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戦闘員A  作者: 甲斐祐樹
レベル3
61/73

第60話

 部屋に戻ってきた。

 いつまで部屋で待機しておけばいいのか分からなかったので、洗濯物を干した後に食堂へ寄り二食分の食料を部屋へ持って帰った。そして部屋でその内の一食を朝食として食べる。

 内通者がいるって言ってたけど今回はどうするつもりなのだろう。その内通者が見つかるまでは危険なんじゃないだろうか。特に相手に紛れる僕の危険度が増す気がする……

 そういえばレベル3っていうのも言い忘れていた。まぁそれはいいか。


 この後の事が気になって落ち着かないからご飯も味わっていられない。生涯であと何回ご飯を食べられるのか分からないのに……


 さて、食べ終わったが何をしていようか。部屋の中を見回すと机の上にあるナイフが目に留まる。

 今回行く事になれば、いよいよ使わなければいけなくなりそうだ。

 手に取り鞘から引き抜く。研ぎ澄まされた刀身に、それを見つめる頼りなさそうな僕の顔が映りこんでいる。その顔を見ていると不安が増すので見つめるのは止め、ナイフのスイッチを押す。

 今は音は聞こえない。あのスーツに変身している時は聴力も良くなるようで、村井に音について聞いてみると驚いていた。このスイッチを入れるとナイフが微振動するらしい。すると普通の人は感知できない音域の超音波が出るという事のようだ。


 暫く待つとナイフは徐々に発光してきた。これもあとから聞いたのだが、刀身がかなりの高温になっているから発光しているという事だ。触ると危険らしい。そういう注意は最初に言っておいてほしかったのだが……

 鞘は耐熱になっているから納めたままスイッチを入れても大丈夫なようになっているらしい。


 空になった鞘を机の上に置き、ナイフを構えて素振りする。骨折の影響で体力作りができない僕でもできるだろうと、赤井が基本的なナイフの扱い方を教えてくれた。

 それを思い出しながら、動きを体に染み付けるようにゆっくりと素振りをする。

 暫く素振りを繰り返した後、一息つき心を静める。


 次は対人戦を想定して構え直す。こちらも赤井に教えてもらった。

 マーシャルアーツとナイフ格闘術が使えるって、赤井はグリーンベレーにでも所属していたのだろうか?

 想定する相手は黒いスーツの連中だ。赤井に教えられた通りに相手の急所にナイフを繰り出す!

 振り返り、後ろから襲い掛かってきた相手の急所にもナイフを突き刺す! さらにもう一人!


 教えられた通りにやってみた。

 やってはみたが赤井は僕に実戦でこれをやらせるつもりなのだろうか? 急所への攻撃の仕方ばかり教えられたが、こんなもの実際には使えない。それとも使えという事なのか……


 それよりももっと大きな相手を想定して素振りをしよう。相手はゴリラの隊長だ。

 攻撃を掻い潜りナイフを刺す、斬りつける。若しくは味方の振りをして背後から襲い掛かる。

 様々なシミュレーションをしながら、僕はナイフを振るった。




 昼ご飯も済ませ午前のやる気もすっかり無くなった僕は、ダラダラと漫画を読みながら過ごしていた。

 午後2時過ぎ。

 コンコンとノックの音がする。ようやく部屋に人が訪れた。

「はーい」

 立ち上がり扉を開けると威圧感のある体が目の前に立ちはだかる。赤井が珍しく僕の部屋に尋ねてきた。

「おい、トレーニングしに行くぞ」

 突然の誘いだが自室待機を言われているので断ろうと思う。だが理由が理由なのでどのように断ればいいか戸惑ってしまう。それを分かっていたかのように赤井が言葉を続ける。

「村井から話は聞いてるから大丈夫だ。行くぞ」

 それだけ言うと、さっさと先に歩いていってしまう。

 出てもよくなったという事はある程度の方針は決まったのだろうか? とりあえず黙って赤井の後を付いていく事にした。




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