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戦闘員A  作者: 甲斐祐樹
京神テクノロジー
66/73

第65話

 まもなく時間だ。

 暗い路地でコソコソと時間を潰し、30分前になったので預けておいたロッカーへリュックを取りに行く。背負い直し京神テクノロジーへ。

 

 今度は京神テクノロジーの側の暗い路地でコソコソと準備を始める。

 ナイフを足に付け、背負ってきたリュックは邪魔なのでこの場に置いていく。無事に脱出できたら取りに来よう。

 深呼吸をして心を静め、路地から正門へ向けて歩き出す。いくつか角を曲がると正面に高い塀が見えた。この塀より中が京神テクノロジーの敷地になるので、あとはこの塀を伝っていけば正門だ。

 塀を見上げて高さを確認する。今の状態では確実に登る事はできないがスーツの状態の時に登れるかが微妙な高さだ。

 自分でも完全にスーツの性能を把握できていない上に体も本調子ではない。指さえ引っ掛かれば登れそうな気はするが、できるか分からないので逃げるときは極力正門・裏門を使った方が良さそうだ。

「はぁー……」

 思いっきりため息が出てしまった。


 逃げ道が限定されてしまったのはかなり痛い。僕はあまり方向感覚に自信が無いので、施設の中をウロウロしている間に正門の位置を見失いそうだ。常に自分の位置を意識しながら動かなければいけない。やる事が多すぎて何か失敗するんじゃないだろうか……


 塀沿いに進む。

「あれか」

 不自然に人が集まっているのが見える。正門には守衛が居ると言っていたが、それが分かっているのか正門からは少しずれた位置に集団が見える。不自然にならないように僕も集団の方へ向かう。

 本当に僕の事はバレていないのだろうか?

 徐々に左手が痺れ出す。心配に思いながらその集団の一番外側に加わってみるが、特に僕に対して反応する者はいなかった。

 とりあえず安心し、現状を把握するためにさりげなく様子を窺う。

 人数は30人弱くらいだろうか。皆どこか生気を失ったような表情をして立ち竦んでいる。

 そんな中で一人の男が目に留まる。かなり図体の大きいその男は、ニヤニヤしながら集まってきている人達の事を眺めていた。おそらくあいつが今日の隊長なのだろう。目が合う前に視線を逸らし、僕も周りと同じ様に宙を見つめた。


 そろそろ時間だろう。僕の後にも何人か加わり、30人は超えただろうか。

 足元から煙が噴出し僕達を包み込む。


 相変わらず不思議な感覚だ。さっきまで周りに対して警戒心しかなかったのに、それぞれから噴出した煙が一つに纏まり自分と同じ存在を辺りから感じる事ができる。一体感、安心感を感じる事ができる。

「グルルル……グルルル……」

 集団の中心から強烈な存在感を感じる。それはさらに大きくなっていく。


 暫くして煙が晴れた。

 集団の中心には巨大な毛の塊が鎮座している。皆がそれに注目していると、それはむくりと起き上がり体を解すような動きを始めた。


 熊だ……


 毛の塊は凄く大きな熊だったようだ。実際に熊を見た事が無いので分からないが、おそらく普通のサイズの熊より大きそうだ。背丈はゴリラの隊長と同じくらいで3mはあるだろうか。ずんぐりしたその体格は、ゴリラよりは動きは遅そうだが威圧感は熊の方があるように思う。モフモフの体毛に包まれているが、全然可愛いとは思えない。

 呼吸をする度に喉の奥から聞こえる唸りが、僕に逆らってはいけないという感情を抱かせる。

 

 低く響く唸り声を上げながら一つ大きく息を吐き、熊はしゃべり出した

「オイ、オ前等。俺ニ付イテコイ」

 熊は正門の方に向かって歩き出した。皆、そいつが隊長だと直ぐに判断して素直に後に続く。


 正門は車がすれ違っても余裕がある程の大きさで左右からスライド式の門が設置してあり、今はそれが閉じられている。

 隊長は当たり前のように門の中央へ歩み寄り、両手で左右の門をそれぞれ掴んだ。

 バチッという大きな音がして中央に設置された鍵が吹き飛び、あっさりと門を開けてしまう。

 夜の静けさに門を開くガラガラッという音が響き、守衛室の中に居た守衛が飛び出してくる。

「えっ……何が……」

 守衛は閉じていたはずの門が開き、巨大な熊が入ってくるという状況に理解が追いついておらず、何もできずに立ち竦んでしまう。そんな守衛の方へ隊長はのっしのっしと近づいていく。

 隊長の威圧感に守衛は怯え、逃げようとするが足がうまく動かずにもつれさせて転んでしまう。

「あ……やめ――」

 直ぐ側まで近づいた隊長は、守衛が何かを言おうとしていたのも気にせず蹴り飛ばし、飛ばされていった守衛は駐車場を数回バウンドしゴロゴロと転がってようやく停止した。


 開いた門から黒いスーツの仲間達がどんどん流れ込んでいき、最後尾の辺りに居る僕もようやく門を通る。

「行クゾ。早クシロ」

 迷い無く進んでいく隊長の後をゾロゾロと仲間達が続く。僕もそれに習いながら横目で守衛を確認したがピクリともしない。


 あの人は大丈夫だろうか?

 そして僕も30分以内にああなるかもしれない。

 この30分は何とか集中して頑張ろうと、動かなくなった守衛を見て気合を入れた。




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