表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘員A  作者: 甲斐祐樹
正義と悪の戦い
35/73

第34話

「ところでこのナイフ、どうやって持ち歩くんですか?」

「どう? どうとは?」

「いやいや、こんなの持ち歩いてたら目立ちますよ!」

 村井は改めてナイフを装備した僕の全身を見回す。

「目立つかなぁ? 案外分からないんじゃない?」

「そうですか? これファッションの一部っていうのは無理があると思うんですけど。もし警察に見つかった場合は今からの事を言えばいいですか?」

「君の事は秘密にしてるんで、それじゃダメだね。紙袋で持っていく?」

 先程ナイフが入っていた紙袋を渡される。

「でも集まる時って皆手ぶらで来てますから、これじゃ目立っちゃいますね」

「そうなの? 持ち運びの事は考えてなかったな……」

 こんな物騒なものを持たせといて考えてなかったって。


 服を捲り上げてお腹の所からジーパンへナイフを刺し、服の下へ隠してみる。さらに上着のシャツのボタンも閉める。

「うん、それでいいんじゃない」

 こいつの言う事は信用できないが、紙袋を持っていってあいつらに怪しまれるよりはいいかもしれない。警察に見つかった場合は連行されて後から迎えに来てもらおう。どうせ僕が作戦に参加できるかは5割しかないんだし。

 それにナイフなんか隠し持ってるなんて普通は考えないだろう。足に付けたナイフホルダーはこのままでもいいか。

「はい。もうこれで行きます」

「そのナイフなんだけど変身する前に足のホルダーに付けといてね。そうすれば変身しても黒いのに包まれずに使えるようになってるはずだから」


 車が停車し運転手が降りる音がする。

「着きました」

 後部座席のドアが外から開けられる。

「じゃあ前田君、よろしく頼むよ! 15時にまたここに迎えに来るから」

「はい、分かりました」

 車から降り辺りを見回す。初めて来る場所なので位置関係がよく分からなかったが、右前方に駅のロータリーが見える。

 駅の位置を確認して振り返ると車はゆっくりと動き出し、僕を一人残して走り去っていく。

 僕は一度大きく呼吸をし、気合を入れて駅の方へと歩き出した。


 現在の時刻は11時40分。

 貰っていた千円をポケットから取り出し券売機で切符を買う。目的地まで260円だったのでおつりの740円をまたポケットにしまいホームへ向かった。ホームへ着いてからは出来るだけ端の方に立つ。

 その間もずっとお腹を凹まし、なるべく目立たないようにした。

 ホームに目的地へ向かう電車が到着する。

 乗り込み車内の状況を確認すると空席が目立ち、立っている客など居ないが座ってしまうとお腹の膨らみが目立つためドアにお腹を付ける姿勢で立ち外を眺める。




 今、僕は強盗団の逮捕に協力するために電車に乗っている。

 この一連の強盗・空き巣事件では怪我人は多数出ているが死者というのは出ていないという。

 一連の事件の犯人より、その事件の協力の為とはいえ電車内にナイフを持ち込んでいる僕の方が危険な人間なんじゃないだろうか?

 本当にこのナイフを使うような事になってしまうのだろうか……


 目的の駅に到着した。ここから徒歩5分の位置に住之江信用金庫がある。

 車内で確認した地図の通りに歩き、すぐに目的の建物を見つける。今は昼時だからか人通りはある程度見られ信用金庫にも人の出入りが見られる。

 店内の様子も確認したいがさすがにナイフの持ち込みは禁止されてるだろうと思い、通りの反対からチラリと確認だけしてその場を離れる。

 途中見つけた自販機でスポーツドリンクを買い、人通りの少なそうな路地へ入り一口飲む。


 本当に今日ここで事件が起きるのだろうか?

 大丈夫なのだろうか?

 数ヶ月前、意識せずに日常に組み込まれていた事なのに。

 当たり前のようにやっていた事を今日一回やろうとするだけで、ものすごく違和感を感じる。




 12時50分。

 心を決める。

 何も起きなければ何処かで時間を潰して帰ればいい。

 

 服を捲り上げナイフを取り出し、足のホルダーに装着する。


 本当に起きたときは……

 自分の出来る事をしよう。


 装着したナイフを10cm程引き抜き、再び納める。


 さあ行こう!

 飲み終えたペットボトルをその場に置き、路地から出て店の前に向かう。

 店に近づいた僕の左手が疼き出し、僕は懐かしさと緊張を同時に感じる不思議な気持ちになった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ