第48話
朝8時。
「そろそろ寝ても大丈夫でしょうか?」
結局夜が明けるまで僕はウロウロしていた。点滴1本分は二時間も掛からずに無くなり、その度に医務室へ小林先生を呼びに行く。二人の点滴が無くなる時間が微妙にずれていたので、その度に医務室との往復をした。
それだけ点滴を打てば当然尿意も近くなる。尿瓶を持って、トイレにも何往復もした。
赤井が喉が渇いたという事でどうすればいいかを小林先生に聞きに行き、氷を舐めさせろというので食堂へ氷を取りにも行った。
バストバンドで固定している効果か痛みは幾分マシにはなっているのだが、肋骨の折れた骨が内臓を傷付けるというのはよく聞くので不安になる。僕は完全に折れているのが三本もあるのに、直後にこんなにウロウロしていていいのだろうか……
二人は時間が経つにつれ見る見る体調が回復していった。普通に話せるようになり、朝には上体を起こせるくらいにまで回復していた。体は辛かったがここまで元気になっていくと看病をした甲斐がある。
「ああ、もう大丈夫だ。休んでくれ」
「はい。じゃあおやすみなさい」
二人に挨拶して布団に潜り込む。
「おう、おやすみ」
「おやすみ」
「うう……」
あまりの痛みに目が覚める。額にはじっとりと脂汗が滲んでいた。
「寝れないのか?」
時間を確認すると一時間くらいしか経っていなかった。眠気はあるがこのままでは眠れそうにない。軽く何か口にして鎮痛剤を飲もう。
「ちょっと食堂行ってきます。ジュース作ってもらいますけど、良かったら帰りに持ってきましょうか?」
「そうだな、じゃあ頼む」
「自分の分も頼む」
「わかりました。ちょっと行ってきます」
寝る時にこんなに辛くなるとは思わなかった。これから何日も寝苦しい夜を迎えると思うと憂鬱になってくる。
食堂に入りキッチンに向かう。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
朝食の時間なので少し忙しそうだ。
「またジュース作ってもらっていいですか? 三人分なんですけど」
「三人分? 誰かに持っていくの?」
「昨日から赤井さんと青野さんの看病してまして。今から痛み止め飲んで寝るところです」
「大変だね。あっ、ついでに桃ちゃんにも持って行ってあげてくれない?」
「はい、いいですけど桃子ちゃんって今何処に居るんですか?」
「何処かの病室に居ると思うから探してくれる? 赤井さんが飲めるようになってるなら桃ちゃんも大丈夫だろうし」
桃子ちゃんは病室に居るのか。そして赤井さんが飲めるなら桃子ちゃんも飲めるのか……
最後の一人が誰なのか怖くて確認できなかったが、やっぱりそうなのか……
昨日と同じくジュースで鎮痛剤を飲み、残り3つのグラスをお盆に載せ病室へ運ぶ。
廊下を歩いていると、僕が昨日まで愛用していた個室の病室から女性の研究員が出て行った。ここは僕が移動して空きになったばかりなので、新しく入った人が居るなら彼女しかいないだろう。
「はーい」
コンコンとノックすると元気な声が返ってくる。
「前田だけど入っていいかな?」
「はい! どーぞ!」
扉を開けると笑顔の桃子がベッドに座っていた。
「体調はどう? 大丈夫?」
「はい! もう大分回復してきました!」
確かに元気そうだ。他の二人よりも随分元気に見える。体格の違いも関係しているのだろうか?
「長沢さんに頼まれてジュース持ってきたよ。飲める?」
「ありがとうございます! 丁度喉が渇いてたんです!」
グラスを一つ渡してあげる。
「あの、あと二つは?」
「これは赤井さんと青野さんに。昨日から僕が二人の看病してて」
「そうなんですか。お二人は怪我とかされてないですか?」
「青野さんが肋骨にヒビが入ってるみたいだけど、二人とも元気そうだよ。昨日運ばれて来た時は心配したけど、もうジュースも飲めるくらいまで回復したし大丈夫だと思う」
「そうですか。皆無事で良かったです!」
桃子の屈託の無い笑顔が眩しい。
「キミの目の前にいる男が一番重傷なんだよ」とはとても言えなかった……




