第8話
「お待たせしました!」
女の子がトレーを手に戻ってきた。
ベッドにテーブルを設置し、その上にトレーを置く。
「ありがとう」
ガシャン!
「あっ!」
手錠を掛けられて手が使えないんだった……
「私が食べさせてあげますよ」
ニコニコとしながら箸を持つ。
可愛らしいなぁ。中学生だろうか。もしかしたら小学生かもしれない。
「ありがとう。そういえば名前はなんていうの?」
「私ですか? 室谷桃子っていいます!」
「桃子ちゃんか」
「はい! 前田さんは前田さんっていうんですか?」
「うん。名前どうして?」
「ドアの外に貼ってありました」
「あ、そうなんだ……」
「前田さん、どれから食べます?」
トレーの上を見ると、鮭の塩焼き、煮物、パンと牛乳がある。少しバランスが悪い。
「じゃあ煮物を」
「はい!」
箸を伸ばして煮物を掴む。
ポロッ。
掴んだこんにゃくが布団の上に転がる。
追いかけ掴みなおす。
ポロッ。
また落ちてしまった……
「こんにゃく掴むの難しいですー」
ようやく捕まえたこんにゃくは、そのまま僕の口元へ運ばれる。
……まぁいいか。
パクッ。
桃子は再び煮物に箸を運び、器の中をほじくる。どうやらこんにゃくを探しているらしい。
「あっ、次パンお願いしていい?」
「パンですか? はい!」
付いていたジャムを塗り口元へ運ぶ。
「フゴッ! フゴッ!」
喉の奥までパンを差し込まれてしまった……
何とか租借し飲み込む。
「桃子ちゃんって今高校生?」
「えっ? 私今年で23ですよ。そんなに若く見えますかー?」
えへへと笑う。お世辞で高校生と言ったのに全然外れていた。
「じゃあ今って仕事中? そういえばここってどこ?」
「前田さん、2日前に郵便局で怪我した人達と一緒に病院運ばれたんですけど、監視カメラで確認されて病院からここに移されたんです。ここがどこかは私からは言えないんで……すいません」
「そっか」
「ごめん。ごはんはもう」
「わかりました。じゃあ片付けてきますね」
パンを一本食べ終えたところで、食欲がなくなった。
桃子ちゃんは食器を持って立ち上がり、出て行こうとする。
「あっ!」
「ん? どうかしました?」
「あ……いや、なんでもない」
再び歩き出し出て行ってしまった。
ジャムで口がベトベトする……
桃子の後ろ姿は中学生にしか見えなかった。