第33話
「準備は出来た?」
「はい」
部屋でストレッチをしていると村井が呼びに来た。
連れだって歩き建物の外へ出る。
外には窓ガラスにスモークの入ったワゴン車が止まっていた。
「よし、行こうか」
車の中で待機していた運転手に声を掛け、ドアを開けて乗り込む。それに続いて僕も乗り込んだ。
車に乗って気付いたが、中からも外が見えないようにスモークが入っている。後部座席と運転席の間には仕切りがあり、ここにもスモークが入って運転席の様子が見えないようになっていた。
すごい閉塞感がある……
「何ですか、この車?」
「ここを出入りする時は情報漏洩防止の為に一応ね」
「そんなにやましい事してるんですか?」
「ハハッ、まぁ色々あるんだよ」
笑っているが本当にやましい事をやっていそうだ。あまり突っ込んで聞かない方がいいかもしれない。
村井はコンコンと運転席との仕切りをノックする。車が動き出した感じがする。
「じゃあ今日の予定を話そうか」
改めて今からの事を考えると、自分の中で緊張感が高まってくる。
「お願いします」
「まず場所なんだけど、昨日の地図から合致する所が2ヶ所ある事が分かったんだ」
昨日聞き逃したせいで場所が特定できなかったのか。まぁ知ったこっちゃないので気にしないでおこう。
「2つの場所はそれほど離れてないから警察は中間地点で待機して、やつらが行動を起こした方に駆けつけるっていう流れになる予定だから」
「そうですか。あれ? 僕って今駅に向かってるんですよね?」
「うん、どうするか迷ったんだけど前田君には自然に相手に混じってもらいたいから、この内の一つに向かってもらう事にした。正直5割でキミが参加出来なくなるのは痛いんだけど……」
頼りにされてるようで少し嬉しい。
それに5割で参加しなくてよくなるかもっていうのも少し嬉しい。
村井が車に積んであった紙袋から地図を取り出し広げる。
「今この車が向かってるのがこの駅で、キミに行ってもらうAの住之江信用金庫まで15分の距離の所で降ろすから。やつらがどっちに行くか分からないけど、どちらにしても15時にまたこの駅に帰ってきてもらっていいかな?」
「はい、分かりました」
村井は財布から千円を取り出す。
「はいこれ」
「あ、はい」
千円か……
「あとこれ」
紙袋から取り出した物を僕に渡す。受け取った僕は、手に嫌な重みを感じ顔をしかめる。
スーー。
グリップを掴み、納められた鞘から引き抜くと銀色に輝く刀身が現れた。
「これ……」
渡された物は刃渡りが20cm程あるコンバットナイフだ。
村井の顔を見ると目が合う。
「使う時はここと、ここのボタンを押してから使ってね。今押しちゃダメだよ!」
よく見るとグリップのところにボタンが2つ付いている。
「いやいや、使う時って……」
「あのゴリラと戦うのに、素手じゃ何の役にも立たないでしょ」
確かに素手じゃ隊長には何も出来ないだろう。だがこんなナイフをいきなり持たされて、どうすればいいのだろうか。
「あくまで前田君にはサポートをしてもらうだけだから。念のために武器ぐらい持っていた方が心強いでしょ? それにそんなナイフじゃあのゴリラは致命傷にもならないから気にせず使って」
そう言われるとそんな気がする。さすがに素手で隊長に立ち向かうと逆に殺されてしまう。
「はい、あとこれ」
さらに紙袋から取り出す。
足に付けるナイフホルダーだ。
受け取り自分の右足の太ももに付けてみる。さらにそこへナイフを固定する。
「これでいいのかな?」
「うん、大丈夫! そのナイフホルダーはスーツに変身しても影響ないようになってるから、そこに付けといてね」
若干揺れる車内で立ち上がり、村井に気を付けながら太ももに付けられたナイフを引き抜く。
スーー。
一度鞘に納め、今度は素早く抜刀し構える。
シャッ!
やはりナイフは逆手に構える方が格好いいのだろうか?
試してみる。
シャッ!
ちょっと良い感じだ!
色々と試しているの僕を村井はニコニコしながら眺めていた。




