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戦闘員A  作者: 甲斐祐樹
京神テクノロジー
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第68話

 桃子もすぐそこまで迫っている足音に気付いたようで、入り口から距離を取るように建物の中の方へ後ずさった。

 僕は逆に入り口側の壁際に倒れこむ。桃子には申し訳ないが、僕には戦う力など無いのでやられた振りをさせてもらおう。こんなだらしない僕の事を桃子は軽蔑しただろうか。だが今は人の心象より命が大事なので、そんな事は知ったこっちゃない。

一応だがナイフのスイッチは入れておこう。これが僕の精一杯だ……


 咄嗟だったが入り口の様子が見えるように体を向けて倒れておいたので、外から差す月明かりを巨大な影が塞ぐのを確認できた。のっしのっしと全身毛皮に包まれた隊長が室内に姿を現した。後ろに仲間を五人引き連れている。

「隊長! 青野さん!」

 桃子の切迫した声を聞き、二人はようやく機械からこちらの方へ意識を向け現状を理解したようだ。

 桃子の側に二人が合流し、赤井さん達と隊長達が向かい合った。


「オ前等、警察ノ者カ?」

「ああそうだ、お前等を逮捕する。抵抗するなら容赦しない」

「容赦シナイカ……グフフフ……」

 笑い声か唸り声か分からない声を喉の奥で響かせながら、隊長は赤井達を眺める。

 僕はそこでようやく、隊長の先程との違いに気が付いた。僕の側からは影になり大きな体で隠れていたので気付くのが遅れたが、隊長は左手に何かを持っていた。隊長はその左手を前へ伸ばす。続いて右手も前へ伸ばした。

 そこから両手を左右に開き、シャリンという音がして持っていた物から妖しく光を反射させる刀身が姿を現した。いらなくなった鞘の部分は地面に捨られ、カランカランと音をさせながら転がっていく。

 どうやら一回出て行ったのは、この刀を取りに行っていたようだ。そのついでに見つけた仲間も一緒に連れてきたのだろう

 刀の長さは2mくらいはありそうで、長さに対して刀身は細身に見える。体のデカイ隊長が持つと玩具のようだ。


 桃子の方からキーンという耳障りな音がしてきた。青野は背負っていた刀を抜刀し、こちらからも耳障りな音が発生する。


 二組の間に緊張感が増す。

 その緊張感に耐えかねた隊長側の仲間が一人飛び出し、釣られるように残り四人も飛び出していく。

 桃子は一振りで二人を、青野は刀と蹴りを使い三人をあっという間に倒してしまった。

 やはりあの中に僕が加わったところで何も変わらないだろう。ここでやられた振りをしていて正解だった。


 残った隊長と赤井達三人は暫く向かい合うが、隊長が刀を持っているからだろうか青野が三人の中から一歩踏み出した。それに反応し隊長も一歩踏み出し、お互いの間合いが縮まる。

 青野は両手で刀を持ち中段で構え、隊長は右手で少し半身になるような形に構えている。

 切っ先が触れ合うような間合いのまま動かなくなった二人を、ジリジリしながら見守る。


 膠着していた時間を破ったのは青野だった。

「ハァッ!!」

 先に動いた青野は気合と共に、振り上げた刀を上段から切りつける。隊長は右手を振り、振り下ろされる刀に自分の刀を横から打ち付けた。

 その瞬間、火花が散り不快な金属音が響き渡る。

 隊長は片手で軽く振っただけに見えたのだが、青野の両手での全力の振り下ろしを容易く弾いてしまった。青野自身も予想していたより隊長の振るった刀の力が大きかったのだろう。バランスを崩してしまう。

 隊長は何も持っていないかのように刀を軽々と振り回す。迫り来る隊長の刀から逃れる為、青野はバランスの崩れた方向へそのまま飛び込み回避しようと試みる。

 工場内に金属の削れる音が響き、立ち上がった青野を確認すると元々ボロボロだった防具にザックリと刀で切り裂かれた跡が刻まれていた。


 赤井と桃子は一連の様子を確認し、隊長を取り囲むように背後へ回り込む。

 しかし、隊長を包囲する陣形は完成したのだが、先程見た隊長の動きを警戒しなかなか仕掛ける事ができない。隊長も囲まれている為に不用意に動く事ができず、お互いが牽制し合い隊長を包囲する円が左右へと揺れ動く。


 拮抗した状態が続いている。

 どうする? 

 ここに一人何もしていない男が居るが、果たしてこの状況を打開する鍵となる事ができるのか。なる事はできるかもしれないが、命が惜しくて勇気が出ない。

 この状況で皆は僕の事をどう思っているのだろう。ちょっとは手伝えとか思われているのだろうか。

 やられた振りをして見守っているのは惨めな気分になってくる……

 誰でもいいから、早くこの時間を終わらせてくれ!


 僕の願いが通じたのか、この場所に膠着した時間を終わらせる鍵が近づいてきていた。

 僕の左手が痺れだしていたのだ……




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