、言葉を切る。一気に喋っても理解が追い付かないと思ったからだ。分かってもらえるか不安だったが、久篠乃は少し黙考しただけで飲み込めたらしく「続けて」と催促したので、斉明は続けた。

「まず僕が使えない(、 、 、 、 )範囲なんですけど、まったく使う才能が無いなら、身体を(、 、 、 )使うって事も出来ないんじゃないかと思うんです。そういう事なら、自分の身体以外の物、つまり道具ってことになると思います。つまり、道具と身体の間を取り持つ要素が欠けてるってことになると思うんです」

「欠けてる要素を洗い出す……まずそれを行って、方針を決めるって事ね。洗い出したものによって、何を作るのか決める……長い計画になりそうね」

「そうですね……大丈夫ですかね、仕事……」

「仕事? ああ……もちろん、私も私でやらないといけないから、斉明の方ばっかり手伝うわけにもいかないけど、たまに手伝うくらいはできると思うわ。それで大丈夫?」

「ええ……もとはと言えば、僕個人の問題ですから」

「そう……けど、また困ったことがあったら言って。私も私なりに、何か役立つことが無いか、考えてみるから」

 久篠乃の言葉に、今は素直に感謝の言葉が出た。

「ありがとうございます」

 元は個人の問題だ。そこに違いはないだろう。だが今は違う。自分のために、協力してくれる人がいる。そのためにも、どうにかして自分は使う才能を手に入れなければいけない。

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