第42話
隊長は倒された。仲間達もほとんど重傷を負っているだろうし、外には警察官の声もしていた。
もう自分は居なくても大丈夫だろう。
関係の無い自分がここにいる事によって何か問題が起きる可能性もある。
ということで早くここから脱出しなければ!!
店内に残っている人達なんて自分には関係ない!!
窓から飛び降り、出てきたばかりの建物を確認すると今にも倒壊しそうだ。正面の塀に手を掛けて顔を少し出す。視覚と回復してきた聴覚を研ぎ澄ませ辺りを探る。
表の通りには、やはり人が多いようだ。爆発の只中にいたのでどれ程の規模の爆発だったのかよく分からないが、外から見ても何かが起こったであろう事が分かるので野次馬が集まってきているのだろう。
クソッ、暇人共め! 邪魔しやがって!
2つ隣の建物がマンションになっている。何とかあそこに逃げ込んで姿が元に戻るのを待とう。このまま塀を越えていけばあまり目立たずに行けるだろう。多少見られるのは仕方ない。
よしっ! 行ってしまえ!
塀に手を付き一気に飛び越え、隣の建物の敷地に着地する。目の前の建物を回りこみマンションとの区切りの塀も同様に飛び越える。
左右を見回すと左手に人の影があるが背中を見せていてこちらには気付いていない。右手には外からマンション内に入れる階段が見える。
その階段に猛ダッシュして駆け上がる。一つ折り返した後は外から見えないように腰を屈め、コソコソと上がっていく。
3階と4階の間の踊り場まで上っていき、息を潜め耳を澄ます。ここに来る途中で誰かに見られたかもしれないので誰か近づく気配がないかを慎重に探る。
1分程経過しただろうか。
相変わらず外の通りからは警察・野次馬の声がしているが、ここに近づく気配は無いように感じる。
姿が戻るまでの時間もそれほど残っていないだろう。
疲れた。もうここから動く気力が無い……
もし姿が戻る前に見つかってしまったら仕方が無い。やりたくはないが自分は警察の関係者なので正当防衛させてもらおう。
もう逃げる元気が無いのだから仕方が無い……
階段に腰を下ろす。なおも耳は澄ませているが近づく気配は感じられず、徐々に気が抜けていく。
あの人達は何だったのだろうか? あの体のサイズは普通ではない。隊長も煙に包まれてから体のサイズが変化していたが、警察も同じような技術を使ったのだろうか。
足に付けてあるナイフに触れる。
それにあの武器。最初に刀の男が攻撃したときはあっさり折られていたのに、発光してからの切れ味は全く違っていた。
足のナイフを引き抜く。そういえば使う時はボタンを押せと言っていたが。
2つ付けられているボタンをカチッカチッと同時に押してみる。
キーーン!
僕は軽く顔をしかめ我慢した。
そういえば発光しだす前にもこの耳障りな音が鳴っていた気がする。もしかするとこのナイフも……
しばらく待つとナイフが徐々に光を帯び始める。
やっぱりだ。このナイフも同じような武器だったのか。
光るナイフを持ちながら腕を上下にブンブンと空中を切りつける。綺麗なもんだなぁと思いながらクルッと逆手に持ち替え、階段に突き立ててみる。
サクッ!
あっさり刺さってしまった。階段をコンコンと叩いてみるがコンクリートだろうか? 普通に硬い。
階段の角の部分を切ってみる。
サクッ、サクッ!
バターを切るみたいに、簡単に三角に切り出せてしまった。
光るナイフを近くでまじまじと見る。
危なかった! 危うく警察の人間に向かってこれを使うところだった。そうなれば今度こそ逮捕されていたんじゃないだろうか……
今更、冷や汗をかきつつナイフのスイッチを押す。すると音が止み、徐々に光が消えていった。
一息つきナイフを納めると足元から煙が噴出した。
ようやくか……




