第54話
暑かった。少し歩いただけで汗が滲む。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
店員に人数を伝えると席へ案内してくれた。店内は涼しくポップな音楽が流れている。
案内されながら店内を見回すとほとんど空いている席が無いくらい店は流行っており、夏休みに入っているからだろうか中高生くらいの客も目立つ。客の組み合わせは男女のカップル7割・女同士3割といったところか。各テーブルで会話を楽しみ、笑顔の花を咲かせている。
ここに女一人で入って黙々とケーキを食べるのは確かに難しいかもしれない。桃子が断念したのも納得だ。
「空いてて良かったですね!」
「うん。随分流行ってるね」
僕達も男女で来ているので違和感はないだろうが、普段こういう店に来ていない僕は少し気後れしてしまう。
「どれにします?」
メニューには煌びやかに彩られ皿に盛られたケーキの写真が載っている。これだけで女の人は喜びそうだ。
横に書かれた値段を見ると、こちらもなかなか華やかな金額が踊っている。コーヒーとセットで二千円くらいか。僕の貯金残高でいうと900セット分となる。
「オススメはどれだっけ?」
桃子に尋ねるとバッグから先程見た四つ折の紙を取り出す。
「えーっと、これとこれですね」
さすがにオススメなだけあってメニューの写真も大きく載っている。
「そっか」
じゃあそのどちらかでいいか。それとアイスコーヒーにしておこう。
桃子はまだメニューをパラパラと捲り悩んでいるようだ。
「いくつか頼んだら?」
「いやでも、それだとお腹いっぱいになっちゃうんで……」
桃子はオススメの二つのどちらかにまで絞ったようだが、まだその二つで迷っている。なかなか決まりそうにないので、焦れた僕は桃子に提案する。
「僕がこっち注文するから、桃子ちゃんはこっちにしたら?」
「……そうですね。はい、そうします」
イマイチ納得していないようだが、とりあえず決まったので店員を探す。店員と目が合うとすぐに来てくれた。
「ご注文はお決まりですか?」
カタカナで書かれた長ったらしい名前は読む気になれず指を差して注文する。
「これとこれ、あとアイスコーヒー。桃子ちゃんは何飲む?」
「私もアイスコーヒーで」
「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
店員はフリフリのエプロン風の服装でスカートからは少し太ももが見えている。去っていく店員を思わず目で追ってしまった。今日は女性と居るのだと思い出し慌てて顔を正面に戻すと、桃子はまだメニューとにらめっこしていた。色気など全く感じない……
ある程度見て納得したのかメニューを閉じ脇に置く。
改めてこうやって桃子と向かい合って座ると、何を話せば良いのか分からない。沈黙でいるのも耐えられないので何とか話題を探す。
「そういえばさ、こんな所でする話じゃないかもしれないけど最近事件起こらないね」
「ホントにこんな所でする話じゃないですよ」
桃子は笑顔を作りながら答える。
「もうあれで終わりなのかな」
まだ僕が話を続けると、桃子は真面目な顔になり少し考え込む。
「他の皆はまだ終わってないと思ってるみたいですよ」
「やっぱりそうなんだ。この前村井さんに出て行くことを止められたから、そうなのかなって思ってたんだけど」
「まだ相手の施設も見つかってませんからね」
「施設?」
「これだけの事をやろうと思ったら、ある程度の研究施設と実験プラントが必要になりますから。それを見つけるまでは安心できないと思います」
施設か……
僕も一度はそこへ連れて行かれた事があるのかもしれない。
いつからこんな体にされて、当たり前のように強盗などをやっていたのか記憶が定かではない。
今もそのような人が何処かで増えていっているのだろうか……




