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戦闘員A  作者: 甲斐祐樹
京神テクノロジー
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第71話

 いくつか角を曲がり、桃子が足を緩める。

 周囲を見渡し辺りに人が居ない事を確認し、予定通りの場所に止められた車に近づいていく。そして僕を地面に降ろし車をノックした。

「大変です! 前田さんが!」

 後部座席のドアが開かれ、僕の様子を確認した村井と研究員が一人飛び出してくる。

「ちょっとこれ……」

 村井は体を貫いている刀に呆気に取られてしまい、言葉が続かない。

「まだ意識はあるみたいなんですけど!」

「もうダメです。眠いんです(イー)」

 村井は数秒程どうするか悩んだ様子を見せる。

「と、とりあえず急いで病院に運ばないと! 室谷さん、この刀引き抜くの手伝って!」

「えっ!? でも……」

「いいから早く! キミも手伝って!」

 村井に急かされ桃子が僕の体を持ち上げ、強引に立たせる。村井と声を掛けられた研究員がそれぞれ僕の上半身と下半身に抱きついてくる。

「前田君もしっかり踏ん張って!」

 そう言われても恐怖で足に力が入らない。組み付いてきた二人を支えに何とか立てている状況だ。

「刺されたら抜いたらダメって聞いた事があるんですけど! 血が出て死んじゃいますって!(イイー!!)」

 逃れようと少しもがくと、村井達の押さえる力が強まる。

「前田君、じっとして! 室谷さん、早く!」

「でも……大丈夫なんですか?」

「大丈夫だから! 手遅れになっちゃうよ!」

 その言葉で桃子は決心したのか刀の柄を左手で握り、右手でまだ柄にくっついたままだった狼の右手を掴んで地面に投げ捨てた。そして右手も柄を握る。

「いきますよ!」

「桃子ちゃん、やめてー!(イー!)」

 必死の懇願も聞き入れてもらえず、桃子が刀を引き始める。だが僕の足に力が入っていないので上手く抜けず、桃子の方へ引っ張られる。

「前田君、ちゃんと踏ん張って!」

「だって……(イー……)」

 なかなか刀が抜けない状況の中、僕と村井がやり取りしていると僕のお腹に何か固いものが押し当てられる。正面を見ると、桃子が足の裏を僕の刀が刺さっている直ぐ横に押し当てていた。

 そして、蹴り飛ばすように刀を引き抜く。僕達三人はその勢いに吹っ飛ばされて地面に転がる。


 お腹から体の中身が持っていかれるような感覚が……

 刀が抜けてしまった。僕はお腹に手をやる。血が……血が……


 あれっ? 思ったより血が出ていない。触った瞬間はヌルッとしたがあっという間に止まってしまった。というか血が出ていた痕跡まで消えてしまっている。体を捻り背中を触ってみても同様だった。

「やっぱりね」

 村井が呟いた。

「どうなってるんですかこれ?(イー?)」

「そのスーツは半分血で作られてる様なものだからね。傷付いても直ぐ修復するようになってるんだろうなって。監視カメラに映ったゴリラの映像見たけど血が出てなかったからね」

 そういえばゴリラの隊長は両腕切り飛ばされていたのに血が出ていなかった。さっきの狼も血が出ている様子はなかった。

「まぁ半分賭けだったんだけど。どっちにしても刺さったままじゃ運べなかったし、抜くしかなかったから止まって良かったよ」

 村井は楽しそうにアハハと笑っている。呑気な村井を睨みつけるが、僕の視線は分からないので伝わらないだろう。

「じゃあ、急いで病院行こうか。出血は止まってるけど治ってる訳じゃないから」

 僕は頷き車の方へ向かう。

「前田君、姿が戻った時は相当痛いだろうから気を確かにね!」

 車に手を掛けたまま振り返りもう一度頷く。

 その時、施設の中で爆発が起こった。その場に居た全員が音がした方へ振り向く。

「赤井さん達が心配なんで、私もう一度行って来ます!」

「うん、気を付けてね。ボクはもう一台の車の方に行ってるから。じゃあ病院まで頼んだよ」

「はい! 分かりました!」

 村井はもう一台の車のある方へ、研究員は運転席へ向かう。

「桃子ちゃん、気を付けて!(イー!)」

 僕の言葉は伝わったかは分からないが、桃子は一度僕の方を見てから後ろを向き施設の方へと走っていった。

「早く乗って! 行きますよ!」

 既にエンジンも掛け終えていた研究員は窓を開け、なかなか乗り込まない僕を急かしてくる。

「イー」

 返事をした後、もう一度だけ桃子が見えなくなった角をチラリと見て、僕は車に乗り込んだ。


 緩やかに車が動き出す。

 数分後、爆発音のようなものが聞こえた気がしたのだが、窓に入ったスモークで外の景色を遮断された車内からでは様子を確認する術が無かった。

 車の揺れが眠気を誘う。これは寝不足によるものか、それとも……

 後10分もすれば姿が元に戻る。そうすればこの眠気の原因も分かる事だろう。今はこの欲望に素直に従う事としよう。

 背もたれに体重を預け、僕は意識を手放した。




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