第44話
車に乗り込んだ僕はふぅ、と一息つき座席に座る。ナイフをお腹から出し隣に置く。
痛みはあるが疲労感と安堵感に包まれ心地よい。もう動けない……
車が走り出した。
「ねえ、あそこで一体何があったんだい!?」
グッタリしていた僕の肩を掴み、ガンガン揺すってくる。抵抗したいが体に力が入らない。
「話すんで離してください。体ボロボロなんです……」
「あっ、ゴメン。それで?」
ようやく開放された。
「村井さんってどこまで把握してるんですか?」
「外から偵察してる人から連絡はもらってて、爆発が起きたって聞いたんだけど」
「はい。ゴリラの隊長が致命傷を負わされたなって思ったら体が光り出して、それが爆発だったんだと思います。気付いたら粉塵に包まれてて大変でしたよ」
「そっか、ゴリラは倒せたんだ。でも爆発するって随分と過激だね!」
隊長の両腕を切り飛ばした警察も大概だと思うのだが……
さて、僕も気になっていた事に触れるとしよう。
「それにしてもあのナイフの切れ味、凄いですね」
先程隣に置いたナイフを掴む。
「凄いでしょ! どう? 役に立った?」
役に立ったのだろうか? 一回ガードに使ったが無くても良かった気もする。
「まぁそれなりに……」
「それは良かった! 持たせた甲斐があったよ!」
村井は嬉しそうなので、まぁいいか。
「隊長に対して最初に刀で切りかかっていったときは簡単にへし折られてたのに、発光してからはあっさり刀が通ってましたよ」
「最新技術使ってるからね! やっぱり普通の刀は通用しなかったか。一応試してもらったんだけど」
村井はそうかそうかと頷いている。
ここからが核心だ。
「武器も凄いですけど、あの人達も凄いですね」
「あの状態になるのって体に負担が掛かるから、相当大変だと思うんだけどね。赤井さんには感謝だよ」
いきなり名前が出てきた……
「やっぱりあれって赤井さんですよね?」
「そうだよ。すぐに判った?」
「すぐには判らなかったですけど、他の二人を見てそうかなーって。それより教えといてくださいよ!」
「あんまり公にできない事だから仕方なかったんだよ。前田君ってまだ信用されてないし」
村井はニヤニヤしながら言う。
結構ショックだ。命がけで戦ってきたのに……
村井は僕が傷付くだろう事を分かっていて言ったのだろう。
「そうですか。じゃあ仕方ないですね」
平然とした態度で応じてやったが村井はニヤニヤしている。腹の立つ野郎だ。
「赤井さん達は僕の事、知ってたんですか? 危うく殺されそうになったんですけど」
「ハハハッ、それは大変だったね」
ついに声を出して笑い出しやがった。
「笑い事じゃないですって。殺すつもりは無かったかもしれないですけど、一歩間違えば死んでましたよ」
「赤井さん達には言ってなかったんだけど、それは仕方がなかったんだよ。前田君が相手に混じってるってなったら動きが制限されるかもしれないだろ? 手加減なんかしてる余裕ないだろうっていう事になって秘密にしておいたんだ。相手にバレたらキミがゴリラに襲われるかもしれないし」
その話を聞くとなんとなく納得してしまう。確かに隊長にバレて襲われるのが最悪か。
でもそうなると、どちらにしても僕が危険な事は確定していたのか……
「それに前田君が一番元気そうじゃない。あそこの爆発から逃げ出してきたのキミだけだと思うよ」
「いや、元気ではないんですけどね。赤井さん達は大丈夫なんでしょうか? 爆発の時、一番近くに居てましたけど」
「現場は騒然としてるみたいで連絡は来てないんだけど、建物を吹き飛ばすほどの爆発じゃないみたいだし大丈夫じゃないかな。すぐに病院から連絡が来るとは思うけど」
ホントに大丈夫なのだろうか?
右を向き窓を見る。外を眺めたいが、スモークの入った窓に映るのは気の抜けた僕の顔だった。