第26話
シュー!
時間が来た。
煙が晴れ、脇においていた棒を掴み体育館の中央へ向かっていく。
桃子もそれを確認すると、同じように脇に置いていた薙刀を掴んで立ち上がり、体育館の中央へ向かった。
ブンッ! ブンッ!
僕は歩きながら素振りをした。
先程とは棒の重さが全く違うように感じる。素振りの風切り音も全く違う。
相手が女性だという事を自身の中で確認し、やり過ぎないようにと勝手に高まっていく気持ちを押さえ込む。
「始めようか」
ある程度の距離を空け向かい合っていた僕と桃子は、村井の声を聞きお互い一礼する。
「お願いします!」
「イー」
桃子は薙刀を両手で持ち、体の右側を前にして斜に構える。
その構えのまま左に少し動く。
今度は体の向きを変えて左側を前にし、薙刀を流れるように持ち替えると右に少し動く。
僕は薙刀の攻撃というものがよく分からなかったので、右手で棒を持ち左手も前にして警戒する。
桃子が一歩間合いを詰め、薙刀を立てて構えた。
緊張感が増す。薙刀の動きに集中する。
ブンッ!
薙刀が弧を描き、横から僕の胴に襲い掛かる。
バシッ!
自身の胴に当たった衝撃を感じた瞬間、僕も一歩踏み込み桃子の頭を叩く。
ポコッ!
お互いに一発ずつ入れた後、距離を取り睨み合う。
桃子は再び構えを変えながら牽制し、今度は逆側の胴を狙う。
バシッ! ポコッ!
また先程と同じように、お互い一発ずつ入れた。
その様子を見た村田が声を掛ける。
「ちょっと前田君! ちゃんと避けないと!」
「イー?」
僕は少し頭を傾け考える。
避ける?
薙刀で叩かれても怪我はしないだろうと思って、守らず攻めにいっていたがダメだったらしい。
「防御は持ってる棒と手のひら・足の裏だけにして、あとは全部回避するようにしてね!」
「イー」
僕は頷き、構え直す。
とりあえず打ち込む事は考えずに避ける事に集中しよう。
桃子が振り回すたびに軌道を見極め躱していく。
「ハァッ! ハァッ!」
徐々に気合が乗ってきたのか、声を出しながら打ち込んでくる。
桃子は薙刀を立てた構えから、先程と同じく横薙ぎに胴を狙う。
僕がバックステップで躱すと、今度は逆方向から足を狙う。
さらに後ろに下がりつつジャンプで躱す。
それを読んでいたかのように、桃子は胴に突きを繰り出してきた。
パシッ!
前回青野の突きを掴んだ時と同様に左手で薙刀を鷲掴みにする。
下がりながら掴んでしまった為、思わずその手で引っ張ってしまった。
「きゃっ!」
バランスを崩した桃子が僕の胸に飛び込んでくる。
ポフッ!
やさしく抱きとめてあげる事に成功した。
「大丈夫?(イー?)」
ドンッ!!
後ろに一歩二歩と後ずさる。
離せとでも言うようにすごい勢いで右腕を突き出し、桃子は離れてしまった……
その後も間合いを空けしっかり見極め避けていたが、慣れてくると反撃したくなってくる。
このスーツを着ていると、やはり攻撃的な気持ちになってしまうようだ。
チャンスがあれば弾いて反撃してやろうと、棒を持つ手に力がこもる。
上段からの振り下ろしを外側へ弾いてやり、一歩踏み込んで桃子を叩く。
ポコッ!
そこからは桃子からの攻撃は確実に躱しつつ、逆に攻撃する回数を増やしていった。