第38話
残った僕と青竜刀の男が向かい合っている。
この男はもしかしたら僕が警察の協力者だと気付いているという事もある。その可能性もないとは言い切れない! そうであれば……
じりっ。
青竜刀を構え、詰め寄ってきた。
話が違う! 何でこんな事に! 村井が言っていた協力って何だったんだ!
男が横薙ぎに僕を狙う。下がって避けると一歩踏み込み袈裟斬りに青竜刀を振るう。
ガキンッ!
ギリギリしゃがんで躱す事に成功した。叩かれた地面が割れ破片が飛び散る。
「クソッ!」
危なかった! しゃがんで避けるのは不味い! 頭を掠るように際どく躱したが、もう少し避けるのが遅ければ頭がグシャグシャになるところだった。まあ避けなければ肩がグシャグシャになっていただろうけど……
男は僕が連続で躱した事で警戒を強める。一度大きく息を吸い構え直す。
僕は桃子と対峙していた事を思い出していた。あの時は当たっても何ともなかったのに、今は一回当たるとそれで終わってしまう。良くて骨折、当たり所が悪ければ……
緊張で体が硬くなる。呼吸が浅くなる。
あの時とは全然違う。相手は禍々しい青竜刀、こちらは素手……
右手が太ももに付けられたナイフに触れる。
使うのか? それじゃ何のために渡されたのか分からない。一瞬逡巡する。
その一瞬の隙を見抜いたのか男の振るった青竜刀が、僕の右側から横薙ぎに襲い掛かる。
ほとんど無意識だった。逆手で引き抜いたナイフの腹を左手で押さえ体の脇に固定する。
キィィン!
よしっ! 防いだ!
そこを青竜刀が直撃しガードすることに見事成功する。
と思ったのも束の間、曲げていた膝が立ち、ナイフを持っていた手が体に食い込む。体がくの字に折れ曲がり、足が浮く。僕の体が一気に加速していき、加速が終わった時にようやく青竜刀が体から離れた。
「イー」
僕は情けない声を出しながら飛ばされていき壁に激突した。
ゲホォッ!
背中から壁に激突し肺の中にある酸素が全て吐き出される。大丈夫、痛みは無い。だが呼吸ができない。吸う事もできない。苦しい!
依然として呼吸が戻らぬ状況で、目だけを動かし男の事を確認する。男はこちらの事をじっと見ていた。
こいつには勝つ事はできない!
痛みが無い事で思考は冷静に働いている。このまま気絶した振りをしよう。
ザッ!
何故だ! 何でこっちに来るんだよ!
さっきまで倒した奴も事なんて見向きもしなかったくせに!
このまま近づかれたら避ける事もできなくなるぞ!
とりあえずあと一歩近づくまでは様子を見よう。
ザッ、ザッ!
一気に二歩近づきやがった! ちょっと待てよっ!
僕はパニックになってしまう。
どうすればいいんだよっ! 誰か助けてくれっ!
「終わったか?」
ホールから声が掛かる。
「はい。終わりました」
青竜刀の男は僕に背を向けホールの方へ歩いていく。
助かった。目は背を向けた男を警戒しつつ、ゆっくり呼吸を再開する。
呼吸をするたびに体に力が戻ってくる。軽く手足を動かしてみるが問題はなさそうだ。痛みが無いだけで怪我してるかもしれないけど……
「ナカナカヤルジャナイカ」
隊長は窓口の奥でニヤニヤと笑っている。
「オ前ラモ行ケ」
「イー!」
隊長の側に居た数人の仲間にも命令し、残った仲間たちが全員ホールに集い三人と対峙する。
三人の内、刀を差した男が一歩前に出る。腰に下げた二本の刀をそれぞれの手で抜刀し二刀を構える。
「自分がやります」
構えた刀をくるっと反転させ峰を下に向ける。こちらも殺すつもりはないという事なのだろう。
残り二人は何も言わずに見守っている。
相手は10人くらい残っているはずなのに手伝わなくて大丈夫なのだろうか?
様子が気になるが、ここからでは少し見難い……
「イー!」
「イイー!」
仲間達は人数が多いからか元気がいい。
対して二刀の男は静かに構えながら間合いをはかっていた。




